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血統 ー蹄の記憶ー  作者: あいまいもこ
初めて怪物の異名を冠された馬

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22/36

21_東京優駿(1968) ー前編ー

昭和四十三年、七月七日。


空は高く、夏の光が関東平野を照らしていた。

その日、**東京競馬場**には、朝から人の波が押し寄せていた。

駅を降りると、もう人の流れが出来ている。

帽子をかぶった男たち、腕を組んだ競馬好き、新聞を広げながら歩く若者。


皆、同じ場所へ向かっている。


**東京優駿**。


日本ダービーである。


この年のダービーは、いつもと違った。

本来なら五月に行われるレースが、競馬場改修のため七月にずれ込んだ。


人々は、それをこう呼んだ。


**七夕ダービー。**


夏のダービー。

それだけでも珍しい。


だが、この年の興奮はそれだけではなかった。


三頭の馬がいた。


野武士タケシバオー

皐月賞馬マーチス

そして貴公子アサカオー


春の重賞は、この三頭がほとんど独占していた。

勝ったり負けたりしながら、互いの力を確かめ合う。


三強。


いつのまにか、新聞はそう書くようになっていた。

どの馬が一番強いのか。答えは、まだ出ていない。


それを決めるのが、今日のダービーだった。


スタンドは満員だった。

人の熱気が、夏の空気をさらに重くする。


記者席でも声が飛び交っていた。


「今年のダービーはすごいぞ」


「三強決戦だ」


「どれが勝つ?」


「タケシバオーだろう」


「いや、マーチスだ」


「アサカオーも怖い」


議論は尽きない。


そのころ、馬たちは地下馬道を通ってパドックへ向かっていた。


タケシバオー。

アサカオー。

マーチス。


そして、もう一頭。


**タニノハローモア**。


人気はなかった。

九番人気。


八連敗中の馬である。

新聞の印も、ほとんどついていない。だが、ハローモアの目は鋭かった。


鞍上は静かに手綱を握る。作戦は、もう決まっていた。


逃げる。


それだけだった。


一方、タケシバオーの陣営は静かだった。

これまで何度も惜敗してきた。

弥生賞、スプリングS、皐月賞、NHK杯。


すべて二着。


だが、力は疑われていない。


ダービーのゲートが近づくにつれ、

スタンドのざわめきは大きくなっていった。


やがて、ファンファーレ。

東京競馬場の空に、あの旋律が響いた。

観客が一斉に立ち上がる。


十数頭の三歳馬が、ゆっくりとゲートへ向かう。

誰もが思っていた。


このレースは、三強の戦いだ。


そして——

その予想は、レース開始から覆される。

スターターの旗が振られた。

話の区切り方が難しかったので4話で構成して、本日中には全てupします。

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