第二章(1) 魔界に到着! でもここ何処だ?
第二章突入!
いつも読んでいただいている方、そして今回初めて読んでいただいている方、本当にありがとうございます。
所々読みにくいところや意味が分からないところが正直あると思います。
なのでお手数だとは思いますが、『ここはこうした方がいいんじゃないか』というお気づきの点、他にもご意見・ご感想等がありましたら、どんどん報告してください!
これからも『俺と勇者と魔王の伝説作り』をよろしくお願いします!
『…………テ』
何か声が聞こえる。……女性の声だ。
『タ…………テ』
タテ? もうちょっと、もうちょっとハッキリ言ってくれれば……!
『タ…………ケ……テ――』
「――ぐほぉうっ!」
何かを望むような女性の声は、俺の例えることが不可能な声でかきけされた。
は、腹が……! 中身全部出る……!
「いつまで寝てんねんボケ!」
きつい関西弁に目を覚ますと、そこには俺の腹を踏みつけるアミーがいた。
べ、別に俺の腹を踏んで起こす必要はないんじゃ……。
「で、魔界に着いたのか……?」
辺りを見回すと、鬱蒼と生い茂った草木や夜みたいに暗く重々しい空。
どこを見ても夜の森っぽく見えるのだが……。
「一応な。でも、ここは進入禁止区域の森や。多分野生の野獣族がうようよ出てくるやろな」
「そうか。進入禁止区域の森か〜……。…………え? 今なんて?」
「今、自分でもゆうたやん。ここは『進入禁止区域』やって」
……………………………………………………。
ということは、俺たちは今とても危険な状態ってことか?
で、でもコッチには強そうなアミーがいるし、大丈夫なはず――
「ああゆうとくけど、ウチは戦闘とか出来ひんからな」
「な、何で?」
「ウチ、戦闘苦手やねん☆」
「『やねん☆』じゃねぇぇえええ!!」
だから言ったじゃん! いきなり危険な場所に出るんじゃないかって! 今完全に予想通りになってるぞ!?
「まあまあ、そんなに慌てたらアカン。一旦落ち着き」
「何か策でもあるのかよ……」
「ないな」
一回本気で頭をどついてやろうかコイツ……!
「でもな、ここの野獣は力がごっつい高い代わりに遭遇率が低いね――」
ガサッ、と音を立てて近くの草むらから、俺が初めて出会った狼に似ている魔物が出現。
「……遭遇率がなんだって?」
「いや、ウチは何も言ってない」
「オイッ! ってこんな所で漫才をしている暇はない! アミー! 何か策はないか!?」
「こっちから行かんければ、襲いかかってくることは――」
大きな腕を振りかぶり、俺の喉元を切り裂こうとする二足歩行の狼。……殺る気満々じゃねぇか。
「仕方ねぇ! アミー! 何か粉末状のもの持ってねえか!?」
「い、一応コンクリの粉があるけど?」
「何であるのか知らないが、それでいい! ちょっと貸してくれ!」
アミーは鞄をゴソゴソ漁り、中からコンクリの粉が詰められた袋を取り出すと、それを俺に投擲する。それを受けとると、俺はアミーに向かってこう言い放つ。
「よし、サンキュー! アミーは先に逃げろ!」
「自分はどうするんや!?」
「俺は後で追う! だから早く逃げてくれ!」
渋々「分かった」と頷くと、アミーは木々の間へと走っていった。
「さて、俺は遊んでいきますかね」
正直、その遊びで命を失いそうだが。
「でも、そう簡単に俺の命を貰えると――」
そう言った瞬間に、狼の鋭く尖った爪が俺の目の前を通りすぎる。……距離があったから良かったけど、死ぬ、ホントに死んじゃう!
続けて相手は一歩踏み出し、上から左腕で攻撃を仕掛けてくる。それが分かった俺は、右からの攻撃にも備え、狼の左側を転がるようにして避けた。そしてアミーから受け取ったコンクリ入りの袋を破り、相手が振り返った瞬間、その粉を思いっきり浴びせかける。
(よし、今だ!)
粉を浴びて油断した狼に全身全霊のタックルをお見舞い。俺も一緒に転んだが、狼も少しはダメージを受けたらしく、小さく呻き声のようなものをあげていた。
(……今のうちに逃げよう!)
俺は狼から全力で逃げたのだった。
そして、それから走ること数分。
何やら湖のような場所に俺は出ていた。
神聖な雰囲気を醸し出し、そこだけ昼間のような明るさをした湖は、見る者の心を惹き付けるような感じが出ている。
「ちょうど喉乾いてたし、ちょっとだけ飲ましてもらうかな」
両手で水を掬い、それを口に付けて飲む。
「……な、なんだここの水! スッゲー美味い!」
その美味さに驚きながら、二、三回その水を飲むと、俺は一応持ってきていたペットボトルにも給水しておき、アミーを探すために立ち上がった。
(アイツ、また魔物に出会ったりしてねぇよな?)
心配になった俺は、もう一度森の方向へ戻ることにしたのだが、そんな折、俺はあることに気づいた。
「体が軽いぞ!」
水分補給をして、かなり体力を回復したらしく、体がすごく軽くなっていた。……これなら魔物から小細工無しで逃げれるかも知れないな!
「アミー! 聞こえるか〜!」
叫んでみても返事がない。遠くの方へ逃げたのか……?
魔物に遭遇していないことを祈りつつ、俺はアミーの捜索を継続する。……警察かよ。
そして一時間ほどが経った。が、アミーが見つかる気配はない。
「うーむ。アミーは何処へ行ったのだろうか……」
探しても探しても、見つかる気配がない。……まさか、魔物に出会ったとか?
一抹の不安を抱えながら森を歩いていると、一つだけポツーン、と建った小屋を見つけた。
ホントに人間界の森みたいだな、と思いながら小屋のドアを開けると、そこは本当に普通の小屋だった。
壁に暖炉があり、その近くには童話で出てくるような椅子が。
壁一面の本棚には様々な本がビッシリと詰め込まれており、ここに住んでいる人は読書好きとすぐに分かる。
「すいませーん」
呼び掛けてみるが返事は無し。
その後も二、三回呼び掛けるもいずれも返事はなかった。
留守なのか? と思って小屋のドアを閉めようとした瞬間。突如として人の声が聞こえてきた。
『今は五時ですよ〜?』
時間なんて誰も聞いていないのに、時刻を伝えてくる声。
声の高さから恐らく女性だと思うんだけど……。
「ここに赤髪のツインテールの子は来ませんでしたか〜?」
『赤髪のシャ○クスなら私もファンですよ〜』
「話が噛み合ってねぇ!?」
合ってたの『赤髪』くらいだぞ!? しかもなんでワ○ピース知ってんだ!
ふと本棚を見ると、そこにはワン○ース全巻が揃っていた。つか魔界でも売ってんの!?
よし、ちゃんと聞こえるように言おう。たぶんアッチはちゃんと聞こえてないだけだ。
「ここに女の子が来ませんでしたか!」
『はい、私は女の子ですよ』
「微妙に違うッ!」
でも今度は『女の子』は合ってた。ってことはこの人、一言だけを聞き取ってる!?
「……女子訪問!」
なぜか四字熟語みたいになったが、これなら聞き取ってくれるはず……!
『四字熟語は得意です!』
「何で心の声を読むんだ! ってか得意ってなんだ!」
もういい! アミーは居そうにないし、さっさと行こう!
……と思いドアを閉めた矢先、振り返った俺の目の前に一人の女性が立っていた。
「うおっ!?」
暗い森の中でキラキラと光る長い銀髪。まるでカラーコンタクトをしているかのような綺麗な青い瞳はとても印象的。
セーターとロングスカートを着ていても分かる体つきは雨音にも見習わしてやりたいくらい。
そんなおっとりとした雰囲気をした女性は俺の顔を見て、ニコリと笑った。
「で、どうされたんですか?」
「あ、ああ! ちょっと知り合いを探してまして……」
「先程言っておられた赤髪の女の子ですか? それなら私の小屋にいますよ」
「えっ?」
そう言って女性は小屋の中へ入っていく。……え? 『私の小屋』? じ、じゃあさっきまで喋ってたのはあの人?
「この方ですよね?」
その声と共に出てきたのは、先程の銀髪の女性と寝ぼけ眼のアミーだった。
「ふわぁ……いやーすまん。ここに逃げ込んだはいいけど、つい寝てもうたわ……」
「ほぅ……俺が必死になって探している間に、お前は寝てたのか」
「い、いや? 寝るつもりはなかったんやで? で、でもつい――」
「良かったよ。お前が無事で」
「え……?」
魔物と遭遇してなくて本当に良かった。ホッと一安心していると、アミーはなぜか怒ったかのような顔をしていた。な、何なんだ?
「いきなりそんな事ゆうなんて、ズルいわ……」
声が小さくて聞こえなかったが、怒っているようなのでそっとしておこう。
「お知り合いが見つかって良かったですね」
会話が途切れるタイミングを待ってくれていたのか、銀髪の女性が俺に話しかける。
「ありがとうございます。え、えーと……」
「私はミシェル=アストレトと申します」
「あ、俺は黒條白兎と言います」
お互いに握手を交わし、もう一度俺はお礼を言った。
「お二人はどちらまで行かれるのですか?」
……俺はあまり魔界について知らないから、アミーに答えてもらおう。
「ここは何地方や?」
「ここは……確か――」
二人が話している地名等を聞いても全く分からない。誰か俺に地図をくれ。
そうこうしている間に話終えたのか、アミーが俺に向かってこう言った。
「この近くに町があるから、そこまで行くか」
「また魔物に出くわさないだろうな?」
「大丈夫や。次はこの人も一緒やからな」
そう言って指差したのは、アストレトさん。……え? どゆこと?
「この人はこの森全てを管理する凄腕の魔界人やからな」
え? こんなにおっとりした人が?
「それは昔の話ですよ〜! 今は強くありませんから〜!」
「何言うてんねん! こないだも襲いかかってきた野獣族を次々となぎ倒してたやないか!」
照れたように笑うアストレトさん。いや、あの狼とか相手に余裕なの?
すると、アストレトさんは数冊の本を買い物バックのような鞄に入れると、ドアを開けてこう言った。
「さ、行きましょうか?」
その言葉に頼もしさと一抹の不安を抱えながら、俺たちは再び森へと進んでいくのだった。……大丈夫かコレ……?