「バトルロイヤルですか?」5
「まず言っておくが、最初のあれは⋯⋯」
会話を始めると、すぐ後ろで火の燃える音がする。
「敵が動き出したわ!」
後ろでは、エルが動き出した相手チームにフレイムを放っているが、無論、当たってはいない。
「当てる気あるのか? しっかりしろ!」
「わかってるわよもう! フレイム! フレイム!! フレイム!!!」
幾度も放たれるフレイム。しかし、当たらず。
「さて、話を戻そう。最初のフレイム。あれは今見てもらってる通り、あいつのミスだ」
そう言ってエルを指差す。
「では、先程の電撃は⋯⋯」
「あれは当たらないことを逆手にとってやったって感じだ。たしかに、あれは作戦だったと言えるな。だが⋯⋯」
少し間を置いて再び話を続けた。
「はっきり言うぞ。俺はそういう意図があってしたわけじゃないんだ。言うならばこの状況は偶然が起こしてしまった悲しき誤解ってところか」
俯くロマン。きっと今話したことを整理しているのだろう。
その後、顔を上げたロマンは口を開く。
「分かりました。今の話を信じることにしましょう。ですが、今の話だけだと、エルさんのコントロールが乏しいことは分かりましたがユウさんは⋯⋯」
「誰のコントロールが乏しいって!?」
割ってエルが入る。
だが、そう言いながらも攻撃し続ける彼女は、一向に当たる気配が感じられない。
そんなエルを横目に話を続ける。
「何か期待してるようならその考えは捨ててくれ。俺には、あいつらを圧倒する力なんてもっちゃいないよ。だから、お前の力が必要だ、ロマン」
そこまで言うと、ロマンは前へ歩き出した。
そして、杖を手に歩く彼女は、エルよりも少し前に進むと立ち止まる。
「エル。攻撃をやめていいぞ」
「えっ? でも、まだ⋯⋯」
「大丈夫だ」
そう言うとエルは、攻撃をやめて、こちらへ向かってくる。
当たりはしなかったものの、ライトニングの件もあってか、敵は警戒を怠らず、あまり距離を詰められていなかった。
「ちょっと、どういうこと!?」
二人の会話を聞いていたわけではないエルには、何がどうなっているのか状況が掴めていない。
「まあ、お手並み拝見ってところだ」
攻撃がやみ、相手はこちらへ直進してくる。
それを迎え撃つようにロマンは杖を横に構える。その後ろ姿ーーフードは風でなびいていた。
「それでは、いかせていただきます」
ーーーーそれからの決着はとても早かった。
「勝者、ユウチーム!!」
響き渡るアナウンス。そして鳴り止まない歓声と、目の前には地面に横並びに埋まった三人の坊主の男達。その頭部は太陽の光を反射して少し輝いている。
なぜこのような状況になっているのか。軽く経緯を説明しよう。
とは言っても、あまりに一瞬の出来事すぎてよく分からなかったのだが。
それは、ロマンが杖を構えてすぐのことだった。
イアンチームの足元の地面から手のようなものがちらりと見えたかと思えば、その刹那、屈強な大男達は地面に引きずり込まれたのだ。
ーーそして、今に至る。
「負けたよ兄ちゃん。終始圧倒されちまったな」
「ん? あ、ああ⋯⋯」
そう言われたが、別に圧倒しているつもりなどなかった。
むしろ、序盤は作戦失敗であったし、中盤もなんとか機転で凌いで、そして何より、終盤はロマンのおかげで勝てた。
それにしても、あの奇妙な技。一体、何者なんだ? ロマン、お前は。
「それでは、次の対戦に移りますので、選手の皆さんは速やかに退出をお願いします」
「ほら、いくわよユウ!」
エルに裾を引っ張られ、ゲートへ向かう。
その途中、エルは嬉々とした表情で語り出す。
「それにしても本当に勝っちゃうなんて、もしかして本当に優勝できるかもしれないわね!」
「あ、ああ、そうだな。これもロマンのおかげだよ」
そう言いながらロマンを探すが、すでにロマンは俺達より先にゲートの近くまで歩いていた。
まあいい、控え室に戻ってからでもゆっくり聞くとしよう。
「おい兄ちゃん」
後ろから声がする。振り返ると男達はまだ地面に埋まっていた。
「⋯⋯なにか?」
「俺達に勝ったんだ。半端なところで負けてもらっちゃ困るぜ?」
「⋯⋯? 何を言ってるのか分かりませんが、俺達は優勝するんです。一回の負けもありませんよ」
「へっ、言ってくれるぜ」
自分でも不思議だった。まさか、こんな言葉を口にするとは。
最初は優勝だなんて無理だと思っていたが、こうやって優勝候補を下した今、変に自信がついてしまってるのかもしれないな。
「それじゃあ⋯⋯」
「おっと、待ちな。まだ話は終わってねぇぜ」
「まだ何か?」
まだ話が終わってないと言うイアンだが、これ以上話なんてあるのだろうか。とは思いつつ聞き返す。
そして、イアンは口を開いた。
「⋯⋯俺達、いつになったら抜いてくれるんだ?」
「⋯⋯⋯⋯あ」
すっかり忘れていた。
それから俺とエルは、二人で屈強な大男を三人引き上げて、中央広場を去る。
まあ、とりあえず一回戦突破ってところだな。
ーーそして、控え室に戻る途中だった。
俺達はまたもあの男に出くわす。
「よぉ、大健闘だったな」
「ああ、おかげさまで」
話しているその後ろには、男女一人ずつがいた。
この次にでも試合があるのか? それともただチームで行動しているだけなのか?
いや、今はそんなことどうでもいい。
「じゃあな。せいぜい頑張れよ」
男はそう言って俺の横を通り過ぎる。
が、この時俺は、ただそれを見過ごすことはしなかった。
なぜ引き止めてしまったのか、理由はよく分からない。
しかし、気付けば口を開いていたのだ。
「ちょっと待てよ」
「あぁ?」
「お前こそ、戦う前に観客になったりするなよ?」
俺がそう言うと男は、その場で歩みを止める。
そこから沈黙が訪れ、そして、その少し後、男は沈黙を破る。
「ふっ、ははっ! いいぜお前!」
大きな笑い声だった。その後、男はこちらを向いて、言葉を続ける。
「ますますやりがいがあるってもんだ。⋯⋯せいぜい俺を楽しませてくれよ?」
それだけ言うと男は、再び俺に背を向け歩き出した。
そして、残された二人は俺達に話しかけてくる。
「あなたはあの方の知り合いなのでしょうか?」
そう言うのは、真っ白い修道服のようなものに身を包んだ女性。
手に持っている杖はロマンの持っていた木製の物とは違って、鍛治職人がしっかり作り込んだのだと、そう感じさせる逸品に見えた。
「いや、違いますよ」
「⋯⋯そうか」
俺の返答に対して頷いたのは、もう一人の男性の方。
こちらは、俺とあまり変わらない服装。しかし、全身から溢れ出る爽やかオーラが凄かった。
もう、第一印象を答えろと言われれば、誰が見ても「爽やか」と答える、いや答えさせられるだろう。
髪型や顔など、どこを切り取って見ても爽やか。
爽やかの権化というような男だった。
「実は僕達は二人でいた所を彼に誘われたんだよ。このバトルロイヤルに参加しないかって」
「へぇ、俺はてっきりあなた達が三人目を探していて誘ったのかと」
「違うんだよ。むしろ僕達は参加するつもりはなかったけど、彼の熱意にあてられてね。何でも倒したい奴がいるとか」
「そうだったんですか」
「それで、さっきの会話を見ていて、君がそうなんじゃないかと思ったんだ。違ったかい?」
「それが⋯⋯俺にも何が何だか」
ますます謎は深まるばかりだった。俺とあいつには一体何の関係がある?
あいつが俺を倒したいとして、何かそう思うようなことを俺はしたのだろうか。
駄目だ、全く思い浮かんでこない。
「あ、あの⋯⋯」
「なにか?」
静観していた彼女が再び口を開く。
「いえ、あんな言い方をされて気分を悪くされたかもしれませんが、実はああ見えてば⋯⋯⋯⋯」
「いつまでそこにいんだ! とっとと来い!」
一喝するように背後から大きな声が響いた。
そう言われて、話していた彼女と爽やか君は慌ててあいつの後を追いかける。
そして、二人とも立ち去る前に、律儀にお辞儀をしていった。
それを見届けた後、俺はエルに話しかける。
「控え室に戻ろう」
「ええ」
ーー初戦を終え、一悶着あり、控え室に辿り着いた俺達。そこには既にロマンがいた。ロマンは部屋の隅のベンチに腰掛けている。
「遅かったですね」
「ああ、ちょっとな」
そう言って俺とエルもベンチに腰掛ける。
そういえば、いざこざがあって忘れかけていたが、ロマンにも聞かなければならないことがあったな。
俺は立ち上がって、ロマンの近くまでいくと、口を開いた。
「なあロマン。質問があるんだが」
「何でしょうか?」
「⋯⋯お前は一体、何者だ?」




