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黒き風の皇女(おとめ)  作者: 吉田さゆか
邂逅 -1989-
6/14

少年の恋

遅れてしまって大変申し訳ありません‼

どうかこの事で見限ったりしないでください、お願いします!

今回はかなり長めですが、ぐったりはしないと思います。

あと製作協力してくれた親友のKくん、ごめんなさい、バイクは壊れません‼

「お姉ちゃん?」

向こうに人影が見える。こちらに背を向けて立っている。

「急に出てっちゃうんだから、ビックリするじゃないか。」

人影に近づこうとする。しかし、思うように近づけない。歩く速度を上げる。よたよたとした足取りがしっかりとしたものになる。それと共に歩幅も広くなる。それでも距離は縮まらない。それどころか、


ーーーー遠のいている!?


「お姉ちゃん!」

全力で走り始めた。置いていかれないように。もう、ひとりぼっちはこりごりだ。人影は歩き始めた。距離はもっと遠くなる。そんな、嫌だ、また…

「姉さん‼」

その声に人影が振り向くことはなかった。





「…はぁ、夢か。」セナは伸ばしていた右腕を下ろして、大きなあくびをした。布団を片付け、朝食をとる。近藤瀬那(こんどうせな)は15歳、思春期真っ盛りだ。

セナは日々に退屈していた。人生は自分が主役の演劇だという言葉があるが、生まれてから15年とちょっとの中で、なにか特別なことが周りで起きたりはしていない。そんな気配すらしない。平和なものだ。


ーーーーもう、15年もたつんだ。


そんなにたつのに、なにもないのがセナの中では若干のホラーであった。いつの間にか年を取って、振り向いて見たら、自分には何もなかった。そんな人生を送るのではないかという恐怖に駆られるのだ。

だからと言ってセナには何の信念もなかった。やりたいこともない、得意なこともない。なにかを為そうとするのには15歳という年齢が幼く感じられた。なにかきっかけがあればいい。それで自分はきっと変われる。ううん、変わってみせる。待っているだけではなにも始まらない、始まらないのだが、セナは漫画の主人公のような劇的な出会いを今か今かと待ち受けていた。

今日は日曜日だというのに、セナは家に閉じ籠っている。そんなだから、いつも祖父の仕事を手伝わされる。セナは祖父と2人暮らしだ。両親は死んだ。母はセナを生んで、父は海外で亡くなったらしい。

「まったく、若いもんが昼間っからぐうたらしおって。」祖父はセナがやっていたファミコンのコンセントを抜いた。

「嘘、あともう少しでクリアだったのに...。」セナがやっていたのは先月発売されたばかりの『がんばれゴエモン2』、こいつにはセーブ機能がない。ふっかつの呪文もない。ミスしたところからやり直せる、という良心も、元電源を切られては何の意味も持たない。セナは激怒した。いくらなんでもやりようってもんがある。

「何すんだよじっちゃん!日曜日ぐらい自由にしてたっていいじゃねぇか!」

「そんなものが将来何の役に立つ!そんな暇があるなら、仕事を手伝うか、勉強でもやっとれ!」こんな会話は日常茶飯事だ。セナの祖父はいつも頭ごなしに怒鳴り散らす。セナは機械いじりが嫌いではないので、祖父の工房の手伝いぐらいいくらでもやっていいのだが、祖父の態度が気にくわない。いくら自分が食わせてもらっている立場で、相手が自分の2倍も3倍も生きていたとしても、人にものを頼む態度じゃない。


ーーーーオレも来年受験生なのに、仕事の手伝いさせるって根性がそもそもおかしいんだよ。


セナは自分が勉強をやる気なんかこれっぽっちもなかったことを棚にあげて、ぶーぶー文句をいいながら仕事を手伝う。自分にはまだまだ先がある、最下位の成績もその気になれば学年トップにぐらいなれるさ、きっと。クラスで3番目に小さいこの背も、これからぐんぐん伸びるさ、きっと。そんな考えも作業の中で紛れて消えた。この工房は主に修理を請け負っている。電化製品から、それこそ自転車や車まで何でもござれ。近所の人はよくうちに頼みに来る。他で直すよりも早いし、新品のようになって返ってくるからだという。そんな近藤工房には『工房に来た機械を触らずに突き返してはいけない』という決まり事がある。直せずとも、何かしら手を打つ。セナは祖父のそういうところは尊敬している。


作業がひとしきり終わった頃にはもう夜になっていた。片付けをして、道に面したほうに大口を開けているシャッターを閉めようとした。今日も結局クリアできなかったな。まぁいいか、楽しみはあとにとっておいた方がいいさ。まだ新しいゲームが買えるほど小遣いは貯まってない。

「あの、ここって近藤工房ですよね。」後ろで声がした。今日はもう店じまいなんですよ、明日いらしてください、そう言おうとしたセナの動きが止まった。振り向いた先にいたのは、白い髪を月の光で輝かせた紅い瞳の少女だった。その幻想的な姿にセナは息を飲んだ。同時に、自分が待ち望んでいたようで、実はできるだけ遠ざけようとしていた、自分が変わるための『きっかけ』が目の前に現れて「もう逃げられないぞ」と言ってきているような、そんな胸騒ぎを感じた。





セナは少女を店に招き入れた。少女といっても見た目は自分と同い年くらい-とはいえバイクに乗っている時点で自分よりは年上なのだろう-だが、しぐさや言動に妙齢の女性のような色香を感じさせる。それがまたセナを夢中にさせた。クラスの女子は何かにつけて男子は子供だと、さも自分達が大人の女になったみたいにしゃべるが、今目の前にいる少女に比べれば、あんなの大人でも女でもない。そう感じるほどこの少女は大人びて見えた。

「何しとる、今日は店じまいじゃ。明日また…」祖父がまた頭ごなしに怒鳴ろうとして、言葉を止めた。じっちゃんはいつだって誰にだって頭ごなしだ、でも今日はこの子の美貌に言葉を失ったな、とセナは自分のことでもないのにちょっぴり自慢げな気持ちになった。が祖父が言葉を失ったのはそれが原因ではなかった。

「コ、コナ…?」ようやく絞り出すような声でそう口走った祖父は険しい顔をした。

ココナと呼ばれた少女は祖父に気づくと近寄って「お久しぶりです。」と頭を下げた。

「疫病神め、どの面下げてやってきおった。」祖父は怒鳴りはしなかったが、その方が余計怒りが大きいように感じられた。セナはまず2人が知り合いであることに驚いた。そして、どうしてそんなに怒りを抱いているのかが分からなかった。その理由は祖父が話した。

(せがれ)と孫娘だけでは飽き足らず、セナにまで手をだそうという魂胆か。」

「いえ、そんな、つもりでは、」

「悪いのはそのバイクか。」

「え?…あ、はい」

「セナ、ワシはこの(ひと)と話がある。お前はこのバイクを直してやれ。相手がどうあれ、工房(ウチ)に来た機械をそのままで突っ返すのは、主義に反する。」

「え、オレ、でいいの?」

「直せる範囲でいい。無理なら後でワシがやる。」

「できるさ、オレにだって。」セナはそう言って作業に取りかかった。

 ほとんど面識のない父親はともかく、自分にとって母親代わりだった姉のことはとても気になった。姉は8年前、家を飛び出して行方知れずになった。今どこにいるのか、あの少女は知っているのだろうか。なら教えてほしい、姉がなぜ出ていったのか、今どうしているのか。

「姉さん…」セナは姉のことをしばらく考えていたが、かぶりを振って目の前のバイクに集中した。彼女が話を終える前にすべてを直してしまえば、きっと彼女は笑顔をこちらに向けて「ありがとう」と言ってくれる。その為だったら、なんだってできそうな気がした。空だって飛べそうな、そんな気が。





セナは困惑していた。何故なら、このバイクには異常らしい異常は見つからなかったのだ。手入れも行き届いていて、逆の意味で手の施しようがない。どうしよう。


ーーーーもし解体(ばら)していいなら何かしら分かるかも...


「どう?」

「うひぃやぁ!!」セナは飛び上がった。

「大丈夫?」心配そうに少女...ココナはセナの顔をのぞきこんだ。今度は、心臓が飛び上がる。

「だ、大丈夫、大丈夫です、はい!」上昇する心拍を抑えながらセナはバイクに欠陥がないことを伝えた。

「その、どういう不具合が有るんですか?」セナは単刀直入に聞いた。普通は最初に聞くことだが、そういえば聞いていなかった。どんなに優秀な内科医でも、問診なしに病気を絞りこむのは難しい。同じように、不調の原因を調べるなら、まず、どんな不調が起きているか知る必要がある。

「うーんとね、この子、何だか元気が無さそうだったの」

「え、えと、元気がないって...」まぁここまでバイクを大切にしている人からしたら、自分のバイクは我が子みたいなものなのだろう。セナはそう納得した。セナは許可を得てエンジンをかけた。しかし異常はない、いや、ある。と思う、多分。ココナがバイクを憂いに満ちた表情で見つめていたのだ。ここは『親』の感性に従って作業を進めることにしよう。とすれば問題は内奥だ。

「あの、このバイク、分解していい?」セナがそう聞くと、ココナは目玉が零れ落ちそうなほど目を見開いて、うん、と言った。そこからセナはすぐに分解を始めた。エンジンを取り外し、シートを取り払ってフレームを露にする。その様子をココナはわなわなとしながら見ていた。それを見ていたセナは、向こうで休んでいればいい、と言った。我が子が目の前で解剖されるのは誰だって見たくはないだろう。ココナは作業場のすみに腰かけると、すぐに寝息をたて始めた。疲れていたんだろう、そう思って毛布をかけてやった。セナはしばらく少女の無防備な様子に見とれていたが、そのまま唇に吸い寄せられるように近づいて、

「どうしたの?」ココナと目があった。セナは思いっきりひっくり返った。ココナはそれを見て笑い、

「君って、面白い人ね。」と言った。

「はい、オレ、面白い人です。」それを聞いてココナがまた笑う。セナは恥ずかしくなる。


ーーーーちくしょう、オレこの子にいいとこ見せたいのにさっきから失敗ばっか...


「ねぇ、外、行かない?」ココナはそう提案した。セナはうなずくしかなかった。





外はもうすっかり夜も更けていた。

「あのバイク、外側はきれいだったけど、内は結構ボロボロだったよ。」セナは率直な感想を述べた。

「私、あの子にいっぱい無茶させてたから...」ココナは伏し目がちになる。綺麗だ、とセナは思った。

「綺麗?何が?」ココナが問いかける。

「い、いや、何でもないよ!」セナはまた恥ずかしくなる。声に出てたのかよ、ちくしょう。

「基本的には部品交換になるから、うん、確かうちにある部品で全部賄えるはずだよ。」

「そう、ありがとう。」

そこからしばらく沈黙が続いた。セナは何を話していいやらと考えていた。そうだ、姉さん。姉さんのことを聞こう、そう思ったとき、ココナが口を開いた。

「君、本当に敏朗さんにそっくりね。」

「父さんのこと、知ってるの!?」そこからはココナの長い昔話を聞いた。15年前、オーストラリアに来ていた父、敏朗が、先住民族にまつられたココナを見つけたこと。彼らが言うには【惑星(ほし)皇女(みこ)】たるココナを絶望の渦から救い出す(おのこ)は世界の崩壊を止める使命がある、ということ。それに敏朗が選ばれてしまったこと。そして、〈風穴〉と呼ばれる場所で

「彼は私をかばって、死んでしまったの。」そう話すココナの紅い瞳は今にも壊れそうなガラス細工のようにだった。

「あの時の私は心がバラバラになって、本当に絶望の渦中にいたの。敏朗さんはそんな私を救ってくれた。彼は私の命の恩人なの。」そして敏朗の死を伝えるために工房にやって来たらしい。

「お父さん、君にとってはお祖父ちゃんね『嫁の死に目にも顔を出さんとこんな小娘といちゃこらやっとるような男はワシの倅じゃない』ってカンカンに怒って、」

「あぁ、じっちゃんなら言いそう。」

「だから今日、あなたのお姉さんがいなくなったことが私のせいになっててびっくりしたの。」

「そう、なんだ。」セナはガッカリした。確かに今までの話は半信半疑だったが、ココナが嘘を言っているようにも見えなかったから、本当なんだろうと思っていた。でも、肝心の知りたいことがすっぽりと抜け落ちていたのだ。一体姉はどこにいったのだろうか?

「心当たりがないわけじゃないの。彼女『父の研究を引き継ぐ』って言ってたから。」ココナの話によると、敏朗は学者だったらしい。ただフットワークが軽すぎて、冒険家と間違われることがよくあったそうだ。


ーーーー確かに、父さんのことを調べたら、大体冒険家って書いてあったし


「じゃあもしかして、姉さんは今オーストラリアにいるかもしれないってこと?」

「さぁ、私にはちょっと...危ない!!」ココナはセナの頭をつかんでものすごい力で下げた。もし抵抗していたら首が千切れとんでいただろう。

「グゥッ!」後ろを振り返ると、ココナの右肩が血に染まっていた。そこに刺さっているのは、


ーーーー角!?


ヤギだ、セナが今まで見たことがないような大きさのヤギがそこにいた。ヤギは口を開くとそこから紫色の煙をだした。セナがあっけにとられていると、

「早く逃げなさい!この煙を吸っちゃだめ!」とココナが突き飛ばした。

「でも、」

「でもじゃない!早く!」セナはココナに言われた通りにその場を一目散に逃げた。途中、後ろから真っ赤な閃光が走ったことも気づかなかった。





セナが家に戻ると、祖父が腕を組んで待ち構えていた。

「どこをほっつき歩いておった、仕事も」「じっちゃん、それより大変なんだよ!」

セナは事情を説明した。祖父は初め驚いた風だったが、すくっと立ち上がり、

「お前はもうあそこへ行くな。」と言った。

「何でだよ、何でいきなりそんなこと言うんだよ。」確かにあんな怪物に自分ができることがあるかと言えば、ない。だからといって、あそこに1人にしてきてしまったのだ。助けには行きたい。

「早くしないと、ココナさん死んじゃうよ!じっちゃんはそれでもいいのかよ‼え⁉仕事に私情は挟まないんじゃなかったのかよ‼…もういい、このバイク組み立てて助けにいく。」

「どうしても、いくのか。」祖父はその答えを聞くまでもなく、工房の奥に消えた。そして出てきた。見たことのない真っ黒なバイクを押して。

「なら、こいつを持っていけ。お前の姉の置き土産だ。ただ、こいつにはエンジンがない。こいつのポテンシャルを100%引き出せるエンジンをあいつは生みだせなんだ。それでも盾ぐらいにはできるだろう。…行くからには、きちっと助けて帰ってこい。救い出すまで、2度とワシにその顔を見せるな‼」祖父は気づいていた。モトがただのバイクではないことを、いや、正確にはバイクエンジンではないことを。2ストロークエンジンに見たことのない機構がついていることに気づいたのはセナがココナと家を出てすぐ。もしセナが分解していなければ、このバイクは2度と日の目を見ることはなかったあろう。レーシングタイプのボディとフレームに、オフロード用のタイヤ。そのすべてが特別製で、理論上マッハ3の重圧にも十分耐えられる。真っ黒なボディに所々金で戦馬を思わせる意匠が飾られた、そのバイクの名は、

終焉の運び手(ラスト・ブリンガー)…。」祖父はエンジン(モト)を装着して走り去ったセナを眺めながらそう言った。

「もし、あれがその名の通りのものだとしても、ワシはこの決断を間違いだとは思わんし、あいつの決意を誉めてやる、世間に後ろ指を指されるようなことがあってもだ。何せあいつは、ワシの家族だからな。」寂れた工房に独り取り残された老人は、誰にともなくそうつぶやいて寝床に向かった。





ココナは苦戦していた。この”山羊”、神経を狂わせる毒霧をはく。しかもその霧は引火性が強く、奴の吐き出す火炎によって一気に爆発する。炎を止めるには、火打ち石の役目をしているあの歯を全て折らなければならない。しかも毒霧が体内で生成されているなら、エネルギーを流し込んでしまえば引火して大惨事となる。それを警戒してココナは手を出せずにいた。このままでは夜明けが来る。人目が多くなる前にとどめを指さなければ。セナはそこに到着した。終焉の運び手(ラスト・ブリンガー)とともに。

「ココナさん、これ!」セナはココナの服装の変化に驚いたものの、ココナにバイクを託した。

「どうして帰ってきたの⁉それに君、まだ15歳でしょう⁉」

「年齢なんてどうだっていいんだ。確かに怖かったさ。でもオレは、君だから出来たんだ。君のためだから…。オレは、君が!」「ありがとう、これであいつに勝てる。このバイクを作った人と、貴方(・・)のおかげよ。ここは危険だから、下がってて。」セナはココナに言われた通りにした。

ココナはエンジンを入れた。メーターが表示されるディスプレイに、文字が写し出される。


『Petite et Dabitur vobis(求めよ、さらば与えられん).』


ココナはその言葉にうなずき、アクセルを全開にする。モトはフレームの限界から解き放たれ、音速の三倍、全力のスピードを出して”山羊”に突っ込んだ。待ち構えた”山羊”の角は粉々に砕け、首が胴体に陥没し、衝撃波でズタズタに引き裂かれた。その衝撃で体内の毒霧が引火し、”山羊”は内部の〈天使〉ごと吹き飛んだ。


翌朝、セナは登校の準備をして、ココナを見送った。昨日は一睡もできなかった。まぁ家についた時点で朝になっていたのは言うまでもないが、興奮が覚めやらなかったのである。きっと今日の昼頃に居眠りをして、クラスの笑い者になるだろう。でもそいつ等は知らない。昨日この街で戦いがあったことを、ひとりの少女が巨大な何かと戦っていることを。いやもう独りじゃない。ココナさんには姉さんがついている。姉さんのバイクが。いつか彼女が人々の目に止まるときが来るだろう。『正義の姫騎士』といった具合に。その時に自慢してやるんだ、あのバイクはうちの工房で出来たんだ、俺の姉さんはすごいだろって。オレも負けてられないな。

朝のHR(ホームルーム)、一枚の紙が配られた。来年度からは最高学年、それを自覚するために進路について書こう、というものだった。持ち帰ろうとするものが多い中、セナはすぐに提出した。そこには、


『進路希望:世界一のメカニックになる‼』


と書かれていた。





時は少し遡る。晩飯時も過ぎて閑散とした飯屋に、どんぶりを掻き込む音が響く。ただ、その人物のそれは一種の上品さすら醸すほど美しかった。豊満な胸に美しい括れ、妖艶な雰囲気を醸し出す女、〈鬼姫〉である。彼女は今や海鮮丼の虜になっていた。これで何杯目だろうか。彼女はおかわりを頼み、その間、テレビのニュースを眺めていた。

「…古代の動物展は、来週水曜日から。本物の冷凍マンモスも展示されるそうです。」

そこに写し出されたマンモスに〈鬼姫〉は片方の手を足の方へ、もう片方で体を抱くようにして、うっとりとした視線を向けた。


ーーーー嗚呼、なんと言う、逞しい…。まんもすと言ったか。あれを我が尖兵に…たぎるのぅ…!


そしてもう一杯海鮮丼を食べると、店を出ようとした。

「店主よ、美味であったぞ‼」

「そうかい、じゃあちょっと割引してやるよ。嬢ちゃん可愛いからね~。」

一瞬の間が発生した。そして、〈鬼姫〉は首をかしげた。

「はて、『わりびき』とはなんじゃ?」

「代金を安くすることさ。」

「はて、『だいきん』とな?」この一言にしばらくの沈黙が起きた。彼女が食べた海鮮丼は、可愛いからではすまないほどの量だった。店の扉は青筋を浮かべた店長によって閉められ、その日〈鬼姫〉が店から出ることは、なかった。

無銭飲食も未成年がバイク乗るのも犯罪ですね。皆さんは真似してはいけませんよ。ココナさんは見た目のせいで、しょっちゅう警官に止められるそうです。


次回 「魅せられて」 お楽しみに!


※この作品はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません。

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