「バトルロイヤルですか?」14
それから、俺とロマンは話し合った。
「まずあいつのあれは、何かしらの異質な能力と考えていい。魔法の素振りもないし、それに何より、自動で備わっているものならさっきのライトニングを避ける必要はない」
「ええ、同感です。それで、その能力の内容ですが⋯⋯」
「ああ。最初はいくつか候補があった。まずは"消滅"。これはロマンのあれだな。だが、この考えの場合、矛盾が生じる」
「エルさんの⋯⋯フレイムですね?」
「それが一番分かりやすいな。仮にやつの能力が"消滅"ならフレイムだって消せばいいはずだ。それに他の、ライトニングとかもな。そう考えると"消滅"ではないことになる。となると、次に考えるのは⋯⋯」
「"方向操作"⋯⋯ですか」
「そうだ。これはフレイムなんかの時にやってたあれだな。だが、これも同様、ロマンのあれを消すのとは辻褄が合わない。よって、"方向操作"の線もなしだ」
その時、二人の会話にエルが割って入ってきた。
「でも、"消滅"と"方向操作"、その両方が使える可能性はないの?」
「いや、それはおそらくない」
「どうして?」
「フレイムをわざわざ方向を変える必要はないということですよ、エルさん。消せば事足りることですから。それに、さっきのライトニング、ですか? そちらにも同じことが言えます」
「ロマンの言う通りだ。もちろん、わざとやってみせてるってのも考えたが⋯⋯一つ、そのどちらにも当てはまらないものがあったんだ」
「それって一体⋯⋯」
「俺のスプーンだよ。俺のスプーンは消されてもいなければ、方向が変わってるわけでもない。ただまっすぐに戻ってただけだ」
「え? どういうこと? それも"方向操作"じゃないの?」
「違う。よく考えてくれ。俺はスプーンを曲げてからは何もスプーンに力を加えていない。つまり、曲げる時の方向は変えることができても、その後、どこにも力が働いていないスプーンの方向を変えるのは無理ってわけだ」
「あっ、たしかにそうね」
「つまり、そこから導き出される結論は⋯⋯」
「"事象の変更"。というわけですか」
「ああ。詳しくは分からないが、おそらくそれに近いものと言っていい。ロマンが"召喚した"という事象を"召喚していない"という事象に。エルのフレイムが"当たる"という事象を"当たらない"という事象に。そして、俺のスプーンが"曲がった"という事象を"曲がっていない"という事象にだ。消えたり曲がったりしたのはおそらくその副産物的なもの。事象の変更に伴う修正的なものと考えてくれればいい」
「なるほど、それなら辻褄が合いますね」
「あとは攻略方法だが⋯⋯その前に、今の所分かっている弱点は二つ。"物理攻撃には効かない"ことと"気付かなければ効かない"こと。一つ目に関してはロマンも心当たりがあるはずだ」
「そうですね、ありとあらゆる物理攻撃は全て回避か防御で処理していました。ですが、二つ目は一体いつ分かったのですか?」
「⋯⋯さっきバースのやつが俺を蹴った時、一瞬動きが止まっただろ? あれは俺がライトニングで止めたんだ」
「ライトニング⋯⋯? エルさんが使っていたものと同じでしょうか」
「まあ、驚くのも無理はないかもな。俺のはーー」
「ユウは静電気程の微弱な電気しか出せないのよ。ライトニングなんて呼べないくらいの電気しかね」
「⋯⋯一言余計だ、エル。だがまあ、そういうことだ。俺は静電気程度の電気しか出せない。今回はそれが役に立ったんだがな。⋯⋯そこでだ。エルのフレイムは通じなかったのに俺のライトニングは通じた。なぜだと思う? それはおそらく、能力を使ったかどうか。そして、その能力はバースが気付かなければ使えない⋯⋯いや、"リバース"と言わなければ発動しないんだ。それをふまえてのここからの作戦だが⋯⋯」
「少しいいですか? ユウさん」
いざ、作戦の内容を伝えようとした時だった。
それを遮るようにロマンが口を開く。
「どうした? ロマン」
「いえ、その、"召喚"というのはやはり先程の⋯⋯」
顔こそ見えないものの、深刻な面持ちでそう言うロマン。
やはりロマンには、言えない、聞いて欲しくないことなのだろう。
俺は、ロマンの心中を察して、何気ない表情で言う。
「ああ、そのことか。⋯⋯別に気にしちゃいないよ。ただ、"召喚"って言葉がロマンの不思議な力にぴったりだと思っただけだ」
「⋯⋯そうですか」
「それに⋯⋯」
「⋯⋯?」
「別に何者であろうと、ロマンはロマンだろ? 俺達のチームのな」
「そうよ! 小難しい事はよく分からないけれど、あなたは小生意気なロマン。それは違いないわ!」
エルなりにフォローしたのだろう。いや、フォローか? これ。
「ユウさん⋯⋯エルさん⋯⋯」
「その事は話したくなったらでいい。とにかく今は、優勝するのが先だ」
「⋯⋯はい、そうですね。すみません、時間をとらせてしまって」
そう言うロマンは、さっきに比べて、少しだけ気持ちが軽くなっているように思えた。
「それじゃあ、作戦について話すぞ? まずーーーー」
話し終えると、俺達三人は立ち上がる。
もちろん話し合いの途中も相手の動きには気を配っていたが、バースは俺達が話を始めてから今まで、一歩も動かなかった。残りの二人に関しても、開始直後から動いていない。
バースは俺達が立ち上がったのを確認すると、問いかけてくる。
「話し合いは終わったのか?」
「へぇ⋯⋯待っててくれたってわけか、律儀なやつだね。叩ける時に叩いておかないと痛い目みるのはお約束だぜ?」
「はっ! 言ってろ。どうやったって俺が勝つんだ。だったら少しでも楽しみたいだろ? ⋯⋯それに俺は、お前の全てを打ちのめして勝つんだ。万策尽かしてやるよ」
「そうか⋯⋯後悔してもしらねぇぞ!」




