第一章(4) 心休まる場所と新たな問題
有名なボーリング場に来た俺たち四人。
ここにはボーリングの他にもカラオケやホッケー等、様々な娯楽施設が揃っており、飽きることがなく遊ぶことができる。
さっそくボーリング場の受け付けに向かった俺たちだが……。
「ご利用は五名様でよろしいですか?」
……ん? 『五』名様?
よし、人数を確認してみよう。
まずは俺。そして結城さんに、後輩の雨音と櫻葉。そんで持ってルシファーっと……。
え? ルシファー?
「何でお前がいるんだよ!?」
しれっとこのメンバーに入っていたルシファーに思わずツッこむ俺。
いつの間に紛れ込んでやがったんだ!?
「俺の直感が楽しそうな気配を感じ取ったからな! 俺も来てやったぞ!」
どんな直感だよ!? まあ、人数が多い方が楽しいし、良しとしておこうか。
こうして一人を追加し、ボーリングを開始した。
「よし、誰から投げるんだ?」
「じゃあ俺からいきますよ」
後輩の櫻葉が球を持ち、レーンの前に立つ。
「これがボーリングか! 早く俺もやりてぇ!」
「ちょっと待て! これは順番だ!」
球を持って、違うレーンで投げようとするルシファーを俺が抑止する。
「じゃあ、行きますよっと!」
櫻葉が放った球は、綺麗なカーブを描き、真ん中のピンへと直撃。
そこを起点としてすべてのピンが倒れた。
「うまいな櫻葉!」
「まあ、たまに家でやってますから」
そういえば、櫻葉は櫻葉財閥のお坊っちゃんだったな。
家にこんな設備があるなんて、どんな家だよ。
「じゃあ、次は俺だからな!」
球を振り回しながらレーンの前に立つルシファー。
あいつ、本当に楽しそうだな。
「黒條先輩、あの人は誰なんですか?」
雨音は隣のピンをすべて倒すという迷技を繰り出したルシファーを指差し、俺に訪ねてきた。
まあいきなり参加してきた奴だし、誰なのか分からないと不安だろうから教えておくか。
「ああ、あいつはルシファーと言って、海外から越してきたやつなんだ。今は俺ん家に居候してるけどな」
「ふ〜ん、そうなんですか……。面白い人ですね!」
「まぁな。日本に来たばかりだから少し日本人とは違う行動をするかもしれないけど、そこは許してやってくれ」
「そうですよね。今も違うレーンでボーリングをしてるのは、まだ慣れてないからですよね!」
「へ?」
違う方向を見ている雨音の視線を追うと、そこには違う客達のレーンでボーリングをするルシファーの姿が。
「テメェ! そこは違うレーンだって言ってんだろうがぁぁあああ!!」
少し子供を怒っているみたいで、他人の目が恥ずかしかった。
「さあ次は結城さんの番だ」
「あ、うん。そうだな……!」
俺はスペアという平凡なスコアで終了し、次は結城さんの番となった。
不安そうな顔でレーンに立つ結城さん。確か、ボーリングは初めてだって言ってたけど……。
今までの俺たちの動きを真剣に見ていたのか、俺たちを真似したかのようなフォームで球を投げると、中央のピンに吸い込まれるように球が曲がり、見事ストライクとなった。
「は、初めてでここまでとは……すげぇよ結城さん!」
「い、いや! みんなの真似をしただけだからっ!」
と謙虚に照れる結城さんはとてもかわいく見えた。
「よーし、私もストライク取りますよー!」
「頑張れよ! 紗季!」
桜庭の声援を受け、雨音がレーンに立つ。アイツはかなり上手そうだな……。
「行くよ! エイッ!」
大きく振って投げた球は一メートルも進まないうちにガーターへ。
……ごめん。俺こんな時のリアクション知らないや……。
「……先輩?」
「ん、んん? な、何だ?」
「今の私の投球どうでした?」
ヤバい。今少しずつ爆弾が近づいてきている……! 下手なことすれば、一回でドカーンだ……!
「う、うん! こ、今度はもう少し頑張ろうぜ!」
そういった瞬間。俺の顔面にアイアンクローが炸裂した。
「さあ気を取り直して行こう!」
元気いっぱいの雨音の声。
端っこで倒れている俺を無視して、ボーリングが再開される。
この状態の俺を無視できるって、どんな神経してるんだよ……!
ずっと倒れているわけにもいかないので、顔を擦りながら立ち上がる俺。
すると、結城さんが濡れタオルを用意してくれていた。
「大丈夫か? 大変だな黒篠君も……」
「まぁ、アイツらが楽しいならそれでいいんだけど、物理攻撃はやめてほしい……」
いや、まず攻撃をやめてほしいと言うべきかここは。
「私もこんなに楽しいのは初めてだ。く、黒篠君も一緒だし……」
「ん?」
最後のほうが聞こえなかったのだが、結城さんも楽しんでくれているみたいで何よりだ。みんなが楽しめなかったら嫌だもんな。
そういえば、さっきからルシファーの声が聞こえないんだが、アイツはどこに行ったんだろうか?
あたりを見回ると、少し離れたところでボーリングの球をタワーのように積み上げている奴が一人。
「おい、何してんだ」
「ちょっと待て……、あと一球で一〇段だ……!」
そっと球から手を放すと、見事一直線にそびえ立つボーリングタワーが完成した。おめでとう!
……じゃなくて。
「人様に迷惑かけるな。そんで自分で片付けろよ」
冷たく言い放った俺の言葉にルシファーは渋々球を片付けていた。……当然の代償だぞ。
そして時間は進み、ボーリングを終了した俺たちはこの施設の中にある他のゲームで遊びまくった。
「勝負だ勇者!」
「受けて立つ!」
と卓球で勇者対魔王というある意味ラスボス戦っぽい対決や、カラオケで櫻葉と雨音が意外な美声を披露したりする内にあっという間に帰る時間となっていった。
「あ~今日は楽しかった! 結城先輩! 黒篠先輩! また一緒に行きましょうね!」
「ああ。手持ちに余裕があったらな」
「まあ、余裕がなくても誘いますけどね」
「櫻葉……、お前が余裕あるからってな……」
呆れたように言うと、雨音と櫻葉は「それじゃあ」と挨拶して帰っていった。
「結城さんは楽しかったか?」
「ああ。すごく楽しかった!」
満面の笑みを浮かべ、結城さんは心から楽しそうな声を出す。
その言葉を聞いて俺はホッとした。毎回あんな戦いを繰り広げている結城さんは、きっと心が休まる場所がなかったはずなのだ。
まあ、それは俺の勝手な意見を言っただけかもしれないけど、それでも結城さんにはこういった場所を作りたい、と思って後輩の誘いに乗った。
それが成功して本当に良かった……!
「で、ルシファーはどうだったんだ?」
「ん? ああ、俺もすっげえ楽しめた。礼を言っておく」
コイツが礼を言うなんて珍しいな。まあ、楽しかったみたいだしそれは喜ばしいことだ。
「じゃあ、私はこっちの道だから……」
「おう。気を付けて帰れよ」
「ああ。黒條君も」
違う道を歩いて帰る結城さんに手を振り、俺とルシファーは家へと帰るのだった。
「で、これは何だルシファー……?」
「い、いやこれはだな……?」
家に帰宅した俺の目に飛び込んできた光景は散らかりまくったリビングと、その真ん中に座る一人の少女だった。
髪の両側をリボンで結んだ、ツインテール少女はスタンダードなメイド服を着て、俺たちにこう言った。
「おかえりなさい。ア・ナ・タ?」
これはまた問題が一つ増えたのかもしれないな。