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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
30/55

「バトルロイヤルですか?」11

「な、なんだよこれ⋯⋯」


 目の前にはたくさんのミイラのような怪物。

 全身は焼け焦がれたようになっていて、その体には包帯が巻かれている。

 さらに、地面から出てきた影響だろうか、砂がところどころ付着していた。

 だが、俺はこの怪物に見覚えがある。

 見覚えがあったというよりついさっきまで見ていた。というのが正しいか。

 その怪物の手は⋯⋯紛れもなく俺が見たあの手と同じだった。


 怪物はその後もどんどん増えていき、


「こりゃすげぇな」


 その光景にはバースも口を開く。


「驚いていていいのですか?」


 ロマンの指示とともに怪物達は先頭を皮切りに、どんどん現れてはバースに向かって襲いかかる。

 しかし、


「あぁ? 心配いらねぇよ。だって⋯⋯こうすりゃ終わりだからな! リバース!」


 その瞬間、全ての怪物が跡形もなく消え去った。

 体に付着していた砂だけが風に飛ばされ、砂煙となる。


「はっはぁ! 時間稼ぎにもなりゃしねぇよ!」


「いえ、そんなことはありません」


「あぁん?」


「きゃあっ!」


 その時バースの背後、やつのチームメンバーの方から声がした。


「あなたには通用しないかもしれません。ですが、後ろの二人はどうでしょうか」


「はっ、そういうことか」


 バースはロマンに向けていた視線を後ろに向ける。


「だが甘ぇ。リバース」


 手を二人の方にかざしてそう言ったバース。

 すると、二人の足元から襲いかかっていた怪物の手は消えて無くなった。


「この力は俺だけに使えるわけじゃねぇんだ。残念だったな」


「いえ、想定していなかったわけではありません。しかし、これは考えていた限り最悪の展開ですね。ですが⋯⋯背中がガラ空きです!」


 チームメイトを攻撃し、バースがそちらに気を取られているうちにロマンはその距離を詰めていた。

 そして、背中を向けたバースめがけ、その杖で攻撃を仕掛ける。

 しかし、杖を横に振ってしまったせいか、もしくは読まれていたか。

 バースは屈んでその攻撃を回避する。


「おっと、それじゃあ次は俺の番だな」


 屈んだ体勢から右足で足払いをしかける。

 のだが、ロマンはそれを跳んで回避。そのまま、上に振りかざした杖をバースの頭めがけて振り下ろす。

 が、バースはそれを頭の上に持って来た右腕で受け止める。


「なかなかやるなぁ! だが、その状態でこれをかわせるか?」


 バースの左拳は、宙に浮くロマンの脇腹めがけて放たれていた。

 宙に浮いている以上あの体勢からの回避は不可。となると防御するしかなかったが、両腕は杖を振り下ろしていて使えない。

 と俺は思っていたのだが、ロマンは思わぬ方法で防御する。


「はっ!」


 ロマンは再び、怪物を地面から出現させる。

 それも、自分と、バースの間に。


「いいね! いいぜお前! でもお前、相手が俺だってこと忘れてねぇか?」


 たしかに傍から見ていてもとても機転のきいた防御だと思った。

 だが、同時にこうも思っていた。相手が、分が悪いと。


「リバース!」


 その瞬間、二人を遮っていた怪物は消え去る。

 そして、防ぐ術もなくしたロマンはバースの拳を受けるのだった。


「うぐっ!」


 殴られたロマンは俺のいる場所から左側に四十五度ほどの地点へと吹き飛ばされる。


「ロマン!」


 ロマンを吹き飛ばしたバースはその場に立ち上がって、屈んだ時や攻防時に付いた砂を払い落とす。

 払い落とした後は、杖を防いだ右腕をぷらぷらと揺らしていた。

 なにせ素手で杖を受け止めたのだ。多少なりとも振動があったのだろう。

 それら一連の流れを終えた後、バースはロマンが飛んだ方を向いた。

 そして、語り出す。


「なかなかに良かったぜ? 一度目の大量召喚からの俺が消した直後にすぐ発動した二度目。あれは、相当な早業だ。そして、身軽な動きに体術。最後のあれはつまらねぇミスだったが、それでも十分に楽しめた」


 話しながらロマンの方へと歩いていたバースは、話し終わる頃にはロマンの近くまで到達していた。

 一方の俺は、かろうじて立てる状態ではあったが、まだ動くことはかなわず、その場にしゃがんで止まったまま。

 エルもそんな俺の横にいる。


 くそっ、ロマンがあれだけやっても駄目だってんなら、一体どうすればいいってんだ。何かいい作戦はーーーー


 思考が頭の中を駆け巡っていたが、その片隅では一つのあることがひっかかっていた。

 それは、バースが発した『召喚』というワード。

 召喚という言葉自体は別にそれほど珍しいものではないのだが、この世界で召喚という言葉が当てはまる者の存在は珍しかった。

 そして、そんな俺の疑問を晴らすように、ロマンの目の前まで辿り着いたバースは彼女に向かってこう言い放った。


「それでよ、さっきの攻撃で確信したんだが⋯⋯、お前⋯⋯死霊使い(ネクロマンサー)だな?」

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