約束の日
約束の日、スーツ姿で現れた陣は始終怖い顔をしていた。
航平とは一度も目を合わせない。
航平はポケットの中でくしゃくしゃになったお金を握りしめた。
三日で稼いだ金は十万もない。でも、何かの足しになればと思う。
その時、ドンドンと激しくドアを蹴る音に全身から震えが来た。
「あ……」
陣がドアを開ける。
航平が動けずに事務所のソファの前で棒立ちになっていると、陣の後ろに男が三人入ってきた。
人相の悪い金髪の男が一人、スキンヘッド。
最後に入ってきた眉毛のない男がちらと航平を見た。
「金出せよっ」
金髪が机を蹴り上げる。
航平は泣くまいと手を握りしめた。
息を殺すように黙っていた陣が、カバンから紙袋を差し出した。
「二千万ある」
眉毛のない男が袋の中身を確かめて顔をしかめた。
「一千万足りないじゃねえか」
「今はそれだけしかないんだ。しばらく待ってくれ」
航平はポケットからお金を取り出した。
「こ、ここに十三万円ある。足りないかもしれないけど必ず返すから、もう少しだけ待ってください」
男は航平の手からお金をしゃくり取ると、見もせずにポケットに突っ込んだ。
「馬鹿言うな」
吐き棄てるように言って、航平の顎をつかんだ。
「可愛い顔してお願いすれば、何でも言う事が通じると思ってんのか?」
「ちが……」
「拓巳に聞いたんだけどさ」
眉毛のない男がにやにやしながら陣を見た。
「お前、ホモなんだって? 拓巳が困っていたぞ。お前に言い寄られて気持ちが悪いって」
陣の顔色が変わる。
「拓ちゃんがそんな事言うわけないだろっ」
航平はわめきながら男に飛びかかった。
「何だよこのガキっ」
航平の体はあっけなく蹴飛ばされた。
「航平っ」
陣が叫んだ。
「お前は動くなっ」
二人がかりで陣を押さえつける。
「離せっ」
「こいつらお前のお仲間だぜ。痛いことが好きな変態さんだ。可愛がってもらえよ」
金髪の男がズボンのベルトをカチャカチャいわせた。
パンツだけになると、陣に詰め寄った。
「やめろーっ」
航平は手を振り回しながら男に駆け寄った。
「おっと」
男が航平の腕をつかんだ。
航平は暴れたが、平手打ちをされて体が吹っ飛んだ。
「航平っ」
両腕をつかまれてもがいている陣が叫んだ。
航平は床に這いつくばった。
「やめて…やめて下さい。お金はすぐに持ってきますから…。お願いします…ッ」
フローリングに頭を擦りつけた。
「嘘ついてんじゃねえよ」
ペッと床につばを吐きつけられる。
「本当です。信じてください」
涙がぽろぽろと零れた。
男は航平をじっと眺めていたが、やがて、ふうと息を吐くと、いいぜ、と言った。
「え?」
「お前を信じてやるよ。今日中にお前が残りの一千万を用意できたら、こいつを解放してやる。出来なかったら、お前が体で稼いで残りの金払え」
「ダメだっ」
横から陣が遮った。
口から血が滴り、頬が腫れている。
踏みつけられている手のひらからは血が流れ出していた。
「陣に酷い事をするなっ」
「こいつらは色男をいたぶるのが楽しいんだとよ。お前が戻ってこなかったら、この長い鼻はパキンと折
れて、綺麗な前歯もなくなってると思え」
ぞっとして航平は何度も頷いた。




