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俺と勇者と魔王の伝説作り!!  作者: 夜秋雨
第一章
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第一章(5) 危険なメイドと村人の信念

ボーリング場でみんなと遊んだ次の日。


「早く起きてください☆ 起きないと……」


カチャ、となにか黒光りする危ない物体が俺の額に当てられる。

冷たいソレは、とあることをすれば、一発で俺を昇天――


「って、冷静に解説してられるかぁぁあああ!!」


朝から俺は命を狙われていたのだった。






「で、何なんだよコイツは……」


俺のこめかみに危ない代物をずっと押し付けているこのメイドはなんなのか。

リビングで朝飯を食っていたルシファーに話を聞くことにした。

ちなみに母さんは朝早くに飯だけ作って出掛けていった。


「んぁ? そ、そいつは俺の――」

「お前の?」


何かを言おうとして口ごもる。何だ、なにか言えないことでもあるのか。というか、さっさと言ってほしい。じゃないと俺の頭から二一禁的なモノ出して、昇天しちゃいそうだから。ほらほらコメディからホラーになっちゃうぞ☆


「そいつは――」

「私はルシファー様の婚約者です☆」


可愛くウィンクしながら言うメイド。いや可愛くねぇよ。姿だけならいいけど、手にソレがあるとな……。『鬼に金棒』はよく聞くけど、『メイドに(自主規制)』は聞かねぇよ?


「って、婚約者ぁぁああ!?」

「反応遅いです☆ 後二秒遅ければコレの口から火を吹いてました☆」


ダラダラと額から嫌な汗が流れる。あ、アブねぇ……!


「お前が言ってた婚約者ってこの人だったのか!?」

「あら、ルシファー様が私の話をしてくれてたんですか! 嬉しい☆」

「…………チッ」


ルシファーの舌打ちと共に俺の右側でカチッと何かを下ろした音が聞こえる。や、やめて! それ以上この人の機嫌を悪くするのやめて!!


「で、で? なんでその婚約者が俺の命を狙ってんの?」


正直、ルシファーの婚約者うんぬんはいい。それよりも優先するは俺の命。とりあえず狙われている理由から探ろう。


「いえ、魔界の情報屋からこんな噂を聞きまして……」

「う、噂……?」


メイドは左手を頬に当て、ため息をつき、


「ルシファー様が魔界を見捨てた、と……」


え? ルシファーが魔界を捨てた?


「いや、それは俺たちの世界に来た時、ゲートが壊れて――」

「ならどうして、私はここに来れたのでしょうか?」


う……! そう言えばそうだ。ドラキュラやカラス人間もこちらの世界に普通に来たじゃないか。

じゃあ、門の故障ってのは嘘?


「おい! ルシファー、お前――」

「それはどうでもいいんです☆」


へ? それはどうでもいいの?


「それより、この人間がルシファー様の魔王証明書を見た、という情報が入りまして……」


魔王証明書? ああ、あの名前以外読めなかった紙か。


「その情報の漏洩防止のために来ました☆ 私と結婚するか、この人間が死ぬか選んでください☆」


笑顔でアレの引き金に指を掛けるメイド。

って、ちょっと待て!


「アレは勝手にコイツが――」

「見せろと言われたから見せた……! 見せなければ殺すと脅されていたんだ……! だから一思いにソイツの命を……!」

「ルシファー! テメェェエエエ!!」


あの野郎! 俺を売りやがったぞ!? そんなに結婚するのが嫌か! 俺もこのメイドは嫌だけどな!


「分かりました……。では、この人の命とルシファー様のキスで交渉成立です」

「ちょっと待って? 今一つ要求を付け足したよな? キスなんて聞いてねぇぞ!?」

「キス云々の前に俺を助けろよぉぉおお!」


これが人生最大の叫びなんだと自分で思った。






数分後。俺の身柄は解放され、学校へダッシュしていた。

隣には例のメイドもついてきている。


「な、なぁ? とりあえずその黒光りするモノをしまってくれない?」

「なぜです? あなたの命が狙えないじゃないですか☆」

「狙うな! ……ってのもあるけど、町中でそんなもん出してたら捕まるからな」


俺も一緒に。


「そうなった場合、その人達を消してしまってもいいんですけど、ルシファー様の好きな人間界を壊れてしまうのもなんですし……。今は従っておきます☆」


そう言うと、メイドはアレをメイド服の中にしまった。

……しかし、口を開けば危ないことばっかりで、ルシファーの気持ちも分からないことはない。大変そうだな。このメイドとの結婚生活は。


「で、お前何でメイド姿なの? 普通の格好とかはしないのか?」

「まあ、元々ルシファー家のメイドでしたし、私がこの姿好きですから☆」

「ふぅん。で、アイツって魔界ではどんな風なんだ?」

「優しい人ですよ……。私が路頭で彷徨っていたら、突然現れて『俺の家で働け』と言って、寝床、食事をすべて用意してくれましたから……」


優しいところ有るんだなアイツ。

それはメイドの表情を見ただけでも分かるくらいだ。


「でも、なんで魔物が人間界に次々来るんだよ? ルシファーがそんなことするはずねぇし……」


それを聞いた瞬間、メイドの表情が暗くなる。


「それはルシファー家に相反するベルゼブブ家を始めとした四大王家などの仕業だと思います」


そう言えば、結城さんが『ルシファー家は屈指の……』って言ってたもんな。最強と言わなかったってことは力でまだ上の奴がいるってことか。


「魔物が人間界へ侵略するのを防ぐために、ルシファー様はこちらの世界へ来たのかもしれません」

「そうか。アイツはそれで『門の故障』だなんて嘘を……」

「ルシファー様は一人で抱え込みすぎです。婚約者の私にもっと言ってくださればいいのに」

「ったく、ホントアイツはなんでも一人で抱え込んでるんだな……。でも、アイツの気持ちも分からなくはない。きっとお前を巻き込みたくなかったんだと思う」

「私……を?」


ルシファーが魔界を抜け出し、人間界の魔物を倒した事が知れれば、きっとアイツは仲間殺しの烙印を押されるだろう。

そこにこのメイドを巻き込めば、他のやつらは魔王への攻撃だけでは飽きたらず、婚約者であるメイドにまで手を伸ばす。

だから、アイツはこの人を婚約者にしたくないのか……。

メイドという扱いならうまく行けば逃せるからな。


「……そうだな。お前はルシファーを信じて待ってろ。ルシファーは絶対にそんな奴等になんか負けねぇからな!」

「……ふふ、貴方は面白い方ですね。ルシファー様が貴方の家に住んでるのも分かりますよ」


どっちかと言うと、俺は家主としてしか見られてないような……。


「そう言えば貴方の名前を聞いてませんでした」

「俺は黒條白兎。普通の高校生だ」

「私はヘレン=アエリアルです。これからもルシファー様をよろしくお願いします」


ヘレン=アエリアルか……。これからアエリアルと呼ばせてもらおうかな。


「じゃあ、俺は俺なりにルシファーに協力してみるよ」

「分かりました。私も魔界で調べてみます」


そう言うと、アエリアルは人間離れした跳躍力で近くの家の屋根を次々と飛んでいった。


「よし……学校で結城さんに相談してみるか」


結城さんなら協力してくれるはず。俺にできることはやってみせる!






「そうか。それで魔王は人間界に……」


放課後。一通り事情を話すと、結城さんは快く協力を承諾してくれた。

やっぱり優しいよな、結城さんは……!


「で、アイツは一人で解決しようとしているみたいだから、裏からサポートってできないかな?」

「まあできなくもないが、私は今もう一つの事件もあって、あまり大きく動けないんだ」


もう一つの事件? はて? そんなのあっただろうか?


「黒條君は覚えているか? 君が最初に出会った魔物の事を……」

「確か、狼の魔物だったよな?」

「これはその狼の魔物の体内で発見した」


そう言うと、結城さんはスカートのポケットから小さなクリスタルのようなものを取り出した。


「何だコレ?」

「これは『ドーピングクリスタル』と言って、魔物の理性と力を暴走させるものなんだ」

「なっ……!?」


じゃああの時、異常なまでの破壊衝動はコレのせいだったのか!?


「最近こいつが魔物の間で流行っているらしい。でもその大半は理性を失うことを知らずに飲むんだそうだ」

「騙されて飲まされてる、ってことか……」


いったい誰がそんなことをしてやがんだ……! 魔物にだって心はあるというのに……!


「たぶん、その『魔物の人間界侵略』と、この『ドーピングクリスタル』の一件は繋がっているのかもしれない。私はクリスタルの件をメインに協力していく事にする」

「分かった。じゃあ俺は人間界侵略の方を調べてみるよ」


さて、話も終了したことだし、早速家に帰って方法を練らなきゃな。

そう思って立ち上がろうとした瞬間、結城さんにその手を掴まれた。


「ゆ、結城さん……?」


柔らかく暖かい結城さんの手は小さく震えていた。


「本当は君を私たちの問題に巻き込みたくないんだ……」

「結城さん……」

「危険な目に遭うかもしれないんだぞ……? もしかしたら命を失うことになるかも知れないんだぞ……?」


一般人である俺にここで止まってほしいようなセリフ。確かに分かる。俺がもし結城さんの立場なら、絶対に一般人を関わらせないでおこうとするかもしれない。でも違う。違うんだ。


「それは違うんだよ結城さん」

「え……?」

「確かに俺は一般人だ。ゲームで言えば村人Aみたいな存在で、何の力もなければ、勇者のパーティにも魔王の配下にも就かないようなモブキャラだよ」


一呼吸置いて、言葉を続ける。


「でも、そんな俺でも只々、村で勇者が来るのを待ち続けるだけの、勇者にすがっているだけの村人には絶対なりたくねぇんだ」


自分で言っていて少し恥ずかしいが、それは俺の本音。

主人公じゃなくてもいい。特別なポジションなんていらない。村人で十分。でも待ち続ける村人だけは絶対にならない。それが俺の信念。


「そうか……。分かった」


納得したような表情をする結城さん。い、今の発言引かれなかったかな? すごい不安なんだけど……。

そんな不安を吹き飛ばすように結城さんはこう言った。


「一緒に解決しよう。黒篠君!」

「……お、おう!!」


絶対に魔界の住人を、ルシファーを助けて見せる……!

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