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黒き風の皇女(おとめ)  作者: 吉田さゆか
邂逅 -1989-
4/14

紅い瞳

今回は「説明回」です。


12/7 能力名称変更

ココナは新しい服を買うために洋服店に来ていた。前から着ていた服は、先日の戦闘でボロボロになってしまった。直すこともできなくはないが、この服、実を言うと時代に取り残されてしまっている。どうせなら今時流行りの服の方がいい。ココナはそこまで服装に興味を持っていないが、それでも最低限のオシャレぐらいはする。

ココナは店員に予算を伝え適当に服を見繕ってもらった。少々子供っぽく見えてしまうが、見た目相応で服に着られている感じはしない。ココナは店員に礼を言い、代金を払って店をあとにした。


ーーーー時代はやっぱり「渋カジ」ね。


実はこの時点でココナは騙されていた。といっても悪いものではなく、ココナはかなり得をしているのだ。初めココナが来店したとき、店員たちの視線は釘付けになった。背中まである混じりけのない真っ白な髪、人形のように整った顔、未発達の体はギリシア彫刻の女神を彷彿とさせるほど美しい。店員は皆しばらくココナに見惚れていたが、すぐに自分の持ち場に戻った。しかしココナが自分で服を選ぶ気がないと知って、彼女たちの目が獲物を見るそれに変わった。彼女たちは思い思いのコーディネートをココナに施し、最終的に全員が納得のいくものになった。それは最早ココナの予算など2倍も3倍もオーバーしていたが、彼女たちにはどうでもよかった。といってもタダというわけにもいかないので、予算分はしっかりといただいた。

このココナの姿が後に渋カジと呼ばれるようになるファッションがブームするきっかけの1つとなることを彼女たちは知らない。





ココナはモトを探していた。「モト」という名はココナがつけた。モーターバイクからとった、かなり安直な名前だ。3年前、川に打ち捨ててあったのを引き揚げて修理、改造したのだ。それ以来いつも共に行動していたのだが、あの高速道路で離ればなれになってしまった。今どこで何をしているだろうか、自立走行できるのであの場にはいないだろうが、いまだ合流できてないところを見るとココナとの結びつきが途切れたのかもしれない。


ーーーー私は東京にいるわよ、モト


そんなことを考えながらココナは紅い瞳を伏せた。ココナはアルビノである。アルビノとは先天的なメラニンの欠乏のことで、それゆえ髪の毛は白く、瞳孔は毛細血管の透過により赤色を呈する。ほとんどの場合視覚的な障害を伴い、日光による皮膚の損傷や皮膚がんのリスクが非常に高い。それゆえに改造される前のココナは一度も外に出たことがなかった…らしい。ココナには改造前の記憶がないのだ。自分の過去は伝聞程度でしか聞いたことがない。今までの旅は自分のルーツを見つけるための旅だった。その旅にも疲れ、あの街に腰を据えようと思った。街の人はいい人ばかりだった。

そこに現れた〈天使〉。ココナは昔、天使と戦ったことがある、といってもその「失敗作」だが。

もしその研究がすでに完成していたら…?自分を造った男『神坂奏人』にもいつか出会えるはずだ。失敗作は彼の妹が作り上げた物だ、彼なら完成品を持っていてもおかしくない。ココナはそう考えて〈天使〉を追っているのだ。

「おじょーさん♪」

不意に呼び掛けられた。軽薄そうな男の声だ。ナンパだろうか?

「きれーな髪してるね~」振り返ると、女性が絡まれていた。


ーーーーなんだ、私じゃないのね。


ココナだって女だ、一度でいいから声をかけられてみたい。


ーーーーまあ、あんな男はこっちから願い下げだけれど。


実際はココナの美貌に気後れして誰も話しかけられないだけなのだが…。そんなことより目の前の事案である。女性は嫌がっているように見えるのに、男は引き留める手を放そうとはしない。

「ちょっと、その(ひと)嫌がってるじゃない。解放してあげなさいよ。」

「何だよ、ガキには用はねぇよ。」

「…女を見る目がないのね。」

「なんだと⁉」男の注意がこちらに向いたことで女性は逃げることができた。

「あっ待てよ!…テメー、よくもやってくれたな。」

「あら、女日照りだったの?中身はどうあれ、顔はまあまあいいのにね。」

「舐めやがってェ!」男は殴りかかってきた。しかし大振りだ。昼間で身体能力が低下しているとはいえ実戦慣れしているココナには難なく避けられる。ついでに足を払ってみせた。いとも簡単に転んだ。

「へぇ、慣ていると思ったけど、案外うぶなのねぇ。筆下ろししてあげてもいいのよ?」ココナは男を見下ろして言う。するとドッと笑いが起きた。いつの間にか人だかりができていたようだ。男は捨て台詞を吐きながら車に乘って逃げた。ココナはそっと立ち去ろうとしたがそう上手くはいかず、人だかりに押し潰されそうになったのだった。





ココナは先程助けた女性のことを考えていた。顔は見ていなかったが、どうもどこかで会った気がする。バイクオイルの臭いがしたので、おそらくバイク乗り(ライダー)だろう。しかしバイクは見当たらなかった。


ーーーーそういえばあの臭い、モトのエンジンオイルと同じだったわ。


もしやさっきの女性はモトの居場所を知っているのではないか?そう思ったココナはすぐに臭いの後を追い始めた。



どうもおかしい。臭いの跡はどんどん人気のないところへ向かっている。この先には宿場も住宅もない。あるのは倉庫と廃墟、といったところか。もう夜だ、闇討ちにはぴったりの時間と言えよう。


ーーーーまさか、罠?


臭いは廃工場の中に続いていた。ココナは気配を消して窓から潜入した。そこには先程の女性が立っていた。こちらを向いていないので顔まではわからない。その女性はバイクのメンテナンスをしていた。バイクはSUZUKI-RA125。あのカラーリングは…

「モト!」ココナは思わず叫んだ。女性が振り向く。

「んなっ…」満面の笑みをこちらに向けた青緑の目の女性は、ココナが救えなかった’彼女’にそっくりだった。

女性は初め笑顔であったが、目を見開いてこちらを見、そのまま目に涙を浮かべてへたりこんだ。彼女はココナを指差した、いや正確にはその後ろ…

「ッ!」ココナは後ろからの攻撃を避けた。攻撃を仕掛けたのは…


ーーーー蜘蛛?


ココナほどの大きさはあろう巨大蜘蛛がココナに青緑の目を向けていた。その数1、2、3…5匹。あの女性が敵か味方かわからないが、いざとなれば対処すればいい。今はこちらに集中すべきだ。

ココナは距離を積めようとした、が’’蜘蛛”の糸に阻まれた。

「グウッ!」糸が絡み付いて動けなくなってしまった。ほどこうとすれば、粘着性の糸はさらに絡み付く。


ーーーー変態(へんしん)!


瞬間、紅い閃光が工場内を支配した。そして、これらのことが一瞬で起こった。

・閃光と共に服が消失。

・〔賢者の石〕のエネルギーが蒸気となって蜘蛛の糸と体表の皮膚を吹き飛ばし、筋肉があらわになる。

・むき出しの筋肉を覆うように赤黒い強化外骨格が発生する。

・その外骨格を包み隠すように新しい皮膚が生成される。

・新しい皮膚から赤や黒の毛が生えてドレスの形をとる。

・ドレスのベルト部分に金属製のバックルが生成され、そこに赤と白の結晶体が発生する。


ココナは光に怯んだ”蜘蛛”の頭部に拳を叩き込んだ。拳は頭をぶち抜き、腹部まで突き抜けた。ココナは止まらず、次の”蜘蛛”にも襲いかかる。2匹目は首を切り落とし、3匹目は腹を抉り、4匹目は荒い床面で頭部を磨り潰した。残るは1匹。だが…


ーーーー‼


ココナが振り返ると、そこには今さっき倒した4匹が歪な形で組合わさっていた。


ーーーーこいつら、頭を潰しても死なないの⁉


そういえば”死神”を木っ端微塵にしたら”巨人”に姿を変えた。”巨人”が復活しなかったことから考えると、エネルギーを流し込めば倒せるかもしれない。


ーーーーでも、こんな街中でエネルギーを流し込む(あのわざをつかう)訳には…


エネルギーは毒のように徐々に体を侵しその身体を燃やすが、そのとき使われなかったエネルギーは爆発現象を起こして霧散する。街中で安易に行えば、街は一瞬で焦土と化してもおかしくない。ココナは街中で戦うにはあまりにもオーバースペックなのだ。エネルギーを小出しにすることはできなくはないが、前回の戦闘を除いてブランクが最低でも5年は空いている。正直成功するか怪しい。


ーーーーだからといって、”蜘蛛(こいつ)”を放っておくわけにはいかないわ。


ココナは意を決して巨大蜘蛛の集合体に向き直った。蠢くその姿は、人のようにも見える。まさに”蜘蛛男”だ。

「ヤァァァ!」

ココナは”蜘蛛男”のみぞおちに拳を入れた。エネルギーは最小にして打ち込んだ。派手に吹き飛んだが、どうも効かなかったようだ。エネルギーが少なかったらしい。


ーーーーそれなら!


ココナは飛び蹴りをくらわせた。今度はもう少しエネルギーを込める。”蜘蛛男”は派手に吹っ飛び、その後赤熱しだした。

「グギ…ギャァァァァァァァ‼」

”蜘蛛男”は火を消そうと転げ回った。しかし、炎は”蜘蛛男”の身体を焼き続ける。そして、轟音と共に爆散した。


ーーーーまぁ、これくらいならいいんじゃない?


爆発は起きたが、そう大きなものでもない。それに、内部の〈天使〉も燃やし尽くせただろう。ココナ立ちのぼる炎を消し、先ほどから傍観していた女性に向き直った。エネルギーを流し込む事でようやく倒せるのならば、最初に遭遇した〈天使〉はまだ死んでいない。’彼女’の意識が回復したのは、〈天使〉が”他の物体に乗り移った”から、ということになる。


ーーーー新しい素体(からだ)を手に入れていたとしたら…


そうするとあの女はまず間違いなく敵だ。その場合、何の酔狂で敵のバイクのメンテをしているかということになるが。可能性は低いが、他人の空似ということもある。

ココナは女性に近づいた。女性の方はぽかんとしていたが、すぐに我に帰ると…ココナに抱きついた。

「うぇッ⁉ちょッ…」ココナは振りほどこうとしたが、敵意を全く感じなかったのでそのままにしておいた。ココナの予想はたぶん外れだ。女性はココナから離れようとしない、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「怖かったでしようね…でももう大丈夫よ。」ココナは女性の頭をそっと撫でてやる。

「ところで貴方、そのバイクどこで拾ったの?実は私のものなんだけど…」ココナはモトを指差して言った。女性はその質問に答えようとしたが声がでないらしい。指を自分とバイクに交互に指している。

「貴方のものってこと?」ココナが訪ねる。いくらあのバイクがモトでも、ココナは一度手放してしまっている。そのときに所有権はなくなった、ということか。すると女性はかぶりを降って、今度はココナと自分の間を交互させている。ココナはその動作を何度か見たあと、納得したようにうんうんとうなずいて、暫し固まった。そして

「モトォォ⁉」と叫んだ。女性は”モトだった”のである。





モトには人工知能が搭載されているわけではない。ではどうやって自立走行しているかというと、〔水素原子を操作する能力〕である。ココナが自分の過去を調べるうちに思い出した力のひとつだ。水分子に作用して擬似的な思考回路を構築したのだ。あまりにも非現実的な仕組みだが、昔のココナはこれを息をするように行ったそうだ。たくさんの付喪神に守られたその姿は、悪魔のようであり、女神のようでもあったと言う。今は使えない。モトを起動させるとき、ただそのときだけ偶然使えたのだ。もしかすると〈天使〉はモトの精神に肉体を与えて消滅したのかもしれない。

「モト、せっかく人の身体を手に入れたんだから、美味しいご飯、食べてみたくない?」エネルギーをすべて〔賢者の石〕から補給できるココナに、本来食事は必要ない。しかし『食事は心を豊かにする』という信念のもと、毎食きっちり食べているのだ。モトは快く承諾し、バイクに潜り込んだ。モトが「さあ乗ってください」と言わんばかりにエンジンをふかす。それを見ていたココナは


ーーーーバイクから人、か。「オートバジン」みたいね。


などと考えながら、昨日食べたうまいラーメン屋へとバイクを走らせた。



新たな謎をいくつか増やしてしまいました(焦)。それもこれから明らかにしていきます。

次回「ブラックホールメッセージ」 お楽しみに!


※この作品はフィクションです。実在する人物団体は、一切関係ありません。

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