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吟遊詩人と弟子。

サンダルフォンさん…師匠は、とりあえず一ヶ月は『森の憩い亭』の宿の方に滞在するらしい。

私はお昼から夕方まで歌を習うのと、師匠が用意していた座学用の教本を寝る前に勉強するように言われた。

午前中は家事をしながら発声練習だそうで、それは今から店が混むまで中庭で教えてもらうことになった。


「さて、まずは歌ってみなさい。何でも良いから」


「私の故郷……正式には違う国の歌なのですが、それで良いですか?」


「それで良いよ」


じゃあ、音楽の時間で習ったやつでいいかな。流行りの曲とか知らないし、宮田くんが好きなJポップなら知ってるけど…

ん。とりあえずシューベルトの「アヴェ・マリア」にしよう。


目を瞑って、Aの音を探す。

中学まで習っていたピアノは、少しは役立つらしい。

Aから半音下がり、そのまま上がって下がる。

この曲はテノール歌手が歌う曲だ。神に救済を求める歌。

ドイツ語はこの世界に合うような気がしたから、憶えている一番だけ歌った。



歌い終わって目を開けると、師匠は額に手を当てて俯いている。

あ、あれ?私の歌って、ダメだった?


「マイコ、その歌は……その歌はどこで……」


「あ、ええと、私の国の歌ではないのですが、神様に救済を求める歌みたいで……あちらの言葉でアヴェマリアというのが神様のことみたいです」


「そう……か……」


師匠は荷物の中から、小さなハープのような楽器を取り出して胸に抱くように構える。


「この楽器ではしっかりと鳴らせるかどうか、これは歌えるかい?」


ポンポンポロン、ポンポンポロン

一拍ごとに三音鳴らす。

規則正しい音、これはメロディーではなく伴奏、聴いたことがある……どこで?

前奏が終わり師匠は私を見て促す。歌詞に自信はないのでハミングで、Bから始めるメロディは七音で再び伴奏になる。そうやって規則正しく、ただ神様に捧げるのだ。賛美するのだ。

なんとか憶えていたメロディーを歌い終わる。

師匠はいたずらを成功させたような顔で私を見た。


「師匠……師匠は……」


「いやあ、嬉しいものだ。主への賛美を知る者がいるとはね」


「すみません師匠、私は……」


「いやいや良いのだ。君は渡の神に遣わされた者なんだから。ちなみに君は大天使という存在を知っているかい?」


「え、ええ。ミカエル、ラファエル……ですか?」


「もう一声」


「えーとガブリエル、ウリエル?」


「もう少し」


「ええと、出てきません……」


「ああ、しょうがないか、君の国じゃないからね。私はあちらで楽を司る大天使サンダルフォンと呼ばれていたものだよ。正確には魂の一部かな」


え!?ええええ!?


「広い意味で同郷みたいなものかな。これは渡りの神が気を使っているはずだ」


「そうだったんですか……大天使様の弟子なんて、恐れ多いです」


一体何を考えているのやら、私は凡人で、ただのつきまとい女なのに……


「いや、私は君を弟子にするよ。この世界で吟遊詩人として生きていけるように、私の全てを教えよう。君は、君の国の歌を教えておくれ」


「師匠……ありがとうございます。改めてよろしくお願いします」


「君は筋が良い。この世界のドレミはないから難しいかもしれないが、この世界の歌も覚えてもらうよ」


師匠は湖面のような青の瞳で私を見つめると、整った顔を綻ばせて微笑む。

やっぱり若いのかな?お父さんより年下?



その日の夜、もらった教本を見て私は途方にくれる。


・貴族とは

・貴族のマナー

・貴族の称号

・エルトーデ王国の歴史


ええと、とりあえず読もう。とにかく読もう。

吟遊詩人には、これが必要なのかもしれない。



えいえいおー……。



お読みいただき、ありがとうございます!

歌の表現が難しいです。

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