「バトルロイヤルですか?」1
「⋯⋯んん、何よ朝から大きな声出して」
寝ていたエルが目を覚ます。
「いや、昨日言ってたはな⋯⋯ってなんだよその頭!」
エルの髪は、大噴火でも起こしたのかというほど爆発していた。
「ああ、これ? 昨日は疲れてて、髪を整えずに寝たからね。たまにあるのよ、こういうこと」
まだ少し眠そうにそう言うエル。目もまだ開ききっていない。
「⋯⋯ぷっ」
「⋯⋯何よ」
「いや、その髪型面白くて⋯⋯」
「⋯⋯はぁ!? 何よ、あんただって後ろはねてるじゃない!」
「なっ!」
慌てて後頭部を触ると二、三箇所程、微かにはねている髪があった。
「⋯⋯⋯⋯洗面所行くか」
そうして俺達二人は、洗面所へ向かう。
それからしばらくして部屋に戻ってきた。
「ところで、さっきは何を言ってたのよ」
「いや、だから昨日言ってた今日の話ってのは⋯⋯」
「⋯⋯? そんなのあるわけないじゃない」
「⋯⋯はぁ!?」
「あれは向こうが言い出したから売り言葉に買い言葉で⋯⋯まあ、なんとかなるわよ、きっと」
「なんとかなるって、どうやって⋯⋯」
「それはもちろんユウの機転で⋯⋯」
「俺頼みかよ!」
呆れた。作戦というものはないのかこいつには。
いや、それどころかもしかしたらロマンも、エルをからかう為だけに言った可能性もある。
そんなことを思いながら、俺はロマンの布団の方を見る。
だが、そこにロマンの姿はなかった。
「そういえばロマンは?」
「さあ? 私にも分からないわ⋯⋯ちょっと、ユウ、あれって⋯⋯」
「どうした? ⋯⋯っ!!」
ロマンの布団の近くに置いてあったのは、昨日ロマンが付けていた髑髏の面だった。
「⋯⋯昨日私達が見たのと同じやつよね?」
「ああ、そうだな」
ーーその時、部屋のドアが開いた。
「おはようございます」
布団の近くには昨日の面。だから、今、ロマンは⋯⋯
「ああ、おはよう」
「おはよう」
そう言って、床にあった面からロマンの顔へと視線を向ける。
「ーーっ!!」
そしてその瞬間、二人してその顔に驚く。
なぜなら、そこに立っていたロマンの顔には昨日とは少し違う、笑った髑髏の面が付けられていたのだ。
「⋯⋯? どうしたのですか? そんなに驚いた顔をして」
「いや、だってお前⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ああ、そういうことですか」
会話の途中で状況を察したロマン。
「何よもう! 期待して損したじゃない!」
「ふっ、残念でしたね」
思いの外、残念そうなエル。かくいう俺も素顔が見てみたかったという気はあったんだけど。
「⋯⋯それより、ロマン。朝からどこに?」
「町の中を散歩していました。外はもうお祭りムードですよ」
「そうか、ところでロマンも今日の話ってのは、本当はなかったのか?」
「⋯⋯? いえ、ありますよ。ただ、昨日お話するのを忘れていましたね。すみません」
「ん? ああ、いいよ、気にするなって」
どうやらロマンには今日の話があったようだ。
「ところで『も』と言うのは⋯⋯」
「ああ、実はな? エルはそんな話なかったってさ」
「⋯⋯ふっ、後先考えずそんなこと言うからこうなるのです」
「何よ! あなただって、そんな話あるわけないって思ったの!」
「勝手に決めつけるのはやめてください」
「うっ⋯⋯」
「それで、話ってのは?」
尋ねると説明を始めるロマン。
「この話は作戦というには及ばないものです。なぜなら、お互い実力を把握していないため、作戦を立てることができません。かと言って今から把握する時間もほとんどない。だから、言っておきたいことは一つだけです。もし、あなた達が困ったら、その時は頼ってください」
「⋯⋯言いたいことは分かった。だけど、それなら最初から手伝ってくれた方が⋯⋯」
「それはできません」
「どうしてだ?」
すると、ロマンはエルの方を見た。
「人数合わせでいいと言われましたから」
そうだった。そんなことがあったのをすっかり忘れていた。
これは俺にも擁護のしようがなく、ただただ呆れた表情でエルを見る。
「ちょっと! ユウまでこっち見て、私が悪いとでも言いたいわけ?」
「ああ、だって事実だろ?」
「くーーっ! 見てなさい、あなたの手を借りずとも優勝してみせるんだから!」
「⋯⋯あいつはああ言ってるけど、困ったらよろしくな」
「はい、お任せください」
きっとロマンに頼ることになるだろう。そんな気がした。
「ところで、ロマンは何が目的で参加するんだ?」
「ああ、それはですね⋯⋯」
その瞬間、町中に響き渡るように爆竹の音が鳴り響いた。
「さあ! いよいよバトルロイヤルが始まるぞぉ! 参加者は闘技場へ集合だぁ!」
昨日モニターで聞いた声と同じ声がそのあと聞こえてきた。
「⋯⋯行きましょう。優勝すれば分かります」
優勝? こいつも賞金を狙っているのか?
「そうか⋯⋯おい、行くぞ、エル」
「ーーっ! ちょっと待って! まだ着替えてないから!」
「ったく、仕方ないやつだな」
「⋯⋯ユウさん」
「ん? どうしたロマン」
「いえ⋯⋯その格好で参加されるのですか?」
「ーーーーっ!!」
指摘されて気付く。俺もまだ寝巻きのままだった。
「⋯⋯すまん、先に外で待っててくれ」
ーーーー「よし、行くかエル、ロマンが待ってる」
身支度を済ませた俺達は、階段をかけ降りる。
一階の受付には既におばちゃんがいた。
「ありがとうおばちゃん、助かったよ」
「いいさ、これくらい。⋯⋯バトルロイヤル出るんだろ? 優勝してきな!」
「⋯⋯ああ!」
そして俺達は宿を後にした。




