対象のいないストーカーは、ただの人だ。
気がつくと草原に私は立っていた。
十歳になった私は身長は縮んでいるから、まずは服を着替える。誰もいないから隠れずにそのままだ。そしてそれなりに育ってた胸もすっかり小さな女の子だ。悲しい。
体を強くするから若返るって変な話だけど、宮田くんと年が近いならいいかも。
「制服はは一応持っておこう」
そう、私は高校の制服で来た。なんとなくそうしたかった。
今の体の着替えは数着入ってたから、しばらくは大丈夫だろう。レストランでバイト代もらえたら買い足そうかな。
さて、どこに向かって歩けばいいんだろう?
途方に暮れていると、微かに人の声が聞こえてきた。地面からも響く音を感じる。大地の神様の加護かな?
音の方に歩いて行くと馬車が数台見えて、街道らしき道も見えた。
「すみません!」
ドキドキしながら声をかける。御者台に乗ってる男の人が私を見た。
男の人……大丈夫、ちょっとポッとなるくらいだって神様が……
「ん?こんな可愛いお嬢ちゃんが一人でどうしたんだい?」
男の人は少し顔が赤くなったけど、あの狂う感じじゃなかった。心配そうに見てるだけだ。
もう大丈夫なんだ!私は大丈夫なんだ!
「お嬢ちゃん?」
「あ、す、すいません!あの近くの村から来たんですけど、王都に行きたくて…ちょっと迷って…」
「あはは、元気だね。近くてもなるべく大人と来ないと駄目だぞ。魔獣が出たら大変だ。王都までなら乗せてくよ」
「いいんですか!?」
「近くだしな。通行証は持っているのかい?」
「教会の紹介状があります」
「なら尚更だ、乗って行きな。教会から来たんなら神様の使いみたいなもんだ。親切にしたら良い事ありそうだからな」
確かに神様と関わったけど、きっと何もないと思うよ。なんだか申し訳ないなぁ…。
せめて私がこの人に良いことがあるよう祈っておこう。
しばらく馬車に揺られていると、砦みたいな建物に高い壁が長く続いているのが見えてきた。
おお、なんか万里の長城みたいだ。
「すごーい…」
「お嬢ちゃんは初めてかい?あれが王都への入り口だ。あの壁は王都をぐるっと囲んでるんだぞ」
おお、大迫力。
男の人は商人みたいで、他の馬車も王都で商売する荷物だという。短い時間だけど、他の馬車の人達とも色々話して楽しく過ごした。
「ありがとう!おじ…おにいさん達!」
「あっはっは、おじさん達でいいよ!お嬢ちゃんも『森の憩い亭』だっけ?仕事頑張れよ!」
嬉しくなって笑顔で手を振ると、商人さん達は顔を赤くしてた。照れ屋さん達なのかな?
検閲所で教会の紹介状を見せると、兵士のお兄さんが『森の憩い亭』の場所を教えてくれた。会う人が皆親切なのが嬉しくてニコニコお礼を言うと、やっぱり顔を赤くしてた。この世界には純情な人が多いみたい。
王都に入って教えられた道を歩くと、森の憩い亭があった。道を挟んで石造りの厳つい建物があり『冒険者ギルド』と入り口にあった。
なるほど、だから森の憩い亭には情報が集まりやすいのか。
お昼が過ぎていたからか店内にはほとんど人は居ない。
外観もそうだけど、内装もログハウス風の造りで、隣の棟は宿屋になってるみたいだ。私はキョロキョロしながら、お店の人を探した。
「いらっしゃい、おや、ずいぶん可愛いお客様だね」
奥から濃い緑髪の中年女性が出てきた。店員さんかな?
「あ、は、初めまして、マイコといいます。これ、教会の紹介状です」
「ああ、アンタかい?教会の紹介状とステータスを確認させてもらうよ」
紙に印字してあるステータスは、事前に確認したら神様が適度に隠してあった。
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名前:マイコ
年齢:10
レベル:1
HP:120〈500〉
MP:80〈500〉
魔法:土魔法〈隠密の心得(隠遁、火遁、水遁、地走り)、精神魔法(魅了)〉
加護:大地の神、〈隠者の神、美の神、渡りの神、ガイアの神〉
称号:〈強き魂を持つ者、理を持つ者の守り手〉
適性職業:吟遊詩人、〈隠密〉
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紙には私だけに見える部分があって、カッコ表示されていた。
この紙も魔法なのかなぁ…
「じゃあ、今日の夕方から働いてもらおうかい。私はカミーラだよ」
カミーラさんは紹介状を受け取り、ステータスの紙は返してくれた。
おかみさんはカミーラさんか。うん。覚えやすい。
「隣の宿屋は息子がやってるんだ。マイコはレストランでウェイトレスを頼むよ。夜は酒場になるけど、バイトが来るから入れ替わりであがってくれてもいいよ」
「分かりました、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると「いい子が来て嬉しいよ」って言われて、頑張ろうと気合を入れる私なのでした。
お読みいただき、ありがとうございます!