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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
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「この美少女は誰ですか?」2

「ひえっ!?」


 初めて見る女の子の裸に、俺は思わず変な声が出てしまい、あたふたしていた。

 そして、木の根っこに足を引っ掛け、彼女の前にその姿を現してしまった。


「ーーーーっ!! きゃああぁぁぁ!!!」


 物音に気付いた彼女がこちらを振り向き、さっきまでの歌声とはうってかわって、甲高い叫び声が響き渡る。

 こちらを向いた彼女は、白く透き通った肌で、背は標準的な女性よりはやや高め、白い長髪が腰のあたりまで伸びていて、先程のゴブリンのように、少し変わった耳。整った目鼻立ち。無色透明の、さながらダイヤモンドのような美しさの瞳。ーー美少女だった。そして、可もなく不可もない、むーーなんて見たことを淡々と述べている場合ではなかった。


 彼女は左手で胸部を隠しながら、なにやら唱えているようで、右手が光り輝き始めていた。

 これは、やばいーー。そう直感した俺は思わず回避した。

 次の瞬間、先程まで俺がいた場所、すなわち、今の俺の数センチ横を、物凄い勢いで火炎が通り過ぎた。

 火炎が通った地面はえぐり取られ、まるで一本のレールのような直線が少し先まで続いていた。なんて威力だ。反応が遅れていたら、俺は今頃消し炭になっていただろう。


 なんて思っていた折、彼女が、


「み、見たでしょ!?」


 と、あわてふためきながら問いかけてきた。まだ顔からは赤みが引いていない。それに対して俺は、


「み、見てません!」


 なんて言えるはずがなかった、この状況で。現に、見てしまっていたしな。だから、咄嗟に、


「み! 見たけど⋯⋯その、ほら! ここ、霧がかってるから、はっきりとは見てないというか⋯⋯見えないというか⋯⋯」


 必死だった。現に、この森が霧がかってるのは嘘ではなかった。ただ、しっかり隠してくれるほどの役割は果たしてくれていなかったけれど。


「そ、そう⋯⋯」


 納得してくれたようだ。


「と、ところで⋯⋯」


「⋯⋯? ところで?」


「いつまで見てるのよっ!」


 自分の疑いを晴らすのに躍起になっていて、すっかり目の前の状況を忘れていた。彼女は今、何も着ていないということに。


「わ、わるい! すぐどくから!」


 その時だった。


「姫様! ご無事ですか!」


 茂みから出てきた七、八人に及ぶそれはーー小人に見えた。 いや、だが、背中には羽が生えている。


「え。えぇ⋯⋯私は大丈夫よ」


 姫様? この子が? そして、こいつらは? 状況の整理が追いつかない俺に対して、姫様と呼ばれる彼女の無事を確認した兵隊、と言うべきか? とにかく、そいつらは、俺の方に向かってきた。


「生きて帰れると思うなよ」


 先頭にいたリーダーらしきやつがそう言い、敵意むき出しで武器を構える。

 やるしかないのか。ここで。だが、これだけの数を相手に、果たしてレベル二がどうこうできるのだろうか。


「やめなさい!」


 この状況にどう対応するか策を練っていた俺の耳に、その声は飛び込んできた。


「こ、これは事故なの! それに私の不注意でもあるの!」


「しかし姫様⋯⋯」


「私は別に何もされてないわ! むしろ危害を加えかけたのは私の方! だから、その人を攻撃するのはやめて!」


「⋯⋯わかりました」


 納得し難い様子だったみたいだが、そう返答した先頭の指示で、全員が武器を下ろした。


「命拾いしたな。少年」


 そう言って彼らは帰っていった。一体何なんだ、この姫様と呼ばれる子や、さっきの兵隊たちは。

 俺は図鑑を開いて確かめてみるが、図鑑には載っていない。敵ではないのか?

 図鑑を閉じ、俺は彼女の方を向く。助けてもらった礼は言わないとな。


「さっきはありがとな。おかげで助かったよ」


「⋯⋯べ、別に! さっきも言ったけど事故で、私の不注意だから!」


 一時はどうなることかと思ったが、どうやら、悪いやつではないみたいだ。

 むしろ、命を助けてもらった恩人⋯⋯いや、待てよ。そもそも襲ってきたのはこの子の兵隊で、そいつらが来たのは、この子が湯浴みしてたから⋯⋯いや、でも俺が見たからで⋯⋯そもそもなんで見たんだっけ? そういえば、歌声が聴こえてきて⋯⋯その歌声も思い返せば、この子のものだよな⋯⋯でもつられてきたのは自分で⋯⋯なんて、自問自答していると


「ーーあのさ」


 彼女が話しかけてきた。


「ん? どうした? いやー、それにしても何だったんだ? さっきのやつら。危うく死にかけるところだったよ。」


「だから⋯⋯」


「⋯⋯ん?」


「いつまでそこにいるのよっ!!」


 そう言うと彼女は先程の火炎をくりだした。


「うわっ!」


 すかさず回避した俺の横を、またもや火炎が通り過ぎる。こうして、俺を中心に電車道が作成された。


「ーーちょっと、その辺で待ってて。すぐ行くから」


 しばらくの静寂の後、そう言った彼女に言われるがまま、木の茂みへ向かう俺。その時何を血迷ったのか、


「ま、まぁ、気にするなよ! きっとこれから成長ーー」


「ーーっ! ばかああぁぁ!!」


 こうして、墓穴を掘った俺は彼女の火炎をその身に受けた。

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