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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
22/55

「バトルロイヤルですか?」4

【入場ゲート前】


「やっぱりここにいたか」


 入場ゲートには既にロマンの姿があった。


「すみません、勝手に行動してしまって」


「ああ、気にするな。いてくれただけで十分だ。そろそろだな」


「はい」


 結局、あの一件があったため、策は完成しなかった。

 しかし、今更嘆いていても仕方がない。こうなった以上、あとはやるだけやればいい。


 ふと、俺の裾を掴んで、


「ねえ、ユウ⋯⋯」


 エルが話しかけてくる。


「どうした? エル」


「さっきのことなんだけど⋯⋯」


「どうかしたのですか? 二人とも」


 不思議に思ったのだろう。ロマンが問いかけてくる。


「いや、何でもないよ。緊張してるみたいだ。柄にもなくな」


 そうロマンに返して、エルに視線を向けて言った。


「気にするな。とりあえず今は目の前のことに集中だ。な?」


「⋯⋯そうね」


 きっと、エルなりに心配してくれたのだろう。

 俺とあいつに何か因縁じみたことがあるのだと。

 だが、全くもってあいつのことは知らない。むしろ、何でこんなことになってるのかって感じだ。

 それでも、悔しいが今はあいつの言う通り、そんなことを考えてる場合じゃない。今は、目の前のことを。


 ーー俺達は開かれた扉から差し込む、白い光の中へと歩いて行った。

 扉の外に広がるのは、円形の観客席と、そこに溢れかえる観客。中には出場選手もいるだろう。

 そして、ゲートの中からでも聞こえていた声は、入場すると一層勢いを増した。


「さあ! まず入場してきたのは、ユウチーム! 今回初参戦の彼らは、ダークホースとなれるのか!」


 アナウンスが入ると、対面のゲートが開く。


「そして、対するは、前回優勝者のイアンチーム! 今回も彼らが順調に優勝を掴んでしまうのかー!?」


 会場中を埋め尽くしていた歓声は、イアンチームの入場と共に、更に勢いを増す。


「よお、また会ったな兄ちゃん」


 先に入場し、中央で待っていた俺達の元へ、相手チームが向かってくる。

 そして、向かってきた相手の顔を見て、俺ははっとした。

 そう、向かってきたのはーーーー既に何回か面識のあるあの大男だった。


「⋯⋯あんただったのか」


「ははっ、まさか俺も、初戦が兄ちゃん達とは思ってなかったよ」


「あなた、あの時の!」


「おう、お嬢ちゃんもまた会ったな!」


 陽気に会話をするイアン。その両サイドにはさほど変わらない体格の大男が二人立っている。


「前回優勝者だったとはな」


「ああ。だから⋯⋯」


 その瞬間、今までのイアンの雰囲気が変わった。


「悪いが兄ちゃんはここで敗退だ」


 先程までとは一転、落ち着いたトーンでそう言うイアンだったが、


「まあ、兄ちゃんには度々会って縁みたいなもん感じてたから、あまり気は進まないんだがな! これは勝負だからよ! 悪く思わないでくれ!」


 次の瞬間、またいつものように陽気に戻ったのであった。


「まさかあの人が相手なんてね」


「ああ、そうだな」


 エルも初戦の相手がイアンということに驚いている。

 が、今更相手がどうこうなんて関係ない。いずれは戦うことになるかもしれなかったんだ。こちらも余力のある状態で当たれたのはラッキーだと思うことにしよう。


「⋯⋯エル」


「なに? どうしたの?」


 エルに耳打ちをする。

 今のこの状況を把握して、一つ、思いついた策がある。


「いいか⋯⋯⋯⋯」


 ーーーーいよいよ、戦いが始まる。

 両チーム向かい合って立ち、開戦の宣言を待つ。


「それじゃあ、最後にもう一度ルールの確認だ! 相手チームを行動不能、気絶、もしくはギブアップ宣言を出させた場合勝ち! それじゃあ⋯⋯」


「あの⋯⋯」


「んん? どうした兄ちゃん」


「いや、その⋯⋯」


 次の瞬間、開戦宣言が闘技場中に響く。


「あまり、なめてもらっちゃ困るんですけどね」


「はじめえぇぇぇぇ!!」


「ぶちかませぇ!」


「フレイム!!」


 刹那、ものすごい勢いの火炎が、イアンたちに向かう。


 俺が考えた作戦は、開始早々のエルのフレイムだ。

 当初は策などなかったが、これだけ近い距離にイアンチームがいたのだ。だから、使えるのではないかと、そう思った。

 それにこの距離ならいくらなんでも当たるはず⋯⋯だ⋯⋯、


「おっと、あぶねぇ! それにしてもすごい火力だな」


 俺の期待虚しく、フレイムはイアンチームの頭上を通り過ぎていった。

 咄嗟に相手は身を引いたものの、おそらく、この軌道はそのまま立っていたとしても外れていただろう。


「⋯⋯おい! この近距離で外してんじゃねぇよ!」


「⋯⋯てへっ、張り切り過ぎちゃった!」


「可愛く言っても許さん!」


 と、その時だった。


「おいおい、仲良く痴話喧嘩か?」


「「そんなんじゃねぇ!(ないわ!)⋯⋯っ!」」


 振り下ろされるイアンの棍棒を間一髪、二人して避ける。


「あっぶねぇ⋯⋯地面凹んでんじゃねえか。あんなのまともにくらったらやべぇぞ」


「安心しろ! さすがに加減はしてある! それに、棍棒にしてあるのも配慮ってやつだ!」


 これで加減って化け物かよ。それに、棍棒にしてある、って、普段はどんなの使ってやがんだこいつ。棘付き鉄球⋯⋯モーニングスターとか使ってたりな。

 なんて一人考えにふけっていたが、実際考えるべき事は他にあったのだ。

 初撃の威力とその結果ーーーーそこから、ある誤解が生まれたことに。


「それにしても⋯⋯なめられてるのは俺たちの方だってか!?」


「⋯⋯は?」


 この時、まだ俺は誤解を生んでしまっていることに気づいていなかったのだ。

 続けてイアンが口を開く。


「やってくれたじゃねぇか、兄ちゃん」


「⋯⋯何のことだ?」


「とぼけても無駄だぜ。あの初撃、わざと外したのはいつでも俺達を倒せるって、そう言いたいんだろ?」


 イアンがそう言うと、闘技場中が湧く。


「おーっと! これはユウチーム、前回優勝者に早くも勝利宣言かぁ!?」


「いや、だから、ちがっ⋯⋯」


「そうだったの? まさかそこまで考えてやってたなんて、さすがユウね!」


「違う! 俺は当てる気だったんだ! お前が外すから変な誤解を招いたんだよ!」


 エルも外すことまで俺が作戦に組み込んでいたと思ったようだ。

 違うと伝えるも、きょとんとした顔をしている。


「さて、じゃあ、見せてもらおうか、お前達の実力を!」


 襲いかかってくるイアンチーム。湧き上がる歓声。


「⋯⋯ったく、どいつもこいつも!」


 エルやイアンチーム、闘技場中が誤解の渦に巻き込まれていた。

 そして、


「ロマン! お前の出番だ、頼む!」


「⋯⋯いいのですか? ここからが見せ場ですよ?」


 ロマンでさえも。


「だから違うっ! 俺は⋯⋯!」


 誤解を解くのに気を取られていたが、後ろを向くとイアンチームはすぐそこまで迫ってきていた。


「エル! もう一発だ!」


 すかさず指示を送る。


「わかったわ! フレイム!!」


 しかし、放たれたフレイムはまたしても敵には当たらない。

 そして、両チームの距離はもうあと数歩程度のものになる。


「おいおい! また外すとはやってくれるじゃねぇか!」


「だから違うんだって⋯⋯!」


 ふと、頭に新しい考えが浮かぶ。

 ここは一か八か試してみるしかないか。


「ああ、そうだよ。何でこうまでして外すと思う? たしかに一発目は手加減ってやつだ。だが、二発目を外したのはなぜか⋯⋯それは、確実に仕留めるためにこうやって再び距離を詰めさせたんだよ!」


「な、なんだと!」


 よし、いける!

 ハッタリのつもりでかましたが、効果は思った以上だ。


「やられたくなかったら避けるんだな! エル! ライトニングだ!」


「了解したわ! ライトニング!!」


「下がれお前達!」


 無数の雷撃が相手を襲う。

 実際は立ち尽くしたままの方が当たらないのだが、避けてくれたおかげで数発がヒットした。

 本来はこれで全員倒せればよかったのだが、そこはさすが前回優勝者、この攻撃を軽傷にとどめる。


「ふっ、やってくれるぜ!」


「ユウチーム! 遂に攻撃を当てたぁ! 決着はもうすぐか!?」


 観客の勢いはどんどん増していく。

 まったく、こんな嘘でここまで湧かれると、正直申し訳ない気持ちで一杯だ。

 ⋯⋯なんて思ってる場合じゃない。早くロマンだけでも誤解を解かなければ!


「ロマン! あのな⋯⋯」


「行くぞお前達!」


「ユウ、来るわ!」


 イアンチームは既に動き出す態勢に入っていた。

 いくら距離をとっても、こんなに早く動かれたら作戦の意味がない。

 やはり、軽傷だったのがまずかったか。


 しかし、さっきの攻撃は思わぬ効果を発揮する。


「くっ! 体が⋯⋯」


 動き出す態勢ではあったが、イアンチームは一向に動く気配がない。

 まさか、あいつら⋯⋯


「体が⋯⋯痺れてやがる」


 やはり! 麻痺だ!


 幸運にも、ライトニングの追加効果とでも言うべきだろうか、麻痺がイアンチームの動きを一時的に止めてくれたのだ。

 となれば、今のうちに、


「今のうちに倒すわよ!」


「待て、エル。待機だ」


「⋯⋯どうして!?」


 その表情はとても驚いていた。


「いいか? あれは一時的な、長時間正座したような状態が全身に起こっていると考えていい。たしかに今のうちに倒すのが定石だ。だが、俺とエルにそんな力がないのは分かってるだろ?」


 少し悩んだ末、エルは答えた。


「分かった、指示に従うわ」


「助かる。お前はあいつらが動き出したら、フレイムを撃ってくれ。もちろん当てるつもりでだ」


「いつも当てるつもりなんだけど⋯⋯」


「当ててくれ」


「や、やるだけやってみるわ」


 指示を出した後、ロマンの方を向く。そして言う、


「というわけで、俺の話を聞いてくれるか?」


 そこから俺は、ロマンに誤解についての弁解を始めた。

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