「金欠ですか?」1
ーーあれから、二日が経った。
俺達は寄った村で一日休息し、次の町の情報を得て去った。今はその町を目指している。
道中、モンスターに何度か出くわしたが、キングゴブリンほど手強くもなく、俺は五から六へと順調にレベルを上げていた。
それから一日野宿をし、今日も俺達は、新たな町目指して進む。
「⋯⋯ねぇ、ユウ。あとどれくらいで着くの?」
「村の人から聞いた話だと、今日中には着く予定だ」
現在の移動手段は徒歩のみ。村からは馬車を出してくれていたのだが、そこで重要な問題が発生した。
ーーーーお金が、なかったのだ。
ユーシャを出た時に多少は持ってきていたが、馬車に乗るには足りなかった。エルに関しては、一人分の金額は持っていた。が、一人だけ乗るなんて許すはずもなく、揉めた末、こうやって歩いている。
「ったく、馬車なら今頃着いてるのにな〜?」
「⋯⋯悪かったな。そもそも、外に出てから一度もお金が手に入ってないんだが、どうやったら手に入れられるんだ?」
「私にも分からないわ」
「そうか」
歩くことにした俺達は、お互い持っているお金で道中の食料を買った。俺は追加でスプーンも買っておいた。案外役に立ったからな。
「ねえ、あれ何かしら」
突然そう言ってエルが指差す。その方向を見ると、そこには大きな卵があった。
近寄ってみるが、特に危険な様子はない。
「⋯⋯割ってみるか」
「そうね」
こうして、剣で卵を割ることにした。が、何度剣で叩いても割れない。よく見ると殻の表面にうっすら膜のようなものが見える。
「次は私の番ね」
そう言ってエルが卵に近付いてくるが、
「ちょ、ちょっと待てよ!」
そう言って俺が止める。村を出てからここに来るまでモンスターと何度か戦った、とは言ったが、そこでもエルの、難ありなコントロールは遺憾無く発揮された。
もちろんモンスターに当たることもあれば、外れることもしばしば、時には俺にも飛び火した。
そんな彼女が自信満々に近付いてきて何か起こらないはずはない。
「⋯⋯何よ」
「いや、その、また外されたら困るし⋯⋯」
「なっ! 馬鹿にしないでよ! それにこの状況で流石に外しはしないわ!」
相変わらずの自信だ。だが、何かフラグが立ってしまったような気もした。が、しかし、
「フレイム」
エルは卵に右手を付けて放った。敵は動かないからそういうこともできるのか。そして、剣でいくら叩いても割れなかった卵はあっさりと割れた。
「さっきまでいくらやっても割れなかったのに、なんで割れたんだ?」
「さあ、分からないわ⋯⋯⋯⋯ねえ! これ!」
そう言われて卵の中から出てきたものに目をやった。すると、そこにあったのはーーお金だった。
「なんで、中からお金が⋯⋯」
「別にいいじゃない。ちょうど困ってたところだったし、貰っておきましょうよ」
ーーおかしい。卵の中からお金が出て来るなんてどう考えても変だ。
「ねえユウ! まだいっぱいあるわよ!」
先の方に目をやると、先程の卵がたくさん散らばっていた。
「もしかしてここは荒稼ぎスポットなのかしら! このチャンスを逃すわけにはいかないわ!」
「⋯⋯おい! 待て!」
制止など気にも止めず、エルは一目散に走っていった。何と言うかお金への執着がすごいやつだ。
なんて思ってる場合じゃない。この卵は何なんだ。
俺は図鑑を開いて確認した。ーーあった、これだな。
ロシアンエッグ⋯⋯特殊な防御膜を張り、一切の物理攻撃を無効化する。中に何が入っているかは、開けてみるまで分からない。中身は良いものもあれば悪いものもある。
ロシアンエッグ⋯⋯か。剣では割れず、エルの攻撃で割れたのにはそういう仕掛けがあったんだな。それよりも中身だ。おそらくさっきのお金は良いものだろう。じゃあ、悪いものって⋯⋯?
とりあえずあいつを止めるに越したことはない。
「おいエル! 一回⋯⋯」
「ユウ! またお金が出てきたわ! やっぱりこの卵はそういうものなのよ!」
「違う! そいつは⋯⋯」
言い出した時には遅かった。エルが次に見つけた卵にフレイムを放った瞬間、卵は大爆発を起こした。
「おい! 大丈夫か!!」
慌ててエルの元へ近付くと、そこには黒焦げになったエルがいた。
「⋯⋯けほっ、何なのよこれ」
「こいつらはモンスターだ」
それから、エルに軽く卵の説明をした。
「そうだったのね、お金ばっかり出てくるからてっきりそういうものだと⋯⋯」
「まったく、そこまでがめついやつだとは思わなかったよ」
「⋯⋯なっ! そんなんじゃないわよ、無いよりはある方がいいに決まってるでしょ!?」
「⋯⋯へぇ? どこがだ?」
「もちろんむ⋯⋯って、何言わせようとしてるの! お金よお金! 変な聞き方するんじゃないわよ!」
エルが自分の胸を気にしてるのはさておいて、もっと気にすることがあった。
「それにしてもすごい爆発だったな。怪我は?」
「こんなに汚れちゃってるけど、かすり傷程度だわ。それにこれくらいなら大丈夫よ⋯⋯ヒール」
そう唱えたエルは、白い光のベールに包まれる。そして、次の瞬間、汚れていた服や身体の傷などは全て元通りになっていた。
「それって⋯⋯」
「ええ。お母様があなたに使ったのと系統は同じよ。まあ、私のはまだまだ遠く及ばないけどね」
「そうか。⋯⋯それにしても火とか雷とか回復とか色々使えるんだな」
「まあね! これくらい楽勝よ!」
「⋯⋯俺にも使えたりできるといいんだけどな」
「⋯⋯あんたもしかして、スキルのこと知らないの?」
「⋯⋯スキル?」
ーーそれからエルは俺にスキルとやらの説明を始めた。




