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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
21/55

「バトルロイヤルですか?」3

 ーー控え室。


 俺達は来たる一回戦に向けて待機していた。

 相手は前大会の優勝チーム。当然、今の俺達には手強い相手になる。


「さて、どうするか」


 策を講じていた時、エルが横から口を挟む。


「私の魔法でなんとかなると思うわ!」


 自信ありげに言うエルだが、せめて当たるようになってから言ってくれーーと内心思う。


「⋯⋯いいかエル? 俺は今、真面目に考えているんだ」


 優勝すると言った手前、今更引くに引けない状況だ。突っ込んでいる余裕などない。


「ちょっと! それは一体どういう⋯⋯」


 そして、それを悟ったエルも、


「ま、まあ、もう少し勝つ可能性が上がる方法もあると思うわ」


 いつもなら食ってかかってくる場面なのだが、今回は大人しく身を引いたようだ。


 それから二人で、今の自分達の現状を踏まえて、何かできることはないか考える。

 だが、スプーン曲げに魔法適正ほぼ皆無の俺、魔法適正は高いが、命中率に問題のあるエルに出来る作戦など、ほとんどなかった。


「⋯⋯相手は同じ人間だからな。こいつのトラップもおそらく通じないだろう」


 スプーンを持ちながらそう言う。

 俺には故郷で培われた運動能力が多少はあるが、それが優勝チームであるあの屈強な大男共に通じる程ではないと自覚していたため、あえて話題には出さなかった。


「もう、どうするのよ! このままじゃ、一回戦敗退に⋯⋯」


「まもなく、第一試合を開始します。該当チームの皆様は入場をお願いします」


「え!? もう!? まだ作戦も立ててないのに⋯⋯」


 結局、有効な策は見つからなかった。


「とりあえず入場しよう。行きながらでも作戦は立てれるさ」


 スプーンをポケットの中に入れて、控え室の出口へ向かう。

 だが、とても入場までの短時間でいい策が浮かぶとは思っていなかった。

 そして、俺はエルと二人で控え室の外へ出て初めて、もう一人がいないことに気付く。


「⋯⋯ロマンは?」


「そういえば、控え室に来る途中で、用があるとかなんとか言ってたわね」


「そうか、まあ、入場ゲートに行けば会えるか」


 闘技場は、中心の闘技スペースから左が奇数、右が偶数チームの控え室となっており、各入場ゲートは一つずつ。なので、アナウンスがロマンにも伝わっていれば合流できる。


「⋯⋯それで、何かいい作戦は思いついた?」


「いや、まったく」


 道中、さっきの会話の続きを始める。


「正直、今回俺達に出来る作戦はないんじゃないか?」


「それじゃあ一体どうすれば⋯⋯」


「そんなの決まってるだろ? 作戦があってもなくても全力で戦うだけだ。まあ、もし負けたら、その時はその時だけどな」


「負けたらって⋯⋯私達は優勝するのよ! 分かってる?」


「分かってるよ。⋯⋯ったく、どこからそんな自信が出てくるんだよ。あくまで、もしもの話だ。俺だって、優勝目指して頑張るさ」


 そんな話をしている時、前から歩いてきていた男と肩がぶつかる。


「あっ、すみません」


 ぶつかった男は真っ白な髪をしていた。

 その男はこちらを一目見て、


「こちらこそ悪かった。次からは気をつけるよ」


 と言うと、そのまま去っていく。

 そのすぐ後、俺達はゲートへ向かおうとするが、


「⋯⋯ああ、それと」


 後ろから先程の男の声が聞こえてくる。

 振り返って、その男の方を見た。

 すると男は、まるでこちらが振り向いたのを確認してから言っているかのようなタイミングで話し始める。


「優勝するのは俺だ、覚えておいてくれ」


「⋯⋯なっ!」


 不意の言葉に思わず驚いてしまった。

 どうやら会話はこの男に聞こえていたらしい。


「それだけだ。じゃあな」


 男はそれだけ言うと、再び歩き出す。


「⋯⋯おい! ちょっと待てよ!」


 思わず声を張り上げてしまった。男は立ち止まり、こちらを振り向く。


「⋯⋯ん? 何か用か?」


「いきなり、俺が優勝するだとか、どういうつもりだあんた」


 男に問いかける。


「はっ、そういうことか。簡単な話だ、優勝できるチームは一つ。それで目の前に優勝するなんて話してるチームがいたら、宣言せずにはいられないだろ? 俺が勝つ、ってな」


 笑みをこぼしながらそう語る男。

 そして、そんな男に対し、言い返す人物がいた。


「⋯⋯ちょっとあなた! 言ってる事はよく分からないけれど、優勝するっていうのは聞き捨てならないわ。優勝するのは私達よ!」


「⋯⋯んん?」


 エルを少し吊り上がった目で一瞥する男。

 そして、その容姿からエルの正体を特定した男は口を開く。


「ああ、お前、エルフか。まさか、あの森にこんな女の子がいたとはな。だけど、いいか? これは俺とそいつの話なんだ。部外者は口を塞いでてくれると助かるんだが」


「なんですって! あなた⋯⋯!」


 これ以上は口論以上に発展しそうな気がして、エルの言葉を遮る。こいつは口が駄目ならすぐ手を出すからな。

 それよりも、俺とあいつの話だと? なぜ向こうはこちらをそこまで意識しているんだ?


「ちょっと、ユウ⋯⋯」


 言いかけた言葉を遮られ、不服そうに話しかけてくるエルだったが、俺は既に男に向かって話しかけていた。


「あんた、名前は?」


 どこかで会った人物ならば名前は特定の材料になる。

 しかし、本来なら外見で分かりそうなものなのだが、あいにく一致する人物は記憶の中に一人もいなかった。


「あぁ、俺の名前か? そうだな⋯⋯決勝まで進めば分かる、とでも言っておくか。いや、それとも、俺の名前を知る時にはもう観客になってるかもな!」


「⋯⋯なんだと」


「おっと、そう怖い顔をするなよ。それよりもなぜ決勝か、とはならなかったか? チーム名が割れてる以上、試合に出た時にそのチームを調べればわかるはずだ、とそう思いはしなかったか?」


 たしかに、言われてみれば男の言う通りだった。

 こいつが出ている試合を見れば、名前など特定は簡単。

 それなのに決勝と言いきったわけ。その理由を男は淡々と述べる。


「まず初めに言っておくが、俺はチームリーダーだ。まあ、即席のチームだけどな。トーナメント表に名前も書いてある」


「っ! なら、なんで⋯⋯」


「次に、なぜ決勝か。それは⋯⋯当たるなら決勝だからだ」


「ということは⋯⋯」


「そう、俺とお前のチームは逆側。そして、お前達の初戦は前回優勝者。俺の名前なんて考えてる場合じゃないってことだ。それに、お前がどうか知ったことではないが、俺は決勝まで進む。つまり、お前が決勝にさえ進めば分かるってことだ」


 その発言は自信に満ち溢れていた。黄色い瞳から放たれる鋭い眼光も、迷いなど微塵もないことを語っている。

 だが、話の途中、少し引っかかったことがあった。それは、


「⋯⋯それじゃあな、ユウ」


 俺はこいつに名前を名乗ってはいない。なのに、相手は俺のことを知っていた。


「待て、何であんた俺のことを⋯⋯」


「俺の名前を知るときは観客席じゃなくて、目の前にいることを期待してるぜ」


 振り返って歩き出す男。


「待てよ! 何で俺のことを!」


 そこまで言った時、


「⋯⋯言ったろ。俺のことを考えてる場合じゃないと。それは今聞くべきことか?」


 背中越しに、先程までとは一転、少しの熱も感じられない声で男は言った。


「⋯⋯」


「じゃあな。楽しませてくれよ」


 ーーーー俺の目から映る男は、どんどん小さくなっていった。

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