「金欠ですか?」2
「いい? スキルって言うのはね⋯⋯」
聞いた話をまとめるとこうだ。スキルとはレベルが上がる毎に蓄積されるスキルポイントを、自分が会得したいものに割り振ることで、特技や魔法の類を得ることが出来るものらしい。
そして、共通のスキルもあれば、各職業でしか手に入れられないものもあるようだ。
「それで、お前が使ってる魔法は誰にでも使えるのか?」
「ええ。私もまだ職業は冒険者扱いだから、あなたと同じよ」
勇者として送り出されはしていたが、俺もまだ職業の部類では冒険者らしい。
「本には職業は変更できるって書いてあったけど、どこでどうすれば変えれるのかは分からないわ」
「そうか。⋯⋯それで、スキルポイントってのはどうやって割り振るんだ?」
そう尋ねると、エルは右腕の袖をまくってみせた。
「あなたも持ってるでしょ? これ」
そう言ってエルが見せてくれたのは金色のブレスレットだった。
「ブレスレット? 俺は持ってないぞ?」
「⋯⋯たしかにこれではなかったわね。でも、きっと、あなたも使ったことがあるはずよ」
エルが右手をかざす。すると、彼女の目の前には一つの画面が現れた。
「それって⋯⋯」
「そう、あなたの右腕のそれと一緒よ」
そう言いながら、俺の右腕のバングルを指差す。
「これが冒険者の証みたいなものよ。形は様々だけど、大体は何かの装飾品になってることが多いわ」
「へえ」
初めて聞いた情報に少しばかり驚いた。
「⋯⋯それで、開いてどうするんだ?」
画面を開いて尋ねる。
「ここにステータスって表記があるでしょ? ここを押すの」
そう言ってエルは画面の右下にあるいくつかの項目の中から、ステータスと書かれている項目をタッチした。すると、画面が切り替わる。
「これで自分のレベルや職業、スキルポイントなんかが確認できるわ」
説明を受け、ステータスをタッチする。図鑑しか使ってこなかったからこんな機能があったなんて知らなかった。
切り替わった画面を見て、ステータスを確認してみる。
レベルは六。職業は冒険者、スキルポイントは⋯⋯十八か。
「あとは自分が使いたいものにポイントを割り振れば完了よ」
スキルを色々と見てみる。攻撃や防御、サポート系など種類は様々だ。
「色々あるな。でも、まずはこれを⋯⋯」
俺は五ポイントを割り振って「フレイム」を習得することにした。
そうしてポイントを割り振った瞬間、変な感覚がした。
さっきまでは使えるはずなどなかったのに、なぜか今は使える気がするのだ。
ーー試してみるか。
「⋯⋯フレイム!」
そう言って右手を前に突き出した。が、右手の手のひらからはライターをつけたような小さな火が出るだけだった。
「⋯⋯え?」
「ーーぶふっ!」
横でエルが吹き出す。
「おい! どういうことだよ!」
「知らないわよ、魔力が足りてないんじゃない?」
笑いながらそう言うエル。慌ててステータスを確認してみるが別に魔力が足りないようではなさそうだ。
「⋯⋯もう一回だ! フレイム!」
もう一度撃ってみるが、結果は変わらなかった。エルはますます笑い転げる。
「なんでだよ!」
「魔法の才能がないんじゃない?」
相変わらず笑いながら言うエル。なぜだ、なぜこうなる。
ーーその時、ふとエルのフレイムを思い出した。
「おいエル! お前のフレイムは威力に差があるよな? あれはどういうことだ」
先程に比べると少し落ち着いたエルが涙目で答える。
「ああ、あれ? あれは魔力の消費を変化させてるからよ。かと言って、増やせば増やすほど強くなるわけでもないわ。増やしすぎて逆に威力が落ちることもあるし、そこはバランスが大事ね」
なるほど。魔力の消費で威力が変わるのか。
「魔力の消費量自体は意識的な部分で変化してるの。多めに消費しようと思えば多くなるし、抑えようと思えば少なくなるわ」
「⋯⋯わかった」
そう言って、魔力の消費を多めにするつもりでフレイムを放った。すると、さっきまでよりかは威力が増したが、普通のライターから少し火力が高いライターになったぐらい。
そこから何回か試したものの、威力の幅はさほど変動しなかった。
「まあ、私がどんなに消費を抑えても、そこまでになることはないわ。結局は使う人の才能次第よね」
得意げに話しかけてくるエル。こいつに言われるとなぜか腹が立つのはなんでだろう。
「まだだ! 違う魔法なら⋯⋯」
そう言って俺は、もう一つ覚えたスキルを使う。
「ライトニング!」
次の瞬間、身体の周りを電気が走りはじめた。これは、いけたんじゃないか?
と思ったのも束の間、すぐに消えてしまった。
「まあまあ、それぞれ得意不得意ってものが⋯⋯」
慰めるように肩に手を置いてくるエル。
しかし、
「⋯⋯いった!」
そう言って肩から手を離した。⋯⋯これは、もしかして
「なあ、エル」
「⋯⋯何よ」
「握手しよう」
「⋯⋯? 別にいいけど」
こうして、エルと握手をし⋯⋯そして、俺は言った。
「ライトニング」
次の瞬間、
「いった!!」
と叫ぶエル。間違いない、これは静電気だな。
どうやら、俺のライトニングは雷には程遠い静電気を発するようだ。
「⋯⋯ちょっと! 痛いじゃない!」
「ああ、わりい。試してみたくてな」
薄々そんな気はしてたが、さっきの発言もあったし、悪いがエルには確認のため実験台になってもらった。
「はぁ⋯⋯」
「⋯⋯何よ」
「いや、何も」
ーー最初に能力をもらった時も、こんな感じだったが、今は魔法が思うように使えないことも加わって、あの時よりも衝撃が大きい。
スプーンは役に立たなかったわけではなかったが、この先曲げるだけで戦っていくには厳しいだろう。
そんなことを考えながら、少しばかり気持ちが落ち込んでいた時だった。
「⋯⋯元気出しなさいよ」
「⋯⋯! 今、何て⋯⋯」
「ーーっ! べ、別に! あんたが魔法使えなくたってこの私が使えるんだから、そこまで気にすることはないって言ったのよ」
返ってきた意外な言葉に驚いた。さっきまでみたいにけなしてくると思ったのに。
「⋯⋯ありがとな」
エルの優しさに僅かながら励まされ、小さな声でそう呟く。
「⋯⋯? 聞こえなかったわ、なんて言ったの?」
「⋯⋯⋯⋯あ、ああ、それはだな、しっかり当てれるようになってから言ってくれって言ったんだよ」
「何よそれ! 人が励ましてあげたっていうのに!」
言いかけたが、やっぱり恥ずかしくなって本当のことは言えなかった。
「はいはい、すみませんでした。ほら、そろそろ行くぞ」
「⋯⋯ったく、仕方ないわね」
少し気持ちも前向きになって、再び進もうとした時だった。
「? 何だ今の」
ーー後ろにあった卵の中から音がした。




