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魔術世界の高校生  作者: パラレル
魔術戦争編
13/28

悦楽殺人鬼(フィジカルキラー)

 雲が幾つも流れている青空の下。守は窓からその空を優雅に眺めながら椅子に座っていた。教卓では魔法薬学について事細かな説明をしているカナスの姿があった。


 ゴーレムとの戦闘の傷はほとんど消えたようで、今日復帰したようだ。守も久々の再開と思い、ついさっき彼女に話しかけたのだが。


 「お気遣いなく」


 一言で終わった。さすがの守もこれには苦笑いを隠せなかった。生きていると言うことは知っててもやはり自分の目でそれを確認したかった守にとってはちょっと裏切られたような気分だった。だが、何はともあれ安心したのが本音でもある。


 しかし、安心したのもつかの間、すぐに守の心に靄がかかる。


 「……」


 デキモノでも出来たかのように守はある方向へと視線を移す。そこには、相変わらず分厚く、なかなかの重量を誇る本が閉じた状態で机に置かれていた。


 ページを開けば無数に書かれたこの世界の文字が羅列しているのが目に見えた。そう考えただけで一気に開ける気が引ける。その上、魔法薬学についてはお手上げ状態だ。どの言葉も日本語でしゃべっているらしいが用語とかも織り交ぜているため別の言語に聞こえる。例えば、マンドレイク草を引き抜く際に行われる準備だとか、他の薬品を混ぜ合わせる際に気を付けなくてはならないこと等。違う世界から来た守にしてみれば頭のおかしい授業にしか思えない。


 守ははぁ~と深い溜め息を吐いた。


 その時だった。


 「甲斐谷守君、教科書二百七十一ページの一行目を読み上げてください」


 「!!?」


 ボーとしていた守は突然のことに驚きを隠せずカナスを見た。当の本人は半場呆れながら守を見つめている。


 「あの…先生。俺、文字読めないのを知ってますか?」


 「知ってますよ。だから当てたんです」


 鬼畜かこの人!!と守はそんなことを心で叫ぶ。


 「いや、読めない奴に読ませるのも結構無理難題ですよ。それに授業の進行を遅らせるのもアレですし…」


 「アレシアさん、守君に翻訳をお願いします。守君、あなたはイザベルさんの言った言葉を復唱してください」


 え、と戸惑う守だったがあ、はい!と緊張気味に返事をする彼女の勇士を見て断れなかった。守の隣に座っていたアレシアと呼ばれる少女が守へと近寄る。髪は茶色のボブで、シミ一つない綺麗な肌をしているのが特徴だった。動く度に彼女の髪はなびき、その分洗剤のような良い香りが漂ってくる。


 そんな可愛らしい女子が守の元へと近づく度に守自身、心臓がバクバクと鳴った。人生において、彼はあまり女子と関わらなかった。勿論、彼女なんてできた試しがない。年齢=彼女がいない歴。それが彼の人生だった。


 「えーと…まずここから言うね」


 そう言いながら、アレシアは守の近くへと座り直すと、教科書を開いて人差し指で文字の書いてある場所を示した。


 「お、おう。ありがとうございます」


 守の頭がカーと熱が急上昇し、言葉がおかしくなっていた。それに、女子との免疫がないがために、挙動もおかしくなり始める。アレシアと守の距離ざっと十センチ。ここまで来ると彼女の息が机を伝い、間接的に守の手に当たる。しかも、ローブ越しだが彼女の大きくも小さくもない程良い大きさの胸の形が間近に尚且つくっきりと見えたため、顔が熱くなるのを感じた。


 「魔法薬学に置いては魔術、薬学、環境等の三つの要素が含まれている」


 アレシアが一文を読み上げると、次は守の番になった。


 「ま、まままままひょうやひゅはくひほいふぇふぁふぁまひゅふ、ひゃふふぁく、かんひょうなななどどのみっふのよよよよよ要素に…ふふふ含まれふぇいる」


 教室内に沈黙が続いた。隣にいたアレシアもえ?と戸惑った様子で守を見て、周りにいた生徒も唖然とした様子で守を見ていた。だが、カナスに至っては可哀想な物を見るかのような目だ。顔を真っ赤にして読み上げた守もこれはヒドイ…と自分に低評価を押す。



 しばらく時間が経ち、授業の終了を告げる鐘が鳴る。この授業で今日一日の終わり、周りの生徒は嬉しそうに笑っていたが、守だけは笑えなかった。


 惨めに机に突っ伏しながら、へへへと笑う守。授業も終わった。守の大事な何かも終わった。


 「き、気にしなくても大丈夫だよ!私だってしょっちゅう間違えるし、それに緊張してたんでしょ?緊張してたなら仕方ないよ!」


 守の隣に座り、必死の笑みで守をフォローするアレシア。思いやりのある言葉に対して、守はなんて答えれば良いのやら。彼女の胸や息に興奮してうまく話せませんでしたッ!なんてことは口が裂けても言えない。


 「あ、ありがとうございます」


 礼を言う守だが、これには色々な意味が含まれている。まず一つは、自分をフォローしてくれたことについて。もう一つは、女の体や色気等をこんな自分なんかに体験させて頂いたことについて。そしてもう一つはこんなシチュエーションを作ってくれた神に対してだ。


 「お礼なんて良いよ。それに敬語もやめてくれると嬉しいな。私たちクラスメイトだからさ!もっとフレンドリーに行こうよ!」


 「そ、そうだな。本当にありがとう」


 本当に色々な意味で…と守は小さく呟く。


 「ん?どうかした?」


 「いや、何でもない」


 キョトンと首を傾げるアレシアに守は目を逸らした。


 「確か守君だよね?私はアレシア=スコット。よろしくね!」


 優しい笑みをしてアレシアは手を出し、守に握手を求めた。それを見た守は…。


 「お、おお…甲斐谷守。よろしく」


 体を起こし、握手に応えた。すると、守の中に衝撃のような物が走る。


 「…ッ!!」


 柔らかく肉付きが良い。それに守の手にすっぽりと収まってしまいそうな手。守は生まれて初めて、女子に触れた瞬間がこうであるのか感動した。


 「ねぇ、あとでクラスの子と集まってパーティするんだけど守君も来る?」



 握手を終えると、アレシアは守に話しかけた。一見嬉しい話に思えるが、守の表情は浮かない。


 「どうしたの?」


 「クラスの子って…まさか……全員女子?」


 「分かんないけどたぶんそうだと思うよ?」


 なるほどな…と守は呟く。守は多数の女子と話したことがない。このまま行かないと言うのも手だが、こんな優しい女子に恩を仇で返すような真似はしたくないと言う気持ちもある。そこで守は一つの決断へと達した。


 「考えさせてくれ」


 「うん、分かった。じゃあ、先に行ってるよ。場所は魔術学校の調理室だから!」


 「おう」


 アレシアは席を立つと、出入口へと歩いて行った。彼女の姿が視界から完全に消えると守ははぁ~と溜め息を吐いた。


 「慣れないもんだなぁ…女子と話すのは」


 そう愚痴を零した時だった。


 「おいおい、アレシアに惚れたか。編入生君よぉ!!」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。出たよ、と言わんばかりに守はダルそうな表情をしながら声のした方向へと体を向ける。そこには、前日守に勝負を吹っかけたのは良いが、大口をたたいた割には結局勝負に負けたロベルトが机に座って下衆な笑いを浮かべていた。


 「あ~…これ何てリアクションすれば良い?できればお前の要望には答えてやりたいけど…」


 「うるせぇ!!」


 何の用だよ?と守が話しかけると、ロベルトは意地の悪い笑みでこう答える。


 「知りたいか?お前が泣きながら俺にひれ伏すって言うなら言わんでも……っておいッ!!」


 ロベルトが話している最中、守はどうでも良い話だと判断して出口へと向かおうとするが出口の直前でロベルトの声が掛かった。


 「何の話だよ。できれば俺は早く帰りたいんだ。さっきまで死ぬほど恥かいてたんだからな」


 「まぁ待てよ。これはお前のこれからにも影響するかもしれない話なんだぜ?」


 守ははぁ~と溜め息を吐くと、ロベルトの方へと振り返った。どうせ自分を引き留めて勝負でもさせようと言う話なのだろう。守はそう思いながら、丁寧な勝負の断り方を考える。


 「近頃、妙な連続殺人が発生しててな。事件は今までで五件発生している。しかも、他の国でも同様なことが起きてて、被害者は必ず刃物か何かでズタズタに引き裂かれてるらしいんだ」


 殺人事件。そのワードに守は眉を寄せた。


 「被害者はどれも見る影もなくめちゃくちゃにされて、腹はナイフか何かで掻っ捌かれてる」


 「それが同一犯って言う可能性はあるのか?」


 「ああ、あるさ。なんて言ったって被害者の心臓が全て抜き取られてるから」


 楽しそうに話すロベルトに対して、守は苦虫でも噛み砕いたかのような顔をする。


 「それが俺とどう関係してくんだよ」


 その言葉にロベルトは、正にそれが言いたかったと言わんばかりに机に立つ。しかも、満面な笑みを浮かべながら。


 「被害者は全員黒髪、黒目、黄色の肌。全て、お前と特徴が合う奴らばかりだ。それに聞くところによると、このホルクスだけその事件が起きていない」


 つまり、とロベルトは続ける。


 「次に事件が起きるとしたらここ。そして、目的ターゲットとなるのはお前か、それ以外の黒髪、黒目、黄色の肌をしている人物ということ」


 守はちっ、と舌打ちをすると頭をボリボリと掻き始めた。まるでつまらない話を聞かされたかのような表情をしている。



 「その話、今いち信憑性に欠けるな。お前の話ようじゃあ、人から聞いたようじゃねぇか」


 確かにロベルトの話には確証はない。空想を話して守を単に怖がらせたいだけなのかもしれない。だが、ロベルトはニタァと不気味な笑みを浮かべながらこう言う。


その返事にロベルトはふん、とつまらなそうな表情をするとこう言い始める。


 

 「信じるも信じないもお前の好きなようにすれば良い。だが知ってて損はないだろう?

英雄さんよ。」



守はその呼ばれ方が気に入らないのか、目を細める。だが、ロベルトは構わずこう続けた。



「そう言えばその殺人鬼の名前を教えてなかったな。名前は確か…悦楽殺人鬼フィジカルキラーだっけな。ま、精々気を付けるこった」


ロベルトはそう言うと、机から飛び降り、ローブのポケットに手を突っ込んで出口へと向かい始めた。


扉の前に立ち、ずっとロベルトを睨み付ける守を追い越し、扉を開けて出ていく。


その時、守は気づく。ロベルトが通り過ぎ様にしてやったり、とでも言いたそうな笑みを浮かべていたのを。




 


 

 

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