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 全部、食べ終えると腹は膨れた。


「あのさ、これ、掃除していた時に見つけたんだけど、陣が描いたの?」


 航平はバッグから紙切れを出して机に置いた。陣は黙ってそれを取り、低い声で言った。


「見たのか」

「お店の設計図だよね。覚えてたんだ。三人でケーキ屋さんつくろうって言ったの」


 三人を誇張すると、陣が顔をしかめる。


「お前はよけいだ」

「仲間はずれにするなよ」

「ああ、悪かった」

「お金貯めてんの?」

「どうしてそう思う」

「だって、銀行員の給料ってけっこうあるんだろ? それなのにこんな部屋にいて、お金使っているように見えないから」

「こんな部屋はよけいだ」

「拓ちゃんのため?」


 ぴくりと陣が身じろぎする。


「やっぱり……」


 俺、何言ってんだろ…。


 自分で言って傷ついて息をついた時、どさりと畳に体が押し倒される。


「あ……」


 陣の顔が近づく。航平はきゅっと目を閉じた。


「歯」

「え?」

「歯を磨いてこい」

「は、はい……」


 立ち上がろうとしてがくりと膝を突いてしまう。


「どうした?」


 陣がからかうように言った。

 急いで立って台所に行くと、買ったばかりの歯磨きを乱暴に破った。歯磨き粉をつけてごしごしと歯をこする。


 からかったり突き放したり、何だと思ってるんだよ。


 いつまでも歯を磨いていると、気付けば陣が背後に立っていた。耳元で囁く。


「いつまで磨いているんだ」


 航平は歯を磨き終えて、振り返る。すぐそばに陣がいる。


「じ、陣こそ、歯を磨かないのかよ」

「するよ」


 場所を交代して、自分は畳の部屋に戻って蒲団に横になった。

 心臓がドキドキする。

 背を向けていると、陣が隣に入り後ろから抱きしめられた。耳元をくすぐるように息がかかる。


 温かい――。


 温もりを感じながら、いつの間にか眠りについていた。





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