告白
恥ずかしくて目が合わせられない。
「坐らないか」
「う、うん」
小さい公園に入り、ベンチに腰をかけた。
「もう、東京には来ないのか」
「え?」
「お前がいないとさみしい」
ストレートな告白に、航平は泣きそうなほどうれしかった。
「でも、俺、お金ないし、それに行く理由がない……」
自信のない小声だった。それどころか、涙があふれ出す。
陣と別れて東京を出た時、あんなに泣いたのに。
お礼を言いそびれたと後悔したのに。
いざ、顔を見ると、言葉が見つからない。
「そうか……。残念だな」
「え?」
陣が立ち上がって、包帯まみれの右手をさすった。
「親父さんと話はしたか?」
いきなり話が飛んで面食らう。航平は首を振った。
「そうか…。生きているうちに会話した方がいい。後悔しないようにな。じゃあな」
「えっ、ま、待ってっ」
「ん?」
「あ……あの、もう帰るの?」
「帰るよ。用事は済んだから」
「やっ、待ってっ」
航平は焦って陣の袖をつかんだ。
「あの…俺、本当に、たくさんたくさん迷惑をかけた。ごめんなさい。そして、いろいろとお世話になりま…した。二千万はきちんと返します。だから、待っていて…ください」
これだけは言わなきゃいけない。
航平が必死で陣をつかんでいると、彼は寂しそうな顔をしていた。
その表情の理由が分からなくて、不安になる。
「あの…俺……」
「金は要らない」
「そんな……」
突き放したような言い方に、心臓が痛い。
「今は、金より欲しいものがある」
「それって高いもの? 何とか手に入れてみせるよ」
必死で言うと、陣が苦笑した。
「あれが欲しい」
「あれって何?」
「桃缶」
「え?」
「航平の作った桃のコンポートが毎日食べたい」
「え? で、でも、桃は季節のものだし、今はもう売ってない…。どうしよ」
本気で困っている航平の頭を撫でると、陣が笑った。
航平は、その顔を見つめて小さく呟いた。
「陣が好き」
思わず口から出た告白に陣が目を見開く。
「あ、今のは嘘っ。冗談っ。あ……」
パニックに陥った航平は抱き締められる。
「じ、陣……」
「俺もお前が好きだよ。家に連れて帰ってめちゃくちゃにしたいくらい。お前の事しか考えられない」
「嘘……」
耳元で囁く低い声は腰にくる。
航平は、無我夢中でしがみついた。
「陣が大好き。本当はそばにいたい」
「連れて帰ってもいいのか?」
「離れたくないっ」
陣の顔が近づく。熱い唇に塞がれながら、全身がしびれた。
目を合わせると、再び口を塞がれた。
簡単に、キスは終わりそうにない。
「連れてって……」
すごい事を口走っている。自分の言葉とは思えない。
航平は興奮で胸を押さえた。
陣とならどこへでもいける。
何でも出来る。そんな気がした。
「早くっ」
航平がぎゅっと腕をつかむと、陣が苦笑した。
「時間ならある。焦らなくていい」
「我慢できないっ」
陣は何も言わず苦笑して、航平の頭を撫でた。
「行こう」
陣が歩き出した。
「どこへ?」
「誰にも邪魔されずに、じっくりと航平を愛せる場所だ」
それはどこにあるのだろう。
案外、近くにいっぱいあるのかもしれない。けれど、陣がいなければ意味がない。
そして、陣がいるならどこでもいい。
航平は、陣の体に寄りかかりながら呟いた。
「ありがとう」




