メメント・モリ
取り敢えず最後に書いたやつをあげておきます。活動報告でもお知らせした通り、もう少し内容を吟味し、展開を緩やかにして再スタートを切るつもりなので、この話が事実上の最終話となってしまいます。こんな歯切れの悪い状態で一旦終わりにするのが自分でも許せないんですが、この物語の世界観(劇中実登場なので詳しくは言いません)のせいで、キリのいい〆が出来ない事をお許しください。
再始動は来年度の夏を予定していますが、何分遅筆の私の事なので少し延びてしまうかもしれません。しかし、必ずやこの物語を完結させて見せます。このお話に最終回設定をしていないのもその決意の現れだと思ってください。
....前置きが長くなってしまいましたね。それでは、お楽しみ下さい!
「はッ!」ココナは起き上がった。口のけがは治っている。辺りを見回しても、ヒトミもユキも見当たらない。
ーーーーまさか、放っていかれた?...という訳ではなさそうね。林も崖もない、見渡す限りの草原...ってここどこよ!?
「冗談じゃないわ、いったい全体何が起こってるっていうのよ。」
空を見上げれば太陽が暖かい光を放っている。柔らかく慈愛に溢れたその輝きは、心を鎮め、穏やかな気持ちにさせてくる。
ーーーー心地いい光...。......まさかとは思うけど、もう私は死んでしまって、ここはあの世のお花畑ってことはないでしょうね...
この場に止まっていても仕方がない。ココナは誰かいないものか、と辺りを歩き回った。
※
日陰に到着した。すると、ココナのアゴが少しずつ整っていき、胸の傷もふさがった。しかし、目覚める様子はないし、呼吸音も鼓動も聞こえない。やはりココナはもう目覚めないようだ。ヒトミは〔糸〕でがんじがらめに拘束したユキを引き寄せ、口の部分にある糸を取り敢えず取り払ってやった。
「...。」ヒトミはそばに転がっていた拳銃を拾い上げた。壊れてはいないようだ。暴発の危険性もない。それを確認すると、銃口をユキの眉間に向け、引き金に指をかけた。
「............。」その状態で1分ほど静止していたが、拳銃を上着の内ポケットにしまうとユキの頬を平手打ちした。
「ッつあ。」小さな悲鳴をあげながら覚醒したユキはしばらくポカンとしていたが、意識が追いついたようだった。
「あの、ヒトミさ...あれ?動けない。」
「あんたさっきいきなり走り出したでしょ、危なっかしいから拘束したの。」
「そうですか...。あ、そうだ、ココナさんは?最後に見えたのが、彼女と“あの子”だったから。」
「そっちで寝てる。...今、“あの子”って言ったわよね。〈幽霊〉のこと?」ヒトミは何とか感情を押し殺してそう言った。ココナを殺した〈幽霊〉は憎いが、ココナが死んだ事をユキには悟らせない方がいいと思ったのだ。
「そうです。名前がないと困るので、私は〈スティフ・キトゥンズ〉って呼んでますけど...。」
「ペットみたいね、まるで。」ヒトミは皮肉ったように言った。
「...あのお話のあと、ずっと考えていたんです。守護霊ってどんなのかしら、って。」その後、仕事終わりの帰り道で捨てネコを見つけたらしい。
ーーーーなるほど、捨て猫ってことね。てっきりスティフは「獰猛な」とばかり...
「手に乗せようとしたらふわっと浮かんできて、その時に、『あ、この子が私の守護霊なんだ』と、直感したんです。何故と聞かれると自分でもわかりませんが...」
「...それは、」ヒトミは問いかけた。「それは、あんたのイメージした“守る姿”そっくりだったって事?」
「それも、あるかもしれません。今は、私が背中に乗れそうなほど大きくなって...。」ユキは伏し目がちになった。
ーーーー自身の“戦う意志”を具現化した姿。そして、意識を失っている間は活動をしない...か。
「動くな」ヒトミの頭に拳銃が突きつけられた。「手を後ろに回して頭の後ろで組め。」ヒトミはその声の指示にしたがった。
「お嬢様、ご無事で...」「あんた素人ね。」声の主である男の目に入ったのは、頭の後ろで手を組んでいたはずのヒトミが、拳銃を奪ってその銃口をこちら向けている、という情景だった。
「なッ!?」乾いた銃声が2発響き、男は崩れ落ちた。
「ぐうぅッ...!」「か、蔭山!?」男はユキの知り合いだったようだ。
「大丈夫、比較的後遺症が残りにくいところを撃ったから。傷が治れば歩けるようになるわ。」
「そ、そうですか...。」ユキは目を見開いたまま、瞬きもしない。
蔭山と呼ばれた男に尋問しようとしたヒトミだったが、足音が聞こえてきたため、そちらに集中した。その数4、5、6...10人以上はいる。全員が武装していることをみても、ここに迷い混んだわけではないらしい。
ーーーー〔糸〕で足止めしたいけど、見えないぐらい細くしたら、腕とか足とかスパスパ切れちゃうからなぁ...
「ユキちゃん、あんたの父親ってただの富豪なのよね。」
「は、はい。...成金、とも言いますけれど。」
「やれやれ、意外なところで点と点がつながちゃったわね。」ヒトミはボサボサの頭をかきむしって、糸でがんじがらめのユキとココナの死体を抱えた。
「え?」
「逃げるわよー!」ヒトミは崖の方に突っ走ると、そのまま海の方に飛び降りた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」しかしそこにあったのは海ではなく飛び出た岩地。このままではぶつかってしまう!
ザバァンという音と共に黒いバイクが海から現れた。そのバイクは岩地で前輪をあげ、崖の壁面に立て掛けると、前後輪を回転させて、壁面を登り始めた。
「モトちゃん!」ヒトミはすぐに気付き、モトの体に抱きついて背中合わせに座った。そのまま自分の体をバイクに固定すると、ヒトミは先程手放して今まさに岩地に激突しようとしている2人を糸で回収した。
「そのまま運転お願いできる?」ヒトミがそう言うとモトはうんとうなずいた。
「お嬢様ァ...!!」箕輪家の使用人、蔭山は木に寄り掛かりながら何とか立ち上がった。このままではいけない。あそこは真下が海ではない。今頃あの女は地面に体を打ち付けて死んでいるはずだ。お嬢様はあの力があるので大丈夫だろうが、安否を確認しなければ。
そう思って崖の方を見ると、そこからバイクが飛び出してきた。
ーーーーなッ、崖壁をのぼって...?
驚いていると、体に白い綱のようなものが巻き付いてきた。えっ?と顔をあげると、先程の女が不適な笑みをしていた。
「あんたもくるのよ!」
「まさ、かうあぁぁぁぁぁぁあぁ!!」言い終わらない内にモトが加速を始めたため、水上スキーのような体勢で引きずられていった。
「逃げるのはやめ。突撃よー!」ヒトミのその声に答えるように、モトは機関銃を持った黒服の群れを蹴散らしていった。
※
「これは...」ココナの目に留まったのは、草原に突き刺さった本棚。天まで届きそうなその中に、びっしりと本が敷き詰められている。
ーーーー小説だけじゃない、漫画にビデオテープ、あら、ゲームまであるわ。
手に取って読んでいる内にココナはある違和感に気づく。読んでいる間はそれが何であるのかが分かるのだが、目を離したとたん、どこまで読んでいたか、そもそも何を読んでいたかを忘れてしまうのだ。
ーーーー...むむむぅ、今度こそ忘れないわよ!...フムフム、『ファンタシースター』、確か、ドラクエに対抗して製作されたゲームよね。...プレイしたくなってきた。どこかに本体ないかし
【おおおお勇者よ!!!!死んでしまうとは情けない!!!!】
「うひぃィィィィィィィィィやぁァァァァァァァァァァァ!?」耳元で突然大きな声がしたので、ココナは手に持ったカセットを落としそうになった。
「おっとと、とっ!...ふぅ。もう、いきなり何すんのよ!」
【ふふっ、そんなに驚くことないじゃない。まぁ前来た時は殴りかかられたから、それよりはマシかもしれないけど。】ココナを驚かせた女性はあごに手を当てて、不敵に微笑んでみせた。
ーーーーあ、さっきのゲーム何てタイトルだったっけ。
【一緒にお茶しましょ。ここの資料ならあとからいくらでも読んでいいし。ま、今の貴女には意味ないでしょうけど。ほら、もう読んでいた内容を忘れ始めているでしょ?】
「そう言えば、何か見てたような気がするけど...。」
【...マジで言ってる?】ココナがうなずくと、女性は困った顔をしはじめ、
【私、どんな風に見える?】と言うと、両腕を広げて見せた。
「どんな風って...あれ?」女性を凝視して気づく。彼女の身体的特徴が何一つ挙げられないのだ。太っているか痩せたいるか、巨乳か貧乳か、髪は長いか短いか、そんな正反対の事すら見分けられない。
「わから、ない...?」それを聞いて女性は口を一文字に結んだ。
【ここに来るのはまだ早かったみたいね。いいわ。とりあえずお茶にしましょう。その後元の場所に帰してあげるから。】
「え、えぇ。わかったわ。」ココナはいろいろ要領を得なかったが、お茶をいただいてから考えることにするのだった。
※
「...不味いことになったな。」〈皇考〉は呟くようにそう言った。〈禰宜〉は怪訝な様子だったが、〈鬼姫〉は言わんとしていることが分かっているようだった。
「【惑星の皇女】が死んだのじゃ。これよりこの世界は崩壊を始めるじゃろう。」
「そんな、まさか...。」〈禰宜〉も状況を理解したようで、青ざめた顔になった。
「どうすれば良いか、どうすればよいかのぅ!?」この場で1番気が動転しているのは〈鬼姫〉である。今から世界の崩壊が始まるとして、この星の人間、いや、この国の人間すら救うのは難しいだろう。
「無理だ。第一、お前の力はまだ万全ではないだろう。」〈皇考〉は冷たく言い放つ。しかし、この状況をよく思っていないのは確かなようで、仕方ないと結論付けたりはしなかった。
〈禰宜〉は自分の行動を省みていた。どこに間違いがあったのか。人心を得るためにこの国の要人に接触し、不死の力を示して見せた。
地球人は原生民とは違い、その力に魅せられ、確認事項としての人体実験に協力を申し出てくれた。尤も、自分達が実験体にならず、所謂金の力というやつで実験台を寄越してきただけだが。
その実験台は一応の成功を示したが、何らかの衝撃を受ければ人間の姿を保てなくなる不完全品だった。そう言えばあれも行方不明だったか。あれに【惑星の皇女】が殺せるはずはない、無力化はできるだろうが。しかし今のところ承路盤しか自分達を除いて神有月ココナを倒せる存在を〈禰宜〉は知らない。しかも、もし他に存在していたとしても殺してしまえば世界が消えてしまうココナを倒すメリットがない。
ーーーー力があり、そして無知なものの犯行...
ピンポーン
不意に聞こえてきたインターホンで〈禰宜〉は現実に引き戻された。改めて周りを見てみると、6畳一間の真ん中に置かれたちゃぶ台を取り囲んで、世界の崩壊だのなんだのと真剣に話し合う奇妙な光景がそこにはあった。
「はぁーい」〈鬼姫〉は〈皇考〉との議論を止め、そそくさと玄関へと向かっていった。〈鬼姫〉はすっかり近所の人と打ち解けたようだ。ご近所付き合いで「おすそ分け」をする内に料理を作る喜びにも目覚めたらしく、最近では、<禰宜>が帰ってくると<鬼姫>が割烹着を着て台所に立っている、という事が多くなった。
「見よ、肉じゃがをもらった。今晩食そうぞ!」
「そんなことを言っている場合では...」<禰宜>の発言を制し、<鬼姫>はこう語った。
「こんな時だからこそ、じゃ。ネギよ、良き考えは快い心から生まれる。行き詰まった時は、先ず張りつめた糸をほどいた方が早いこともある。広い目で見なければ見落としてしまうこともあるでな。」そして<皇考>に向き直り、
「わらわは斥候としてこちらに来たゆえ、おぬし等がどう考えておるかは知らぬ。じゃがここの者も、故郷の者もわらわにとっては等しく救うべき衆生じゃ。それを曲げるつもりはないぞよ。」
「解っている」<皇考>は落ち着いた声で言った。「我々(わたし)はまだこの世の者達に対する判断は下しておらん。故に其方の意を必ず汲むと確約はできぬそれでも良いか?」
つまり、協力してくれるということか。<鬼姫>は喜びに満ちた顔をして「ああ!」と答えた。
ご覧の通りです。少し展開を急ぎすぎたせいで、早々に話が終わってしまいそうなのです。全部で50話程度にしようと思っているので、この話は35話くらいに食い込んで来ると思います。
それと、再始動時には挿し絵を入れたいと考えています。もし挿し絵を描きたい方がいらっしゃいましたら、感想の一言欄にその胸をご記入願います。




