ストーカーを自覚した私はとうとう…。
少し過激な描写が入ります。ご注意ください。
夏休みに入るということで、私は少しテンションが低かった。
二人の関係は進むことは勿論無い。
私は大学受験のために勉強しつつ、なんとか宮田くんを見守る時間を作っている。
私のテンションが低いのは、卒業後の進路がだいたい決まったからである。
私は通学一時間かかる女子大で、宮田くんは近くの国立大学だ。
同じ大学は諦めていたけど、こうなると私が唯一見守れる通学時間がアウトなのだ。
ため息をついて、窓から宮田くんの部屋を見る。
今日も遅くまで勉強してるんだな…
マンションから見える宮田くんの部屋は、まだ電気がついていた。もちろんカーテンはしまっている。こちらも双眼鏡などは持っていない。まだ。
春に生徒会の引き継ぎを終えて、宮田くんは早く帰ってくるようになった。
生徒会長退任の挨拶では結構な人数の女子が泣いていた。相変わらずの人気だ。卒業式とかどうなっちゃうのかな。
朝、ちょこちょこ忘れ物をして引き返す宮田くん。
玄関のドアを開ける時、足で開ける癖のある宮田くん。
意外と妹さんの面倒見がいい宮田くん。
うん。
「私、ストーカーだわ」
「今更?」
「去年の夏休みは親が帰ってきたけど、今年は帰らないからストーカーし放題だ。捕まる。ヤバス」
「もうさ、告白…いや、友達になろうとか言っちゃいなよ。下向いたままでいいからさ」
「無理だよー」
「ほら、夏休みにお祭りあるじゃん。誘うとか」
「無理無理無理無理無駄!」
「無理かもだけど無駄じゃない。とにかく目標は祭りに誘うって事で」
「沙耶が誘ってよー」
「無理。家族旅行だから」
ニコニコしている沙耶。分かった。分かりました。
「浴衣買う。宮田くんが祭りにいたら話しかける。それが限界」
「よく言った」
こうして夏休みに向け、インポッシブルじゃないミッションを抱え込む私だった。
「本当にいるし……」
夏祭りの夜。宮田くんが屋台の通りをゆっくり歩いているのが、遠目でも分かった。
彼の周りの女の子がキャアキャア言ってる。彼はそれを自然と避けながら、ゆっくり何かを探すように歩いている。
誰かと待ち合わせでも無さそうだ。友達がいそうだから探しているというのが可能性的に高いだろう。
宮田くんは女の子と親しくしていない。自分の事が分かった上でなのか、男友達ばかりとつるんでいる。彼女もいないはずだ。
祭りなのを良いことに、新しい浴衣にお面をつける私。今日だけはこれで行けるはずだ。ちょっと恥ずかしいけど。
人ごみを避け、一度お面をとって汗を拭く。夜とはいえ暑い。
不意に花火の音が聞こえて、空を見上げた。花火の時間って事は七時過ぎたということだ。
急に誰かに腕を掴まれ、大きく引っ張られた。
「痛っ!何……っ!?」
つい見てしまった。『男』を。
私を見て狂う男ではない。こいつはすでに『狂っている』
「やだっ……離せ……!!」
恐怖のあまり大きな声が出せない。
怖い。怖い。誰か。
そのまま抱きつかれ、首すじを舐められる。
気持ち悪い。吐きそうだ。
浴衣に手を入れられそうになるのを必死に抵抗する。
もうやだ。こんな事されるくらいなら、いっそ……
「何やってるんだ!!」
「!?」
入り込む甘い香り、私の大好きな香り。
「大丈夫?」と聞かれて、泣きながら頷くことしか出来ない。
宮田くん…宮田くんだ…
「邪魔しやがってえええええええええええ!!」
男は怒り狂い、金切り声を上げて銀色の何かを振り回しながら向かってくる。
「危ない!!」
宮田くんは私を押し倒すと、そのまま体重を乗せてきた。何度か衝撃を感じると、狂った男の奇声は遠くなっていった。
「……宮田くん?」
「ごめ……ちょっと……動けなくて……」
宮田くんの甘い香りに、ねっとりと鉄の臭いが混ざる。
花火が上がる。
一瞬明るくなって見えた、宮田くんの白いワイシャツに、黒く広がる……血?
お腹にある傷を押さえ、何度も彼の名を叫ぶ。
救急車はまだ来ない。
彼は「俺の名前、知っててくれたんだ」って、微笑んだ。
知ってるよ。有名人でしょって泣くと「浴衣可愛いね」って、なんで今そんな事言うのって泣いてるのに、彼はずっと微笑んでいた。
なんで彼は微笑んでいたんだろう。
分からない。何も分からない。
ずっと彼を見てきたのに。
彼との最後の会話も、まったく理解できない。
彼の考えも、彼の思いも、彼の夢も、あんなに彼を見ていたのに。
私は彼の事を、何も知らなかったんだ。
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