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魔術世界の高校生  作者: パラレル
魔術戦争編
11/28

初めての授業

 遡ること一時間前。


 壊されたはずの壁や扉が元通りに修復された校長室で、守と校長はソファに座りながら入学手続きの話をしていた。


 「じゃあ、ここの紙に氏名、年齢、その他諸々書いてね」


 そう言いながら、校長はあらかじめ机に置いてあった白い紙を万年筆も添えてスッと守の方へと寄越した。守は何も言わず、ただ白い紙と万年筆を受け取る。


 紙には説明文が書いてあり、しっかり枠のスペースまで取られていて非常に書きやすい仕様になっていたのだが、守は唖然としていた。


 「これ……なんて書いてあるの?」


 説明文は日本語ではなく、この世界の文字で書かれていた。動物の形をを捩ったような文字が羅列していて、これがなんて書いてあるのかは全くの不明。


 「あれ?言葉が同じだから文字も一緒だと思ったんだけどなぁ……」


 キョトンとした感じで校長は言うが、それはこっちの台詞と言わんばかりに守はため息を吐いた。


 「どうにかできねぇのか?あんたの魔法であっという間にこの文字を読むことが出来るようになったりとか」


 ナハハ……と苦笑しながら後頭部を掻く校長。


 「悪いけど魔法は万能じゃないんだ。こういう文字に関しては自力で覚えるしかないね」



 


 ――――――――――――――――――――――

 

 時間は戻り、今。守は依然として机に突っ伏したまま動かない。余程、この世界の文字を覚えなくてはならないことにショックを受けているようだ。


 別に覚えなくても良いと思いもする者もいるかもしれないが、魔術の基礎は本に書かれた文章を暗唱すること。つまり、文字をきっちり読めなくては魔術を行使するどころか勉強にも差支えが出てくるということだ。


 先程、校長直々にそう言われ、守は精神的に萎えていた。


 そんな時、授業開始の鐘が鳴り響き始めた。守を見ていた生徒も鐘の音を聴くと急いで自分の席へと着席していく。少しすると先生と思わしき人物が教材を片手に入ってきて教卓へと着いた。


 肉が垂れ下がった頬に片眼鏡をして、ふっくらとしたお腹。深緑色のローブを羽織った男性教師。以前に守と面識がある教師のベルモンドだ。


 本をドン、と教卓に置くとベルモンドは慣れたようにこう言う。


 「おはよう諸君」


 教師のベルモンドが愛想の良い笑みでそう言うと、後に続いて生徒が一斉に『おはようございます』と返ってきた。


 その声に守は体を起こした。その時、守の視界に見覚えのある人物が映っていることに気が付く。あ、あのおっさんは…と守は口にださずに心の中で呟いた。


 「朝から君たちの元気な顔を見れて、先生はとても幸せです。最近は風邪が流行っているらしいですから、皆さん手洗いうがいを心がけてくださいね。それと階級審査の応募用紙があるので欲しい人は授業が終わった時に私に言ってください。ところで…」


 笑顔で生徒に話すベルモンドだったが、言葉の途中に急に表情が険しくなり、ある方向へと視線を向けた。守の視線とベルモンドの視線が重なる。


 「皆さんも知っての通りだと思いますが、今日からここのクラスへと編入しました甲斐谷守君です。色々な事情でここに来た守君ですが…。皆さん?仲良くしてあげてくださいね。新しい仲間が増えることも先生として大変喜ばしいですし、守君がこのクラスの皆と仲良くなれることを楽しみにしています。是非とも仲良くなってください」


 目を細め、口調が若干棒読みになりながら守を見続けていた。そんなベルモンドの態度に守も目を細めた。確実に自分を邪魔な存在として見ている。守は少なからずそう思った。


 「では、授業に移るぞ。教科書の三十九ページを開いて」


 ベルモンドはすぐに視線を逸らすと教科書へと今度は移した。他の生徒もベルモンドの言われた通りにページを開く。


 チッ、心の中でそう舌打ちしながら守は教科書を適当に開いた。


 「皇王歴六百六十六年、地上に誕生した悪魔ソラトは人間を全て奴隷にすべく破壊活動を続けた。そこで…」


 ベルモンドは教科書を見ながら話始めた。どうやらこの世界の歴史の授業なのだろう。守の世界では縄文時代とか飛鳥時代とかそう言うのを教わっていたが、この世界では悪魔とか天使とかそのことについての話が主に多かった。


 無論、こんな話されても守はちっとも分からなかった。



 ―――――――――――――――――


 授業の終了を告げる鐘が鳴り響く。まるで寒くて長い冬眠から覚めたかのように生徒はざわざわと騒がしくなり始める。


 「じゃ、今の所を復習しておくように」


 ベルモンドはそう言いながら、教科書を閉じると、片手で持ってそのまま教室から出て行った。ベルモンドが出て行ったのを確認すると、席に座っていた生徒が次々と立ち上り、次の授業の準備に取り掛かり始めている。


 えらくマジメだな~と思いながら眺める守。

 

 その時だった。


 「ほら、そこの編入生君も立って立って!次は実技学習だから!」


 幼く可愛らしい顔立ちに金髪の髪をした少女が守に話しかけた。横髪はおさげで垂らしており、服装はこの学校の制服の黒いローブ。


 もし守の世界にその娘がいたら、絶大的な人気を誇ること間違いなしだ。


 だが、守はそんな美少女に目もくれず別の事に食いついた。


 「へ?実習?」


 『実習』、その言葉で守の心は躍った。実習ということは魔術を扱うようなことには間違いないだろう。守の世界では童貞を三十歳まで貫くと魔法使いになれると言う都市伝説を聞くが、僅か十七歳にして魔法を扱えることが出来るとは…と、先程までの不快感なんて忘れる程に喜びを噛みしめた。


 「ほらっ、魔術書と権威服キャレットも持ってく!!」


 何?権威服キャレット?と頭に?マークを浮かべながら小汚い服と魔術所を押し付けられる形で渡され、引きずられる形で連れてかれた。



 ―――――――――――――――――――


 魔術学校からそれほど距離もない草原に守は立っていた。程よい風が流れる草原。それと同時に波打つように草原は揺れた。



 実習はこの草原でやるらしいが、守の表情は今一つと言ったような感じである。先程までのあのテンションが嘘のように消え失せ、後には苦笑いしか残らない現状だ。


 その理由は。


 服装。


 「これはないだろう……」


 弥生時代を生きていた兵士のような服装。質素な素材に質素な飾り気。次第に羞恥心まで芽生えてきて、まともに人と接するのも出来なくなりそうだった。

 

 だが、守の周りには同じような服装なのに楽しそうに談笑するクラスメイトで溢れかえっていた。これがこの世界では当たり前の服装なんだろうが、守にはキツイ。


 「おーい、静かにしろー」


 そういう風に声を掛けながら一人の男が歩み寄ってきた。その瞬間、談笑していた周りの生徒はすぐに口を閉ざした。まるで、その先生の言葉が絶対かのように。


 教師はガタイが良く身長もまぁまぁあり、太陽の光を反射させるほど眩しい頭をし、顎にはヤギのようなヒゲを生やしていた。


 黒いローブを着てはいるが、鬱陶しそうに腕まくりをしている。顔は厳つく、どこのヤクザですか?と問い掛けたくなるほどに恐い顔をしている。見た目からしたらかなり大多数の人が恐怖するだろう。


 「じゃあ、これから実習を開始する。魔術を扱える者は俺の所へと集まれ。魔術を扱えない者については剣術、射撃、馬術の方へと向かってもらう」


 それでは解散!と言う教師の号令でそれぞれ生徒が散っていく。ここで疑問に思うだろうが、なぜ魔術を使える者と使えない者がいるのか?だ。普通のクラスでは全ての生徒が魔術を使えるが、守のクラスは特設クラスで貴族だけど魔術を使えない者、平民だけど魔術が使える者と言う色々訳ありの生徒が混同しているのだ。


 「あの、先生」


 守が手を上げる。


 「どうした?」


 集まってくる生徒をそこに並べ、教師は守へと近づく。


 「俺、今日編入してきたばかりで魔術を扱えるかどうか自分でも理解できてないんすけどどうすれば良いですか?」


 その質問に教師は愛想良く答えた。


 「よく分からないならお前も剣術や射撃の所に行け。まだ分かんないんじゃ、魔術実習には参加させられないからな」


 「分かりました」


 守はそう言うと、射撃場、剣術場、馬術場の方へと向かった。場所は他のクラスメイトが向かって行ってるから大体分かる。


 

 ――――――――――――――――


 ここは剣術場。


 木で作られた柵で囲われた場所に人形が何体も立っていた。人形の体には人間の急所となり得る場所に目印が施されており、生徒は木で作られた剣でそこを突いたり叩いたりしていた。


 そんな様子を守は柵にもたれて見ていた。だが、思ったよりその練習方法は地味だ。あくびが出てしまう程につまらない光景にはぁ~と守は溜め息を吐いた。


 (魔術実習やりたかったな~)


 ぼやきが心の中で出るが仕方のないことだ。今はジッと我慢するしかない。自分に言い聞かせながら剣術の様子を見る守。


 その時、


 「よぉ、編入生君。一人で傍観って良い趣味してるね。俺も混ぜろよ」


 聞きなれない声が後ろから聞こえた。振り返ってみると、そこには一人の男子生徒が立っていた。癖がある青い髪をしたその生徒はニタニタと意地の悪い笑みを浮かべている。


 守はつまらない物を見るかのような視線で青髪の生徒を見ると、すぐに剣術の方へと視線を移す。


 「おいおい、無視すんなよぉ。俺たち仲間だろう?」


 男子生徒は守の隣に立つと、ジロジロと守の顔を覗き込む。


 「俺の持論だけど、『仲間』なんて言葉を簡単に持ち出す奴は『仲間』じゃないんだ。悪いけど、『仲間』じゃない奴に話すつもりはないよ」


 「カァーー!!良いよ編入生君!!さすが、ゴーレムを倒したことだけのことはあるよ」


 「……!?」


 その時、守は自分の耳を疑った。なぜ、この男子生徒は自分がゴーレムと戦ったことを知っているのか。校長は誰にも言わないように、あの日の事は教師全員に口止めをしていた。


 証拠となるゴーレムも何処かへと保管したと聞くが…。


 「なぁなぁ、俺と一戦アレでやってみないか?」


 「…なに?」


 ニタニタと笑いながら、男子生徒は剣術場へと指差した。突然のことに守は顔をしかめる。


 「俺だってゴーレムの一匹や二匹殺れること位余裕なんだよ。たった一匹殺した程度で図に乗っててずーとイライラしてたわ」


 この男子生徒はどうやって知ったのかは不明だが、ただ単に守の挙げた功績に嫉妬していただけのようだ。守としてもこんなバカな相手に勝負を受けるはずもなく立ち去ろうとする。が、


 「お前逃げるのか!?ひょっとしてただのビビりでしたってか!?」


 大声で守を挑発する男子生徒。そんな子供みたいな挑発を真に受ける人物などどこにもいないだろう。このまま立ち去ろうとする守だが、男子生徒の大声で周りの生徒から視線を浴びて立ち止まる。


 「分かった。だけど一回だけだ」


 守は遂に諦め、仕方なく勝負を承諾した。正直、守は剣術については皆無だ。唯一近い物をしたとしたら、守が幼い頃にしていたチャンバラ位の物。だが、不思議なことに負ける気はしなかった。


 「よっしゃあ!!あとでお前に吠え面かかしてやるからな!!このロベルト=マーカット様がお前を踏み潰してやるからさ!!」

 


 ロベルトと呼ばれる少年は子供のようにゲラゲラと笑いながら、幼稚な言葉を守に浴びせてくる。守は守ではいはいと適当にあしらいながら柵の中へと入って行った。

 

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