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弟子は歌い手。

歌の仕事が入った。

子供のマイコは夕方の早い時間に歌って、夜は師匠が歌うことになった。

その話をどこで聞きつけたのか、商会長のケーラーさんと兵士長のヨアヒムさんが夕方の開店早々に店に来た。


「マイコちゃん!久しぶりだね!」

「今日は歌うと聞いて、仕事を早々に終わらせて来たぞ」


「いらっしゃいませケーラーさん、ヨアヒムさん。今日はありがとうございます」


ぺこりとお辞儀すると、二人は照れたように笑った。そして私の背後に立つ師匠に鋭い目を向けた。

私は慌てて言う。


「あ、あの、こちらは私の師匠のサンダルフォンさんです!」


「お二人の話は弟子のマイコから伺っております」


師匠の名前を聞いて、驚いた顔をする二人。


「貴方があの吟遊詩人サンダルフォン!?」


師匠って有名人?


「大した者ではありませんよ。あと私は旅を続けるのでマイコの師匠でいられる期間も限られています。私が離れたらマイコをよろしくお願いします」


「当たり前だ」


男らしく言い切るヨアヒムさんの言葉が嬉しくて、つい顔がにやけてしまう。


「では、少し音合わせをしようか」


「はい、師匠」


なぜか顔を赤らめてる二人にぺこりとお辞儀をして、裏庭に行く。

師匠は「ロリ…いや違うな…」とかブツブツ呟きながら袋から竪琴を取り出す。手早く調律してから、幾つか和音を爪弾いた。


「さて、ここの世界の歌を覚えました?」


「はい、少し。竜の子守唄とか」


「ではそれで」


ポロンポロンと和音を重ねる。

数回鳴らすと間をあけたところで歌い出す。


「……


静かなる北の山に

気高き竜がいるという

その鱗は宝石の如く

鋭い牙は煌り光り

慈愛に満ちた瞳麗しく

人の身となり世に降りん


その力に魅了されし

多くの愚かな人々は

その気高き心故の

悲しき争いに身を投じ

すべてを終わりに導いた

今は静かに眠れと鳴く


……」


「うん。まぁ良いと思うよ」


「うう、なんか感情移入出来なくて。これって子守唄なんですかってところから、スタートしたいくらいですよ」


「それを言われると……最後の一行が子守唄?って感じかな?」


師匠は苦笑いをして竪琴を置いた。

こっちの世界の歌は日本の民謡に近くて、音階が複雑だ。楽譜も無いしほとんど口伝だ。それを師匠は何とか楽譜にしたいみたいだけど、難しいってボヤいていた。


「まぁ、楽譜にしても伝わりきらないんだけどね。作った人の細かな部分は再現できない。歌は変わっていくものだからね」


「難しいですね」


「あと、隠し言葉の歌も覚えた?」


「それはほとんど覚えました」


この国、エルトーデ王国からは、各国に諜報部隊…スパイみたいな人達を放っている。それは軍事活動ではあるのだけど、主に「人の争いに繋がるような存在」をあらかじめ察知しておくためだ。

師匠は国に所属しているわけではないけれど、歌に関する全てのことに詳しい。

私がこの国で自分のスキルを生かし、尚且つあの人の力になるためには「情報」を得ておかないと。


魔族は邪を纏う。

それは人の心を狂わせる。

だからこそ諜報部隊の情報は、私にとって必要なのだ。きっと良からぬ動きの裏には魔族が関係しているはず。


「客の中に紛れている場合もあるよ。よく読み取って」


「はい」


普通の吟遊詩人は隠し言葉の歌を知らない。師匠も歌わないそうだ。

それを使うリスクは無いわけではないけど、私の隠密魔法はそのリスクを少なくする。

情報の対価は、他の場所でそれを伝えること。


そう、私は歌い手として表に立つと同時に、この町から離れることになる。








不定期更新ですみません。

お読みいただき、ありがとうございます。

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