王女の宿命(さだめ)
Juana de Aragon y Castilla→本作の主人公。
レオン=カスティーリャ女王イサベル1世とアラゴン・マヨルカ・バレンシア・シチリア国王フェルナンド2世の第3子次女として生まれた。
El joven→スペイン語で“その青年”。
主人公のJuanaの初恋の人とされているが、実在したかどうかは不明で名前は設定されていない。
Isabel I(1世) de Castilla→主人公であるJuanaの母でレオン=カスティーリャ王国の女王。敬虔なカトリック教徒で、レコンキスタ完了とクリストバル・コロンに対する資金援助に精魂を注いでいた。夫フェルナンドとの間の子孫がそれぞれの国を引き継いで同君連合を形成するのが確実になった事を受けて、内政面では身分制議会の導入や官僚制度の導入に力を注いだ。
Fernando II(2世) de Aragon→主人公であるJuanaの父でアラゴン・マヨルカ・バレンシア・シチリアの国王。バルセロナ伯爵でもある。妻イサベルは同じ家の出身で又従姉に当たる。
妻と共にGranada王国制圧に力を注ぎ、レコンキスタを完了させる。後にフランスと対立してナポリを、妻の死後にナバラを征服して領土を広げた。
Juan de Aragon y Castilla→主人公であるJuanaの年子の兄でカスティーリャ王太子(アストゥリアス公)兼アラゴン王太子(ジローナ公)。両親(両王)の1人息子として生まれたが、生まれつき身体が強くない。
1479年秋、カスティーリャのToledoで王女が生まれた。 父はアラゴン・バレンシア・マヨルカ・シチリアの国王フェルナンド2世、母はレオン=カスティーリャ女王のイサベル1世だ。同年1月に王女の祖父アラゴン(+バレンシア・マヨルカ・シチリア)国王フアン2世が崩御し、王女の父フェルナンドが王位を継承したばかりだった。両親共に国王で当に王家のサラブレッドとして誕生した彼女は父フェルナンド2世の実母フアナ・エンリケスから取ってフアナと名付けられた。
フアナ王女は両親(両王)と兄姉・妹2人の5人家族だった。また敬虔なカトリック教徒だった両親(両王)は政治面でも家庭面でも平等で、とても仲が良かった為に彼女は幸福で何不自由ない生活を送っていた。
美しく成長したフアナはやがて恋を知る。お相手は厩の青年だった。クセのある黒髪に健康的に日焼けした肌、立派な体躯の青年だった。容貌は若い頃の父王フェルナンドに似ていたかもしれない。
フアナが兄フアン王太子と遠乗りに出かけた時に何かが理由でフアンの馬が興奮し、フアンは落馬して怪我をしてしまった。その時に興奮した馬を落ち着けてフアンを介抱した人がその青年だった。
その時からお互いに惹かれ合い、2人は屢々(しばしば)遠乗りに出かけた。また王女は頻繁に厩を訪れるようになった。
2人とも真面目で内気で恥ずかしがり屋だった為に秘めた想いをぶつけ合う事はなかった。
ただ言葉にしなくても通じた。
だがこの恋が成就する筈はなかった。
時を同じくしてフアナの婚約が内定する。
相手はボルゴーニャ(ブルゴーニュ公)のフェリペ(フィリップ)4世だと言う。
恋の終わりは見えていた。
2人は何時ものように遠乗りに出かけた。
然し何時ものように話が尽きないどころか何方からも話出てこなかった。
沈黙は続き、
2人は初めて何も言葉を交わす事なく遠乗りから帰って来た。
沈黙を破ったのはフアナだった。
「遠乗りに出かけるのも、厩でこうしてお話するのもこれで最後になるわ」
「…」
青年はそれを認めたくなかった。
いつかは来ると分かっていても。
「さようなら」
言うなりフアナは何時もより早く、振り向きもせずに帰って行った。
青年は彼女が見えなくなるのを見届け、周りに誰も居ないのを確認すると、体を震わしながら馬の鞍に突っ伏した。
彼は泣いていた。
彼女もまた部屋で泣いていた。
出立する日が来た。
両親の見送りを受けて、ブルゴーニュ公国行きの船に乗り込んだフアナは船内から群衆に紛れて見送る青年の姿を見た。
次回予告
フランスを挟み撃ちにする為の同盟ゆえにフランスを経由する陸路ではなく海路でブルゴーニュ公国へ嫁ぐが、海は荒れ狂いフアナは死を覚悟する。
無事公国の大都市フランドルに辿り着くが、肝心の婚約者フィリップは其処には居らず、フアナ改めジャンヌは故国イスパニアより格段に派手な衣装で佇まいも優雅な宮廷人に圧倒されてしまう。