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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
19/55

「バトルロイヤルですか?」1

「⋯⋯んん、何よ朝から大きな声出して」


 寝ていたエルが目を覚ます。


「いや、昨日言ってたはな⋯⋯ってなんだよその頭!」


 エルの髪は、大噴火でも起こしたのかというほど爆発していた。


「ああ、これ? 昨日は疲れてて、髪を整えずに寝たからね。たまにあるのよ、こういうこと」


 まだ少し眠そうにそう言うエル。目もまだ開ききっていない。


「⋯⋯ぷっ」


「⋯⋯何よ」


「いや、その髪型面白くて⋯⋯」


「⋯⋯はぁ!? 何よ、あんただって後ろはねてるじゃない!」


「なっ!」


 慌てて後頭部を触ると二、三箇所程、微かにはねている髪があった。


「⋯⋯⋯⋯洗面所行くか」


 そうして俺達二人は、洗面所へ向かう。

 それからしばらくして部屋に戻ってきた。


「ところで、さっきは何を言ってたのよ」


「いや、だから昨日言ってた今日の話ってのは⋯⋯」


「⋯⋯? そんなのあるわけないじゃない」


「⋯⋯はぁ!?」


「あれは向こうが言い出したから売り言葉に買い言葉で⋯⋯まあ、なんとかなるわよ、きっと」


「なんとかなるって、どうやって⋯⋯」


「それはもちろんユウの機転で⋯⋯」


「俺頼みかよ!」


 呆れた。作戦というものはないのかこいつには。

 いや、それどころかもしかしたらロマンも、エルをからかう為だけに言った可能性もある。

 そんなことを思いながら、俺はロマンの布団の方を見る。

 だが、そこにロマンの姿はなかった。


「そういえばロマンは?」


「さあ? 私にも分からないわ⋯⋯ちょっと、ユウ、あれって⋯⋯」


「どうした? ⋯⋯っ!!」


 ロマンの布団の近くに置いてあったのは、昨日ロマンが付けていた髑髏の面だった。


「⋯⋯昨日私達が見たのと同じやつよね?」


「ああ、そうだな」


 ーーその時、部屋のドアが開いた。


「おはようございます」


 布団の近くには昨日の面。だから、今、ロマンは⋯⋯


「ああ、おはよう」


「おはよう」


 そう言って、床にあった面からロマンの顔へと視線を向ける。


「ーーっ!!」


 そしてその瞬間、二人してその顔に驚く。

 なぜなら、そこに立っていたロマンの顔には昨日とは少し違う、笑った髑髏の面が付けられていたのだ。


「⋯⋯? どうしたのですか? そんなに驚いた顔をして」


「いや、だってお前⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯ああ、そういうことですか」


 会話の途中で状況を察したロマン。


「何よもう! 期待して損したじゃない!」


「ふっ、残念でしたね」


 思いの外、残念そうなエル。かくいう俺も素顔が見てみたかったという気はあったんだけど。


「⋯⋯それより、ロマン。朝からどこに?」


「町の中を散歩していました。外はもうお祭りムードですよ」


「そうか、ところでロマンも今日の話ってのは、本当はなかったのか?」


「⋯⋯? いえ、ありますよ。ただ、昨日お話するのを忘れていましたね。すみません」


「ん? ああ、いいよ、気にするなって」


 どうやらロマンには今日の話があったようだ。


「ところで『も』と言うのは⋯⋯」


「ああ、実はな? エルはそんな話なかったってさ」


「⋯⋯ふっ、後先考えずそんなこと言うからこうなるのです」


「何よ! あなただって、そんな話あるわけないって思ったの!」


「勝手に決めつけるのはやめてください」


「うっ⋯⋯」


「それで、話ってのは?」


 尋ねると説明を始めるロマン。


「この話は作戦というには及ばないものです。なぜなら、お互い実力を把握していないため、作戦を立てることができません。かと言って今から把握する時間もほとんどない。だから、言っておきたいことは一つだけです。もし、あなた達が困ったら、その時は頼ってください」


「⋯⋯言いたいことは分かった。だけど、それなら最初から手伝ってくれた方が⋯⋯」


「それはできません」


「どうしてだ?」


 すると、ロマンはエルの方を見た。


「人数合わせでいいと言われましたから」


 そうだった。そんなことがあったのをすっかり忘れていた。

 これは俺にも擁護のしようがなく、ただただ呆れた表情でエルを見る。


「ちょっと! ユウまでこっち見て、私が悪いとでも言いたいわけ?」


「ああ、だって事実だろ?」


「くーーっ! 見てなさい、あなたの手を借りずとも優勝してみせるんだから!」


「⋯⋯あいつはああ言ってるけど、困ったらよろしくな」


「はい、お任せください」


 きっとロマンに頼ることになるだろう。そんな気がした。


「ところで、ロマンは何が目的で参加するんだ?」


「ああ、それはですね⋯⋯」


 その瞬間、町中に響き渡るように爆竹の音が鳴り響いた。


「さあ! いよいよバトルロイヤルが始まるぞぉ! 参加者は闘技場へ集合だぁ!」


 昨日モニターで聞いた声と同じ声がそのあと聞こえてきた。


「⋯⋯行きましょう。優勝すれば分かります」


 優勝? こいつも賞金を狙っているのか?


「そうか⋯⋯おい、行くぞ、エル」


「ーーっ! ちょっと待って! まだ着替えてないから!」


「ったく、仕方ないやつだな」


「⋯⋯ユウさん」


「ん? どうしたロマン」


「いえ⋯⋯その格好で参加されるのですか?」


「ーーーーっ!!」


 指摘されて気付く。俺もまだ寝巻きのままだった。


「⋯⋯すまん、先に外で待っててくれ」


 ーーーー「よし、行くかエル、ロマンが待ってる」


 身支度を済ませた俺達は、階段をかけ降りる。

 一階の受付には既におばちゃんがいた。


「ありがとうおばちゃん、助かったよ」


「いいさ、これくらい。⋯⋯バトルロイヤル出るんだろ? 優勝してきな!」


「⋯⋯ああ!」


そして俺達は宿を後にした。

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