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第93話 人猫一体

(対象の魔力に干渉(アクセス)し露出させるジッパーの能力、使いこなしがいのある汎用性、雷をエンチャントしたその剣であらゆるものをこじ開ける概念と威力の両立。ただの上乗せのパワーアップじゃない……全てが理にかなった素晴らしいギフトの示現だ)


 熟練の冒険者は戦いの中でも冷静。アキトは【百足エレキジッパー】を正確に分析しその使い心地をレビューする。


(なんということだ……まるでジブン好みの……いや、ジブンすら想像の及ばない! それを分かち合う喜び。やはりジブンの直感は、間違っていなかった。タイキ、あぁタイキ。嘘偽りのない名を持つキミこそが! ふふふふふふふ)


 最後の最後まで切り札に伏せていた自身の能力【悪戯門番】で、対価のカードを全て支払いタイキのギフトを仮想示現したアキトは、今この瞬間も内心に歓喜愉悦を募らせる。これこそが生きた本当のギフト。冒険者タイキの道き出した答え。そんな共有した予想を遥かに凌駕する答えに、この男が喜ばないわけがない。


 青臭いギフトが開花するこの瞬間のために、実を捻じ曲げ虚のコピーを排出するアキトのギフトはあると言っても過言ではない。しかし、余計なアレンジなどいらない。この時ばかりはその一人の冒険者がたどり着いた境地を、四島彰人はただ純粋に骨の髄まで味わいたかった。


 竜の腕を滑るように斬り裂いた手応えに、道化師が依然、歓喜に打ち震えていると──。八つの銀の煌めきが、空に墨を描くように走った。 


「今は及びません……ならば一世一代の髪芝居を! 微力ながらも僕の全力を、お二人に送ります!」


 四方八方に途切れることのない黒髪が伸びて、パーティー会場に張り巡らされた立体的な足場となる。八つの髪飾りの魔装具と【髪芝居】のギフトで、今できる最大の全力をもって援護する。闘志と魔力を燃やす美楚羅の機転が、竜と闘う二人へと届けられた。


 タイキとアキトが気の利いたそれをさっそく利用して、竜に空中三次元の攻撃を仕掛ける。コシのある強靭な艶髪はその一本とて、冒険者たちの体を支える足場となる。交差し飛び交う目で追いきれない二人の冒険者の影が、竜を翻弄しその竜鱗にさらなる青い傷を刻んだ。


「おまけも目白押し! 今日はギフト日和か、やるじゃないか。そういう機転は、ゾクゾクするね! アハハハハ」


 積み重なる興奮の連鎖に道化師は狂ったように笑い、水を得た青髪は電光石火の舞をする。黒いワイヤー髪の上を巧みに跳ねる二人の剣は加速し、闘いはヒートアップする。


「っがぁ……!? チッ……蜘蛛男の真似で、ちょこまかといい気になるな! 飛んで火にいる羽虫どもっ!」


 しかし、いつまでも好きにはさせない。竜の怒りの咆哮と共に、張り巡らされたワイヤー髪は振動し、一斉に赤い雷電が通り走った。

 美しい黒から威圧的な赤に塗り替えられるように染まる蜘蛛の巣。そして不幸か、その髪の一本までも余すことなく共鳴させ支配する電撃を、足元から浴びてしまい、千切れた足場を踏み外し落ちていく道化師──。


 真っ逆さまに落ちていく道化師をまずは仕留めんと、ツツミが戟を突き刺したその時──微笑する道化師は、軽快に指を弾いた。

 すると、その呼び鈴を聞いて飛んで駆けてきた一匹の大きな灰色の山猫。空中で緑のマントの布端を咥えると、そのまま向かう戟の上をすり抜けて、山猫は横から道化師をかっさらっていった。


「ちょっと誰がおまけよー! 危なかったじゃないッ!」

「あはは失礼……でも頼んだよララ! 『一人でできるもん』と言いたいところだが……騎士様が少々気張りすぎてね、今はキミがジブンの足だ!」

「それも嫌なんだけどー! 腹の毛がひどく焼けちゃったじゃない! 最悪……!」

「あとでごろんと、ブラッシングをしてあげよう!」

「イッ!? いいからそろそろ、戦いに集中しないよっ!」

「もちろんっ、あぁ……手加減はなしだ! ここが気張り時、ジブンも全力をお約束しよう!」


 足を挫いた道化師は、賢い山猫を呼び寄せ侍らせる。ララ・リンクスに跨り騎乗した冒険者アキトは、負傷し万全でなくともそう簡単に後れを取らない。青髪の主人公と共に描くこんなに楽しいショーのつづきがあるのに、今ここで舞台袖にはけるわけにはいかない。人馬一体ならぬ人猫一体となり、再び手に取るプラスチックの剣を向け、悪しき巨竜へと立ち向かった。

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