アストゥリアス女公フアナ
・Juana de Aragon→本作の主人公。ブルゴーニュ公妃でカスティーリャ王太女(アストゥリアス女公)兼アラゴン王太女(ジローナ女公)。レオン=カスティーリャ女王イサベル1世とアラゴン・マヨルカ・バレンシア・シチリア国王フェルナンド2世の第3子次女。対フランス同盟の一貫として、ブルゴーニュ公フィリップ4世に嫁いだ。真面目な性格ゆえに夫の女癖の悪さが許せず、苦しむ。夫との間に多数の子を儲けるが、度重なる妊娠によって精神不安定になる。
・Felipe de Austia y Borgoña=Philippe IV(4世) de Bourgogne→主人公の夫で本作のヒーロー(?)。神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世と最初の后でブルゴーニュ女公マリーの長子。ブルゴーニュ公国の君主。
落馬が元で死産・死去した母の後を継ぎ、3歳でブルゴーニュ公に即位した。母の共同統治者だった父はブルゴーニュ国内での立場をなくして追放されたので、成人するまで貴族による寵臣政治を敷いていた。
貴族にフランス寄りの教育を施された所為で、周囲の思惑とは裏腹にフランス贔屓。
美男だが女癖が悪く、真面目な妻を精神不安定に追い込んでしまう。
・Isabel la Católica→主人公であるJuanaフアナの母でレオン=カスティーリャ王国の女王。敬虔なカトリック教徒で、レコンキスタ完了とクリストバル・コロンに対する資金援助に精魂を注いでいた。夫フェルナンドとの間の子孫がそれぞれの国を引き継いで同君連合を形成するのが確実になった事を受けて、内政面では身分制議会の導入や官僚制度の導入に力を注いだ。1496年にローマ教皇アレクサンデル6世によって夫と共にカトリック両王(Reyes Católicos)の称号を賜った。
・Fernando el Católico→主人公であるJuanaフアナの父でアラゴン・マヨルカ・バレンシア・シチリアの国王。バルセロナ伯爵でもある。
妻イサベルは同じ家の出身で又従姉に当たる。
妻と共にGranadaグラナダ王国制圧に力を注ぎ、レコンキスタを完了させる。後にフランスと対立してナポリを、妻の死後にナバラを征服して領土を広げた。1496年にローマ教皇アレクサンデル6世によって妻と共にカトリック両王(Reyes Católicos)の称号を賜った。
・Margarete von Österreich(ドイツ語)=Margaretha van Oostenrijk(オランダ語)=Marguerite d'Autriche(フランス語)→主人公の義妹。
神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世と最初の后でブルゴーニュ女公マリーの次子。母の死・父の失脚を経て半ば拉致される形でフランス王太子シャルル(後のフランス国王シャルル8世)に嫁ぐ。ところがフランスは国王シャルル8世と父の再婚相手だったブルターニュ女公アンヌを強制的に結婚させてしまう。この為マルグリットとの婚姻は無効にされたが、フランス側が持参金返還を渋って中々帰国できなかった。この屈辱的な経験から兄とは違って父娘共々フランスを憎むようになった。対フランス同盟の一貫としてイスパニアの王太子フアンと結婚してフアンの子も懐妊したが、夫の急死と死産の後に帰国した。その後フランスで共に育った又従弟サヴォイア公フィリベルト2世に再嫁したが、夫は結婚3年後に生水にあたって亡くなった。
その後は再婚を拒み、妻と共にイスパニアへ渡った兄の代わりに公国の摂政(ドイツ語ではネーデルラント総督)を務め、甥姪の養育をした。
前夫フアンの死後、暫く義理の父母に当たる両王のもとで政務を具に観察し、手伝った経験からネーデルラント総督に就任後、並々ならぬ政治手腕を発揮した。
・Louis XII(12世) de France→フランス国王。フランス国王シャルル5世の曾孫でオルレアン公シャルルの子。又従兄である国王ルイ11世の娘ジャンヌ・ド・フランスと結婚していた。義弟シャルル8世が鴨居に頭をぶつけて事故死すると最も近親の男性王族として国王に即位し、王妃ジャンヌと離婚して、前王妃であったブルターニュ女公アンヌと再婚した。
・Anne de Bretagne=Anna Breizh→ブルターニュ女公。ブルターニュ公フランソワ2世と2番目の公妃マルグリット・ド・フォワの娘。
ブルターニュ公国の肥沃な土地に目をつけた神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世と婚約していたが、同じ理由でフランス国王シャルル8世に半ば拉致される形で結婚した。シャルル8世との間に3男1女を儲けたがいずれも夭逝、夫シャルル8世も事故死した。その後、新しく即位した国王ルイ12世と再婚して“2代の妃”と呼ばれ、間に2女を儲けた。
1501年初夏、ジャンヌは3人目の子をBruxellesで出産した。
生まれた子は母方の祖母レオン=カスティーリャ女王イサベル1世のフランス読みでイザベルと名付けられた。
だがこの頃からジャンヌは嫉妬心に歯止めが効かなくなってきた。フィリップが手をつけた侍女の髪を怒りに任せてハサミで切り刻んだ。
ハッとした時には、フィリップの心は完全に離れていた。それどころか鬱陶しく思う節もある。
それでも彼女は4人目の子を懐妊した。
ただでさえ真面目な彼女は夫の浮気を許せず嫉妬心を剥き出しにしているのに、度重なる妊娠によって更に精神状態が悪化した。
元々宮廷に馴染めていないのに、この1件で更に周囲から孤立してしまった。
ブルゴーニュの宮廷人はそんなジャンヌを冷やかな目で見ているだけだった。
ある時、両王からジャンヌとフィリップをイスパニアに呼び出す書状が届いた。
フィリップはフランドルから離れたくなかったが、実権を握るためにやむなくジャンヌに付いてイスパニアへ向かう事にした。
3人の子の養育は、未亡人として帰国していたマルガレーテ(マルグリット)に任せた。
途中カレー海峡で大波に襲われ、海路ではなく陸路で向かう事になった。という事は宿敵フランスを通過せねばならない。
ジャンヌはフランスの土を踏みたくなかったが、やむなくフランスに滞在する事にした。
フランスでは国王ルイ12世と王妃のブルターニュ女公アンヌが2人を迎え、2人は国王夫妻に謁見する事になった。
フランスを崇拝するフィリップは臣下の礼をしたのにジャンヌ(フアナ)は夫にせき立てられても頑として淑女の礼をしなかった。
「両陛下、お会いできて光栄です。」
挨拶するフィリップを他所に国王ルイ12世はジャンヌ(フアナ)に歩み寄った。
「ブルゴーニュ公妃ジャンヌ・ダラゴン=カスティーユ。一体、どういうおつもりかな?」
「夫は公族ですが、私は王族です。それもカトリック両王の後継者です。王位継承者である私が国王と言っても同じ王族である貴方に臣下の礼を取る義務はありません。」
ルイ12世も後ろで座っていた王妃アンヌも驚いた。
しかしそう言われると待遇を悪くするわけにはいかない。
フィリップは国王・王妃の手に接吻する側で、ジャンヌ(フアナ)は手を国王に接吻される側という何とも皮肉な結果になった。
そのせいかフィリップは終始面白くなさそうな顔をしていたが、後日イスパニアの両親はフアナの高潔な振る舞いを聞いて大層喜んだ。
フアナとフィリップ改めフェリペは無事イスパニアのBurgosに到着した。
両王と謁見し、親子は久し振りに抱擁を交わした。4人は食事を共にしたが、両王がラテン語で話しかけてもフェリペは終始フランス語で応答してフアナが通訳するという何とも不快なものになった。
フアナはアストゥリアス女公(ジローナ女公)に任命され、少なくともカスティーリャ王位を継承する事は確定した。フェリペはフアナの夫としてアストゥリアス公に叙されたが、実権を握る事はできなかった。
カスティーリャの荒涼とした大地と生真面目で信心深い人々はフアナにとっては懐かしく恋しいものだが、肥沃な土地で育ち決して真面目というわけではないフェリペにとっては鬱陶しい以外の何物でもなかった。
フアナは自分が慣れない土地で苦労した経験からフェリペを引き留める為に奔走し、イスパニアの両親も色々と気遣ったが、全てが嫌になったフェリペは身重なフアナを置いて両王から許可を貰って逃げるように帰国した。
精神状態が元から良くなかったフアナは、フェリペと引き離された事に耐えられず終日慟哭した。
程なくして第4子を出産したが、フェリペと離れている事による喪失感は拭えず、政務に復帰しても無気力だった。
因みにその子は母方の祖父でアラゴン・マヨルカ・バレンシア・シチリア国王フェルナンド2世と同じフェルナンドと名付けられた。
両王は根負けしてフアナは赤子を置いてブルゴーニュに戻ったが、やはり夫フェリペは浮気していた。
フアナは再び懐妊した。だが同時に母イサベル1世に死期が迫っていた事を彼女は知る由もなかった。
次回予告
第5子を出産したフアナは、母の死の報せを聞いてカスティーリャ女王に即位、夫フェリペと共に再びイスパニアへ戻る事になった。
だが、…