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血統 ー蹄の記憶ー  作者: あいまいもこ
初めて怪物の異名を冠された馬

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30/33

26_覚醒の足音

アメリカ遠征から帰国したころには、冬の気配がすっかり日本を包んでいた。


世界の舞台で敗れたタケシバオーは、静かに厩舎へ戻ってきた。


ワシントンD.C.インターナショナルでの結果は、八頭立ての八着。惨敗だった。


だが、陣営の表情に沈鬱さは長く残らなかった。

むしろ、どこか吹っ切れたような空気があった。


世界との差は、はっきり見えた。

そして同時に、戦えない相手ではないことも、感じていた。


帰国後、日本の競馬界はすでに年末の大一番へ向けて動いていた。


有馬記念。


そのファン投票の結果が発表されたとき、タケシバオーの名前は三番目にあった。


一位は

アサカオー。


秋のクラシック、

**菊花賞**を制した馬である。


二位は

マーチス。


皐月賞馬であり、春の主役の一頭だった。


そして三位。


タケシバオー。


三強と呼ばれた三頭が、ここでも並んだ。


だが、タケシバオーはこのレースを回避した。

長距離遠征の疲労もあり、

無理をさせる必要はないという判断だった。


年末、タケシバオーは静かに一戦だけ走った。


騎手には新しく

**古山良司**が迎えられた。


舞台はオープン戦。


レースは、少し意外な形になった。


スタートで出遅れたのである。


タケシバオーは後方からの競馬になった。


古山は驚いた。


この馬は本来、前で競馬を作るタイプと思われていたからだ。

だが、馬は落ち着いていた。


向こう正面。


古山はじっと我慢した。


そして直線。


タケシバオーが動いた。


そのときだった。


古山の体に、奇妙な感覚が伝わってきた。


「……大きい」


思わずそう感じた。


ストライドだった。


一完歩が、とてつもなく長い。


芝を掻き込むというより、地面の上を滑るように前へ出る。


古山は驚いた。


これほど大きなストライドの馬は、あまり乗ったことがない。


タケシバオーはぐんぐん伸びた。


しかし。


差は、わずかに届かなかった。


二着。


勝利こそ逃したが、内容は悪くなかった。


レース後、古山は言った。


「驚きました」


厩舎の関係者が顔を見る。


古山は続けた。


「ストライドが、とにかく大きい」


少し笑う。


「乗っていて面白い馬です」


調教師の

**三井末太郎**は、静かにうなずいた。


敗戦だった。


だが、収穫はあった。

こうしてタケシバオーの一年は終わった。

振り返ってみれば、不思議な一年だった。


春。


**4月のオープン戦**以降——

勝利がなかった。


スプリングステークス。

皐月賞。

NHK杯。

日本ダービー。


すべて敗戦。


それでも、タケシバオーの名声は落ちなかった。

それほど、内容のあるレースをしていたのである。


一方、この年の競馬界では、

三強の明暗が少しずつ分かれていった。


アサカオー。


この馬は秋の菊花賞を制した。

そして、年度代表馬にも選ばれた。

だが、この選出には議論もあった。


なぜなら——


この年、圧倒的なレースをした馬がいたからである。


ヒカルタカイ。


**天皇賞(春)**を十八馬身差。

さらに

**宝塚記念**をレコード勝ち。


内容だけ見れば、

年度代表馬に最も近い成績だった。


しかし、選ばれたのはアサカオーだった。

クラシック勝利の重み。

それが、最後にものを言った。


もっとも——

さらに奇妙なこともあった。


最優秀四歳牡馬に選ばれたのは、アサカオーではなかった。

皐月賞馬のマーチスだったのである。


競馬の評価とは、ときに複雑なものである。

こうして振り返ると、

三強と呼ばれた三頭ではあったが——

結果には、微妙な差が生まれていた。


アサカオーはクラシック馬となり、年度代表馬。

マーチスは最優秀四歳牡馬。


そしてタケシバオーは——


そのどちらにも届かなかった。


三強。


確かにそう呼ばれた世代だった。


だが一年を終えてみると、三頭の間には、どこか目に見えない差がついていたのである。


しかし、その差は、まだ決定的なものではなかった。

タケシバオーは、まだ若かった。


そして——

この馬の物語は、まだ終わっていなかった。

そろそろタケシバオーの物語も終盤になりました。

次はどんな競走馬の物語を綴りましょうか。悩みます。


それと描くための燃料を下さい。

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