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血統ー蹄の記憶ー  作者: あいまいもこ
初めて怪物の異名を冠された馬

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16/32

15_関西の雄

朝日杯三歳ステークスを圧勝したタケシバオーの名は、一夜にして全国へ広がった。


だが——

日本の競馬は、関東だけではない。


西では、西の主役たちが静かに火花を散らしていた。


関西では、**タニノハローモアとマーチス**が激突。


タニノハローモアは、鋭い末脚を武器とする実力馬。

対するマーチスは、完成度の高いレースぶりで着実に勝ち星を重ねていた。


両者の対決は、関西のファンを大いに沸かせる。


「東にタケシバオーあり」

ならば——

「西には誰が立つのか」


新聞も、競馬ファンも、その答えを探していた。


タニノハローモアか。

それともマーチスか。


やがて人々は言い始める。


関東の良血を打ち倒し野武士の様だと言われる、タケシバオー。

それに挑む、西の代表。


世代最強の座をめぐる戦いは、すでに始まっていた。


関西にも、ひとつの思想があった。


強い馬は、甘やかしては生まれない。

鍛え上げてこそ、真の競走馬が生まれる——。


その信念を抱いた男がいた。

**谷水信夫**である。


彼が興した**カントリー牧場**では、常識とは異なる育成が行われていた。


徹底して走らせる。

負荷をかける。

弱いものは、そこで脱落する。


実際、同世代の半数はデビューにさえ辿り着けなかったと言われる。

競走能力を失ったのである。


しかし——

それでも生き残った馬は、強い。


その思想の中から現れた二頭が、

**マーチス**と

**タニノハローモア**であった。


同じ牧場。

同じ思想。

同じ鍛錬。


いわば、兄弟のような存在である。


先に名を上げたのはマーチスだった。


夏、函館競馬場。

そこで新馬戦を勝つと、続く札幌のオープンも連勝する。


早くから関西の期待を集めた。


だが、秋になると歯車が狂った。

勝てない。

善戦はするが、届かない。


一方で力を伸ばしてきたのがタニノハローモアだった。


同じカントリー牧場の馬。

同じ谷水の理想から生まれた存在。


西の三歳戦線は、やがてこの二頭を中心に回り始める。


そして暮れ。

舞台は**阪神3歳ステークス**。


場所は**阪神競馬場**。


西の三歳王者を決める戦いである。


人気はタニノハローモアに集まった。

安定した戦績。

完成度の高さ。


それに対し、マーチスは二番人気。


一度は勢いを失った馬。

そう見られていた。


だが、鞍上の**保田隆芳**には、ひとつの考えがあった。


前へ行かない。


溜める。


この馬の末脚は、まだ死んではいない——。


レースが始まった。


各馬が先を争う。

阪神の直線は長くはない。

前が有利な競馬場である。


だが保田は動かなかった。


マーチスは後方。

じっと脚を溜める。


前ではタニノハローモアが流れに乗る。

人気馬らしい、堂々とした競馬である。


三コーナー。

四コーナー。


前の馬が押し切る形に見えた。


そのとき——。


後方から一頭が伸びた。


マーチス。


保田隆芳が追う。

長く、鋭い脚が伸びる。


直線の半ば。


前を行くタニノハローモアとの差が、急速に詰まる。


スタンドがどよめいた。


「マーチスだ」


最後の数十メートル。


末脚が炸裂した。


ゴール板の前で、マーチスが前に出た。


勝った。


西の三歳王者である。


観客の歓声の中で、二頭の名が並んで語られた。


カントリー牧場の思想。

谷水信夫の理想。


その鍛錬の中から生まれた二頭は、こうして関西の頂点を争った。


そして人々は、やがて思うことになる。


東には

**タケシバオー**がいる。


西には

マーチスとタニノハローモア。


日本競馬の新しい世代が、いま、姿を現し始めていた。


四歳戦線——

その舞台で、

**「打倒タケシバオー」**に名乗りを上げる馬たちが現れ始めたのである。

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