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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
15/55

「この少女は誰ですか?」1

 町の入り口まで来ると、見張りの兵士が二人立っていた。

 俺達はその間を通るようにして町の中へと入っていく。


【冒険者の町 アドベント】


 ーー町の中はたくさんの人で賑わっている。

 そして、そのほとんどが装備を身に付けていた。


「ここが、冒険者の町か。村で聞いた通りどこもかしこも冒険者ばかりだ」


「⋯⋯⋯⋯」


 町に入ってもエルはこんな調子だ。


「なあ、元気出せよ。お前の気持ちは分かるが、仕方なかっただろ?」


「そうだけど⋯⋯」


 返事をしながらもうつむいたままのエル。なんとか励ましてやりたかったが、所持金がゼロとなり、今晩の宿すら確保できない状態で、何と言ってやればいいのか分からなかった。


「⋯⋯ほら、見てみろよ! ここにはたくさんの冒険者がいる。事情を話せば助けてくれるかもしれないぞ?」


「⋯⋯そうね」


 ーー駄目だ。完全に放心状態に入ってやがる。簡素な返事しか返さないエルと、気まずい雰囲気の中歩き続ける。

 そして、前を見ず歩いていたエルは、前から歩いて来る人に気が付かず、ぶつかってしまった。

 ーー当たった相手は背丈が小さく、大きなフードで顔は完全に覆われていた。


「あ、ごめんなさい」


 相変わらず気の抜けたような声で謝るエル。すると相手は、


「⋯⋯まったく、どこ見て歩いてるんですか」


 とだけ言うと、行ってしまった。


「おい、大丈夫か?」


 いつもならすぐに言い返すであろうエルが、何も言い返さなかった事に驚きつつ、そんな言葉をかけた。

 返ってきたのは、


「うん、ごめん」


 の言葉だった。いつもと違って素直なエルに俺は


「⋯⋯ったく、気を付けろよ?」


 としか言えなかった。

 らしくない、こんなのいつものこいつじゃない。


 ーーそれからしばらく歩くと町の中心部の闘技場の様な場所へ着いた。

 中にはたくさんの人が溢れている。


「何だ? 何かやってるのか?」


 中へ入るとその大人数の理由が分かった。皆、上にぶら下がっている大きなモニターを見ていたのだ。

 何が流れているのか気になったので、俺も見てみる。


「ーー冒険者のみなさん? 今回も遂にやってきました! ⋯⋯その名も? バトルロイヤルぅぅ!」


 モニターに映るナレーターらしき女性がそう言うと、その場にいた者達から大きな歓声が上がる。

 バトルロイヤル? なんだそりゃ。


「知ってる人も知らない人も、ルール説明! バトルロイヤルとは、旅する冒険者一同が、それぞれの実力を競い合う祭典よ! 優勝者には多額の賞金と副賞が与えられるわ! 競技内容は純粋なトーナメント戦! 参加希望者はそこに置いてある紙に署名して提出ね! 以上!」


 言い終わると画面は消えてしまった。その直後からそこにいた者達は、こぞって申し込み用紙を取りに行く。

 それにしても賞金⋯⋯か。貰える貰えないはともかく、これで少しでも元気出してくれるだろうか。


「⋯⋯はは、賑やかだな」


 とりあえず軽い話題から本題を振ろうと思い、横にいたエルに話しかけた。

 ーーーーが、横にはもうエルの姿はなかった。


「⋯⋯あれ? おい、エル?」


 どこにいったんだ? 辺りをキョロキョロと見回すがエルの姿はない。

 と、その時、前の人ごみの中から低い体勢でエルが出てきた。


「ふぅ⋯⋯」


「おまっ! 何でそんなとこから!」


 そこにいたエルは先程とは打って変わって元通りになっていた。


「何でって⋯⋯これよ」


 そう言ってエルが俺に見せてきたのは、申し込み用紙だった。


「それって⋯⋯まさか⋯⋯」


「そう! 出るのよ!」


 ーー訂正しよう。元通りではない。むしろパワフルさが増していた。


「何で急に⋯⋯」


「もちろん賞金に決まってるじゃない! ほら、早く書いて!」


 変わり身が早いやつだ。だがまあ、元気になってくれてよかった。

 差し出された紙を手に取り、書いてある内容を目にした時だった。


「おい、これ⋯⋯」


「どうしたのよ⋯⋯っ!!」


 そこに書いてあったのはこうだ。


 ーー三人組のパーティーを組んで参加者の名前を署名してください

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