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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
16/55

「この少女は誰ですか?」2

「⋯⋯⋯⋯どうするんだ? エル」


「⋯⋯」


 どうやら申し込み用紙を取ったはよいものの、内容までは確認していなかったようだ。


「⋯⋯つまり、俺達が参加するにはあと一人メンバーが必要ってことだな?」


「そうね」


「でも、問題はその一人をどうするか⋯⋯」


「⋯⋯探すわよ」


「ん?」


「探すわよ。少なくともここにいるほとんどは参加希望者だろうから、一人や二人くらい単独の冒険者がいてもおかしくないわ」


 エルのそんな提案を受けて、俺達は一緒に参加してくれる人を探すことにした。


「ーーっ! ねえ、あそこ!」


 そう言ってエルが指差す先には、仁王立ちしている屈強な男戦士がいた。


「私、ちょっと行ってくる!」


「お、おい! 待てよ!」


 走り出すエルを追いかける。


「⋯⋯あの」


「⋯⋯ん? どうしたお嬢ちゃん」


「いや、その⋯⋯もしよかったら、私達とパーティーを組んでバトルロイヤルに出ませんか?」


「⋯⋯ああ、そういうことか」


 男がそう言った少し後ほどに、人混みの中から二人の、これまた屈強な男達がこちらへ近寄ってきた。


「気持ちは嬉しいが、すまんなお嬢ちゃん。俺はこいつらと出るんだ」


「⋯⋯そうですか。いえ、こちらこそいきなりすみませんでした」


 ーーーーそれから俺達は、一人でいる人に手当たり次第誘いの声をかけた。

 しかし、そのいずれも、他のメンバーが申し込みに行っているだとか、外のメンバーに頼まれて申し込み用紙を取りに来ただとか、そういう人ばかり。

 結局、メンバーを獲得することはできず、俺達は依然二人のままだった。


「⋯⋯単独の冒険者が何だったっけ? 一人や二人どころか、むしろ一人もいないじゃないか」


「⋯⋯そうみたいね。困ったわ」


「だな。⋯⋯なあーーーー」


 探している最中、かろうじて二人組は見つけたが、一人身の者は見つからなかった。

 だから、エルには申し訳ないが、参加するのは諦めよう。と、そんな旨の言葉を言おうとした時だった。


「ーーっ! ねぇ! あれ!」


 エルが指を差す。その方向をみると、そこにはベンチに座るおじいちゃんがいた。


「いや、あの人はどう見たって冒険者じゃ⋯⋯」


「⋯⋯違うわよ! もう少し奥!」


 そう言われてもう少し先を見ると、いくつもある出入り口のうちの一つの柱によりかかっている人影が見えた。


「⋯⋯間違いない。あの辺は今誰もいないから、間違いなくあの人は一人。⋯⋯行くわよ! ユウ!」


 さっきは急に走り出したと思ったら、今度は手を掴まれ、強引に連れて行かれる。

 ーーそして、俺達はその人影の前まで来た。近付いていくうちに気付いたのだが、その人物は大きなフードを被っていて、こちらからは顔は全く見えなかった。

 そして、それと同時に俺は、どこかでこの人物と会った気がしていた。


「あなた⋯⋯一人?」


 間近まで来ると、エルはすぐにフードの人物に話しかけた。


「⋯⋯! ⋯⋯はい。そうですが」


 それに対して相手は、少し間を空けてから返事をする。

 そして、その返事を聞いている時思い出した。

 そうだ、この声、この姿。⋯⋯さっき、エルがぶつかった人じゃないか!

 あの時顔を見たわけではないが、その小さい背丈は一致していて、俺はほぼ同一人物だと確信した。

 俺は、果たしてこの事に気付いているのかとエルの方を見る。


「ーーっ!! ほんと!? よかった! ⋯⋯あのね、実はーーーー」


 嬉々とした表情で会話を続けるのを見て悟った。駄目だこいつ、まったく気付いてない。

 そんな俺をよそにエルは話を続けていた。

 内容は簡潔に言うと、私達と一緒にバトルロイヤルに出ませんか? だ。


「ーーーーということなの、どう?」


 背丈からして、その人物はおそらく子供だろう。エルも話し方からして、おそらく同じことを考えているはずだ。

 エルの一方的とも言える勧誘話が終わったそのすぐ後に、反応が返ってくる。


「⋯⋯さっきまでとは別人のようですね」


 これが、最初の返事だった。

 あの時相手がこちらの顔を見ていたのかは知らないが、どうやら向こうも気が付いていたらしい。


「⋯⋯? さっき?」


 ーー気付いていないのはこいつだけだった。


「おまっ! 覚えてないのかよ!」


「⋯⋯? 覚えてって何を?」


「いや、だから⋯⋯」


 説明しようとした時、俺の目の前に言葉を遮るように手が現れた。


「説明の必要はありません。⋯⋯あなた、名前は?」


 手の主はそう続ける。


「⋯⋯俺は、ユウ」


「ユウさん⋯⋯ですか。あなたたちの誘い受けさせていただきます」


「⋯⋯え? いいのか?」


「はい。ちょうど参加しようと思っていましたから」


 そう言って俺から用紙を受け取ると、二人の名前が書かれたその下に「ロマン」と名前を書いた。


「ロマン⋯⋯っていうのか?」


「はい。好きにお呼びください」


「⋯⋯分かった。よろしくなロマン」


 そうやって二人で話していると、疎外感を感じたのかエルが会話に入ってきた。


「ちょっとあんた達! 何、勝手に話を進めてるのよ! 入ってくれたのは感謝するけど、そもそもあんたは、私を知ってるみたいな口ぶりだったけど何者なの?」


 まだ、思い出せていないようだ。

 そして、エルのその言葉にロマンはこう返した。


「⋯⋯ええ、たしかにあなたのことは知っています。ですが、教えたところで、あなたはそれを記憶する媒体をお持ちではないでしょう?」


 遠回しに言っているようだったが、きっとロマンはエルに対して、「あなたの頭の中は空っぽだ」と、そう言っていたのだろう。


「⋯⋯っ、ちょっと? あなたは私が馬鹿だと言いたいわけ?」


「あなたにしては意外と聡明ですね」


「はぁ?」


 小柄な見た目に反して毒を吐くロマンと、姫という身分柄、けなされるのに慣れていないエル。

 まさに一触即発という状況だった。


「ま、まあ⋯⋯落ち着けよお二人さん」


「至って冷静ですが?」


「わ、私だって⋯⋯」


「⋯⋯ふっ」


「⋯⋯っ! あんた、今笑ったわね!?」


「はい。今までの会話のどこに落ち着きがあったのかと考えると、思わず笑いが出てしまいました」


「⋯⋯っ!!」


 なだめようと声をかけたつもりが、ますます状況を悪化させてしまった。


「⋯⋯大体あんたねぇ、さっきから顔も見せずにーーーー」


「さあ、行きましょうユウさん」


「⋯⋯あ、ああ」


「ーーっ!! 人の話は最後まで聞きなさいよ!」


「ああ、騒音が聞こえると思ったらあなただったのですか」


「⋯⋯いい加減に⋯⋯しなさいよ!」


 そう言うとエルはロマンのフードを剥ぎ取った。


 ーーそのフードの下から覗かせた姿は、ふんわりとしたミディアムくらいの長さの藍色のボブヘアー。てっぺんからはアホ毛のようなものが生えている。

 そして、ずっと見えなかったロマンの顔は、髑髏の面で覆われていた。

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