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黒き風の皇女(おとめ)  作者: 吉田さゆか
邂逅 -1989-
7/14

魅せられて

微エロ注意です。

 某所にて、〈鬼姫〉は目的のものを発見した。これだ、これこそが探していたものだ。〈鬼姫〉はそれを持ち去った。もちろん全てではない。一部だけだ。全てを取り上げるということは決してしてはいけない。しかし、幾ばくかであれば自分には受けとる権利がある。〈鬼姫〉はそう信じて疑わなかった。


 ーーーーこの供物(さかな)は妾のものじゃ


 〈鬼姫〉は大きな四足の動物にまたがりその場を去った。



 ※



 ココナは道で少年を見かけた。道に迷っていたらしい。泣いているのをなんとかなだめて、家まで送り届けることにした。道中の会話から察するに、彼の家は寿司屋だ。しかも回っていない寿司だ。その時、ココナに少しばかりの下心が生まれた。回転しない寿司屋など普段は高すぎて手を出せない代物だ。しかしこの子を連れ帰ってきたお礼に寿司を一貫くらいいただけるかもしれない。ココナはそんな考えを振り払った。

「ねぇ、お姉ちゃん、お寿司食べたいって思ってる?」

「うぇっ、な、何で?」

「顔にそう書いてあるよ。」


 ーーーーどうしてバレちゃったのかしら...


 ココナは欲望を振り払いきれずににやけきってしまっている自分の顔を撫でながら寿司屋へとバイクを走らせた。


「父ちゃん、ただいま!」

「太郎!手前(テメ)ェ、どこいってやがった!俺がどれだけ心配したと思ってるんだ!」

「この人たちに家まで送ってきてもらったんだ。」どうやら子どもの方にも下心があったらしい。ココナを緩衝材にして、父の怒りを和らげようという魂胆のようだ。

「そいつは本当か!?...嬢ちゃんたちすまねぇな、良かったらうちで食っていきなよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」喜色満面のココナに、流石のモトも閉口した。


「アイツ、昨日から帰ってきてなかったんだ。だから心配でよ。見つかって本当に良かった。」

「あぁ、それで。でも、そんな夜遅くに何をやっていたんでしょうね。だって昨日の夜出ていったんでしょう?」

 どうも迷子の少年、太郎は昨日の晩から行方不明だったらしい。

「何でも、一昨日あった博物館の盗難事件で盗まれたっていう冷凍マンモスあるだろ、あれを見かけたって言うんだよ。バカ言っちゃいけねぇって相手にしなかったら、アイツ一人で行っちまったみたいなんだ。全く、どれだけ心配したことか...。」

「ほんとにいたんだよ、写真だって撮ったんだぞ。」太郎が降りてきた。その手には写真を持っている。そこには、


 ーーーー確かに、毛むくじゃらの象ね。


「バカ野郎、帰ってこなかった事が問題なんだよ。信じるも信じないも、実際そいつを見たってやつに会ったんだ。信じられなかったが、写真もあるし、信じるしかねぇわな。」店主は段々尻すぼみになるようにしてそう言った。この少年はかなりの策士だ。全員の興味はマンモスに向けられ、彼の父も怒ることを忘れてしまっている。

「これ、歩いていたの?」マンモスは何千年も前に絶滅している。ならこの象は一体何者だろうか。


 ーーーー冷凍マンモスが生き返るわけないし...


「うん、歩いてたよ。どしん、どしーんって。」

「そういや、市場の方で魚が無くなったってえらい騒ぎになってたな。何でも、怪物に襲われてみんな逃げてきたとかなんとか...」


 ーーーー〈天使〉の可能性があるわね。


「なぁ、あんた、今晩泊まっていかねぇか?」息子がいなくなったのを見計らったように店主が口を開いた。

「ングッ、どうしたんですいきなり?」確かに財布がとても軽い今の状況では願ってもない申し出だが、いきなりすぎる。そう思ったココナは、店主の顔を見て納得した。


 ーーーー成る程、蛙の子は蛙ってことね


 少年のように目を輝かせた店主に苦笑いして、ココナはこう言った。

「息子さんの世話はモト(このこ)がしてくれます。だから、私もついていっていいですか?」



 ※



 〈鬼姫〉は魚を一枚一枚刺身にして食べていた。その魚はもちろん市場から強奪したものだ。それを共に食べる巨体はマンモス。こちらも数日前、博物館から連れ出したものだ。

「のぅ、まんもすよ。魚とは美味じゃなぁ。民草が変われば供え物も変わるということじゃな。」

 〈鬼姫〉は致命的な勘違いをしていた。彼女は今まで「カネ」という概念に触れたことがなかった。高貴な巫女の家の出で、食事などは全て彼女を慕う人々が神に供えたものだったのだ。彼女の故郷にも「カネ」のようなものはあったが、神に仕える身である彼女は、神から下げ渡される形で供物を頂いていたため、人々に感謝しながらも、それが当たり前だと考えていた。そんななかでの先日の無銭飲食である。日本(ココ)には代金、というものがあって自分もそれを支払わなければならない。それを知った〈鬼姫〉は町へ降りて飯だけ食って帰ったときもあったことを思い出し、申し訳ない気持ちになった。あの時は皆笑顔を向けていたが、それは自分を慕ってくれているからで、本心では迷惑していたのではないか、と。だから、3日間代金を返済したあとも働いたのだ。

 その後解放された〈鬼姫〉は当初の予定通りマンモスを尖兵とした。そして祭壇を探し始めたのだ。そう、彼女の勘違いはまだ終わっていないのである。神に仕える自分の食べるべきものは神から下げ渡された供物であると考えた彼女は、たくさんの魚が並ぶ市場を祭壇だと思い、自分の分を取ろうとした。しかし、そこにはまだ人がいた。


 ーーーーまだ神へは捧げられておらんのか...遅い、遅すぎるぞ


 そう思った彼女はいくつかの魚だけ予め取り、それを故郷の神殿によく似た「ジンジャ」という社で一度神に捧げ、今、いつものように下げ渡しの供物として頂いているのだ。

「これで食料問題も解決じゃな。あやつらも妾の働きに驚き、心から感謝することじゃろうて。」そう言ってマンモスを見た〈鬼姫〉はその姿にぎょっとした。マグロを食べていた巨象は大きく姿を変えていたのだ。〈鬼姫〉はそのたくましい体躯に恍惚の表情を示した。そして食事を一旦終了し、マンモスとの「遊び」に興じた。



 ※



 ココナは店主の太助と市場にやって来ていた。魚泥棒は〈天使〉の可能性が高い。なら彼を1人で行かせるのは危険だと、そう判断したからだ。決して太助の財布で飯が食えるからなどという理由ではない。

「ん~~~!おいひい♪」全く説得力はないが。

「美味しいか、ならよかった。ここが一番旨いんだよ」

「よせよ、こんな時間に空いてるのがここだけって話だろ。別にうちより旨い店なんていくらでもあらぁ。それより、今日犯人捕まえるんだって?大丈夫なのかよ、カイブツって話だぜ。」

「止めてくれるなよ、俺は市場(ここ)に世話になってるんだ。市場の平和は俺が守る!」太助は酒で少々できあがっていた。完全にマンモスが犯人だと決めつけている。しかも倒す気でいる。


 ーーーー無理だと思うけど...


 ココナはまだ飲もうとしている太助を引っ張って店をあとにした。

「マンモス捕まえるんじゃないんですか、そんなに酔っぱらって。」

「俺は~つよぉいんだぁ~マンモスぐらいどんとこいさぁ~あっはっはっはっはっはぁ~」


 ーーーーダメだ。完全に出来上がってる。


 このまま会敵すれば、圧倒的不利は目に見えている。なんとか彼を落ち着けて、単独行動した方がいい。

「んん?何だぁ、ありゃ。」太助は何かを見つけた。ついていくとそこには氷柱があった。

「氷柱だわ、なぜこんなところに...」「う、うわぁ!」太助の悲鳴を聞いたココナは彼のもとに駆け寄った。そこには象の獣人と言うべきか、15m程の巨体が女性を掴み上げて握りつぶそうとしていた。あの女性は、〈鬼姫〉だ。

「や、やめるん、じゃ。まん、もすよ...。妾は、ぬしを、殺しとぅ、ない...。」ミシミシという音がこちらまで聞こえてくる。さしずめ制御不能になっているといったところか。口から絶えず血を吐き続けている〈鬼姫〉の瞳は悲しそうに潤んでいる。しかしそこには死の恐怖は感じられない。


 ーーーーこの状況を打破できる手だてがあるって訳!?


 太助は、失神している。ココナはそれでいいと思った。彼が起きる前に片付ける。ココナは立ち向かおうとした。


 ーーーー変態(へんしん)!


 そのまばゆい閃光に気づいた〈鬼姫〉はエネルギー弾を生成してココナにぶつけようとした。が、不意にその動きが止まった。

「あ、あ、ぁ...」“マンモス”の吐く息によって、〈鬼姫〉は凍りついてしまったのだ。“マンモス”はそれでも手の力を抜こうとしない。そして、ヒビの入った〈鬼姫〉の体は粉々に砕け散ってしまった。

 毛むくじゃらの“マンモス”はかなり興奮しているようだ。ココナはなるべく下半身を目におさめない様にしながら、マンモスを警戒した。下半身は、ええと、その、生娘のココナには刺激が強すぎるのだ。

 “マンモス”は長い鼻をココナに向けて伸ばした。ココナはそれを回避して一気に迫る。腹に一撃を喰らわせた。もちろんエネルギーはフルパワーだ。

「ブモォォォ」“マンモス”は呻いた。だが、

「冗談じゃ、ないわよ...」さほどダメージが入っていないらしい。恐るべきことだ。あの巨体は核の直撃に無傷で耐えられるのだ。ココナが立ち尽くしたのを“マンモス”は見逃さなかった。その鼻を振り回してココナに叩きつけたのだ。

「ガッ...!」ココナが壁に叩きつけられた瞬間、“マンモス”はココナに息を吹きかけ、氷柱をなげて腹に突き立て、壁に固定した。

「グウッ、ウゥッ!」

 動けなくなったココナにとどめを刺そうと“マンモス”が近づいてくる。そのたびにココナの身長程はあろうかという「シンボル」が視界を遮り始める。せめて顔を覆ってしまいたいが手足が凍ってそれもできない。このままでは肉体的にも精神的にもヤバい。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ココナはあれを使うしかないと確信した。それはとても危険な技だ。使い方を誤れば自分が核爆弾にと化してしまう。しかし、顔を真っ赤にしたココナには正常な判断力が残っていなかった。そして、ココナは袖とブーツの刺繍を意思の力でほどき、そこに溜められたエネルギーを熱に変換して一気に放出した。

「ブモォォォォォォォォ!!」解き放たれた熱は氷を溶かすだけでは飽きたらず、後ろの壁を蒸発させ、“マンモス”のシンボルを焼きソーセージに変えた。たまらず怯んだ“マンモス”をエネルギーをフルチャージした手刀で去勢し、息つく間も与えずに〔賢者の石〕からエネルギーを充填、またみぞおちに拳をめり込ませる。“マンモス”は吹っ飛び、転がった。ココナはとどめとばかりに今度は飛び蹴りを喰らわせた。体内で核爆発5回分のエネルギーが暴れまわるのには耐えられなかったらしく、“マンモス”は周囲が昼になったかのような鋭い閃光と轟音を上げて爆散した。

「わ、妾の、妾のまんもすがぁー...!」後ろを振り返ると、〈鬼姫〉がおいおいと嘆いていた。ココナのことなど目に入っていないようだ。

 敵とはいえ流石に可愛そうになったココナは、慰めようと思って近づいて信じられない呟きを耳にした。

「せめて、あの、逞しい一物だけでも、無事ではあるまいか...」

「はァァァァァァ!?...あ、あんたは、あの状況下でそんなこと考えてたわけぇ!?じょ、冗談じゃないわよ...」

「はて、なんのことじゃ?」〈鬼姫〉はココナにそうたずねた。

「そ、それは...その...も、もういいわよ!!」赤面したココナをニヤニヤと眺める〈鬼姫〉、その光景は2人を数年来の友人のように見せ、決して相容れぬ敵同士には見えなかった。



 ※



 ココナと〈鬼姫〉は一時休戦をして太助の寿司屋で寿司を食べていた。道中で話した内容によると、“マンモス”はマグロを食べたことであそこまで強くなったらしい。

「妾もマグロとやらを食べてみたが、少しばかり発情しただけじゃった。」

 〈鬼姫〉は“マンモス”の強化のためにマグロが貯蔵されていた倉庫に忍び込み、たらふくマグロを食わせてやった。すると“マンモス”は凶暴化して制御不能になり、

「エキスだ、エキスだ、パワーアップだぁぁぁ!」と言いながら倉庫中のマグロを食らいつくし、あの様な暴走をしたのだという。そんなに強化して何がしたかったかというと、

「まぐわいじゃよ。妾はあの逞しいもので貫かれたかったのじゃ。」その言葉にココナはあんぐりと開けた口が塞がらなかった。


 ーーーーマグロの影響よ、きっと。さっきも発情したっていってたし、そうじゃなきゃこんな、恥ずかしげもなくこんなことが言えるわけがないわ。そうよ、そうに決まってる。


 ココナには少しばかり刺激が強すぎる話だったようで、終始赤面していた。それでも〈鬼姫〉が市場を祭壇だと勘違いしているのを正したり、彼女の故郷の話を聞き出したことは素晴らしいと言えよう。しかし、その故郷の話もココナにはかなりきつかった。何でも、彼女の故郷では性交は神聖視されていて、処女や童貞は等しく蔑まれる存在なのだとか。だから内容がそこいらの官能小説もかくやというほどに卑猥だったのだ。ただ、本当は性交は神聖視されているだけあって祭事の時以外は一切行われず、頻度で言えば日本人の男女の方がよっぽどなのだが、そんなことなど知らないココナは


 ーーーー何なのよその淫乱王国は!?


と心の中で叫んでいた。


 ココナは限界寸前だった。発作は起きなかったが、起こってもおかしくないほどの大きな感情が体内で燻っていた。太助は道中の会話は聞いていなかったので、ココナの様子がなぜおかしいのか分からなかった。

「まぁまぁ、嬢ちゃんに何があったのかは知らないが、俺の寿司を食ったら元気が出るさ、ほれ。」太助はココナと〈鬼姫〉とモトの前に軍艦を置いた。ココナはそれを1つ口に入れた。濃厚な味わいが口一杯に広がる。

「美味しい、大将、これ、何てお魚?」

「ああ、それかい、白子だよ。」

 その言葉にココナのなかで燻っていた感情が爆発した。その感情はココナの顔を赤く染め、意識を奪い去り、顔面を木製のカウンターに叩きつけた。

今回も遅れてしまって申し訳ないです。バックアップをとってないせいで小説の内容が全消し、という事態が何度も(しかも最後の一行を書き終えたところで、『このページで問題が発生したためページを読み込み直しました』ですよ!?)起きてしまいました。恐ろしいです。


次回 「大神官」 お楽しみに!


※この作品はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません。

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