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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
12/55

「金欠ですか?」1

 ーーあれから、二日が経った。


 俺達は寄った村で一日休息し、次の町の情報を得て去った。今はその町を目指している。

 道中、モンスターに何度か出くわしたが、キングゴブリンほど手強くもなく、俺は五から六へと順調にレベルを上げていた。

 それから一日野宿をし、今日も俺達は、新たな町目指して進む。


「⋯⋯ねぇ、ユウ。あとどれくらいで着くの?」


「村の人から聞いた話だと、今日中には着く予定だ」


 現在の移動手段は徒歩のみ。村からは馬車を出してくれていたのだが、そこで重要な問題が発生した。

 ーーーーお金が、なかったのだ。

 ユーシャを出た時に多少は持ってきていたが、馬車に乗るには足りなかった。エルに関しては、一人分の金額は持っていた。が、一人だけ乗るなんて許すはずもなく、揉めた末、こうやって歩いている。


「ったく、馬車なら今頃着いてるのにな〜?」


「⋯⋯悪かったな。そもそも、外に出てから一度もお金が手に入ってないんだが、どうやったら手に入れられるんだ?」


「私にも分からないわ」


「そうか」


 歩くことにした俺達は、お互い持っているお金で道中の食料を買った。俺は追加でスプーンも買っておいた。案外役に立ったからな。


「ねえ、あれ何かしら」


 突然そう言ってエルが指差す。その方向を見ると、そこには大きな卵があった。

 近寄ってみるが、特に危険な様子はない。


「⋯⋯割ってみるか」


「そうね」


 こうして、剣で卵を割ることにした。が、何度剣で叩いても割れない。よく見ると殻の表面にうっすら膜のようなものが見える。


「次は私の番ね」


 そう言ってエルが卵に近付いてくるが、


「ちょ、ちょっと待てよ!」


 そう言って俺が止める。村を出てからここに来るまでモンスターと何度か戦った、とは言ったが、そこでもエルの、難ありなコントロールは遺憾無く発揮された。

 もちろんモンスターに当たることもあれば、外れることもしばしば、時には俺にも飛び火した。

 そんな彼女が自信満々に近付いてきて何か起こらないはずはない。


「⋯⋯何よ」


「いや、その、また外されたら困るし⋯⋯」


「なっ! 馬鹿にしないでよ! それにこの状況で流石に外しはしないわ!」


 相変わらずの自信だ。だが、何かフラグが立ってしまったような気もした。が、しかし、


「フレイム」


 エルは卵に右手を付けて放った。敵は動かないからそういうこともできるのか。そして、剣でいくら叩いても割れなかった卵はあっさりと割れた。


「さっきまでいくらやっても割れなかったのに、なんで割れたんだ?」


「さあ、分からないわ⋯⋯⋯⋯ねえ! これ!」


 そう言われて卵の中から出てきたものに目をやった。すると、そこにあったのはーーお金だった。


「なんで、中からお金が⋯⋯」


「別にいいじゃない。ちょうど困ってたところだったし、貰っておきましょうよ」


 ーーおかしい。卵の中からお金が出て来るなんてどう考えても変だ。


「ねえユウ! まだいっぱいあるわよ!」


 先の方に目をやると、先程の卵がたくさん散らばっていた。


「もしかしてここは荒稼ぎスポットなのかしら! このチャンスを逃すわけにはいかないわ!」


「⋯⋯おい! 待て!」


 制止など気にも止めず、エルは一目散に走っていった。何と言うかお金への執着がすごいやつだ。

 なんて思ってる場合じゃない。この卵は何なんだ。

 俺は図鑑を開いて確認した。ーーあった、これだな。


 ロシアンエッグ⋯⋯特殊な防御膜を張り、一切の物理攻撃を無効化する。中に何が入っているかは、開けてみるまで分からない。中身は良いものもあれば悪いものもある。


 ロシアンエッグ⋯⋯か。剣では割れず、エルの攻撃で割れたのにはそういう仕掛けがあったんだな。それよりも中身だ。おそらくさっきのお金は良いものだろう。じゃあ、悪いものって⋯⋯?

 とりあえずあいつを止めるに越したことはない。


「おいエル! 一回⋯⋯」


「ユウ! またお金が出てきたわ! やっぱりこの卵はそういうものなのよ!」


「違う! そいつは⋯⋯」


 言い出した時には遅かった。エルが次に見つけた卵にフレイムを放った瞬間、卵は大爆発を起こした。


「おい! 大丈夫か!!」


 慌ててエルの元へ近付くと、そこには黒焦げになったエルがいた。


「⋯⋯けほっ、何なのよこれ」


「こいつらはモンスターだ」


 それから、エルに軽く卵の説明をした。


「そうだったのね、お金ばっかり出てくるからてっきりそういうものだと⋯⋯」


「まったく、そこまでがめついやつだとは思わなかったよ」


「⋯⋯なっ! そんなんじゃないわよ、無いよりはある方がいいに決まってるでしょ!?」


「⋯⋯へぇ? どこがだ?」


「もちろんむ⋯⋯って、何言わせようとしてるの! お金よお金! 変な聞き方するんじゃないわよ!」


 エルが自分の胸を気にしてるのはさておいて、もっと気にすることがあった。


「それにしてもすごい爆発だったな。怪我は?」


「こんなに汚れちゃってるけど、かすり傷程度だわ。それにこれくらいなら大丈夫よ⋯⋯ヒール」


 そう唱えたエルは、白い光のベールに包まれる。そして、次の瞬間、汚れていた服や身体の傷などは全て元通りになっていた。


「それって⋯⋯」


「ええ。お母様があなたに使ったのと系統は同じよ。まあ、私のはまだまだ遠く及ばないけどね」


「そうか。⋯⋯それにしても火とか雷とか回復とか色々使えるんだな」


「まあね! これくらい楽勝よ!」


「⋯⋯俺にも使えたりできるといいんだけどな」


「⋯⋯あんたもしかして、スキルのこと知らないの?」


「⋯⋯スキル?」


 ーーそれからエルは俺にスキルとやらの説明を始めた。

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