15_関西の雄
朝日杯三歳ステークスを圧勝したタケシバオーの名は、一夜にして全国へ広がった。
だが——
日本の競馬は、関東だけではない。
西では、西の主役たちが静かに火花を散らしていた。
関西では、**タニノハローモアとマーチス**が激突。
タニノハローモアは、鋭い末脚を武器とする実力馬。
対するマーチスは、完成度の高いレースぶりで着実に勝ち星を重ねていた。
両者の対決は、関西のファンを大いに沸かせる。
「東にタケシバオーあり」
ならば——
「西には誰が立つのか」
新聞も、競馬ファンも、その答えを探していた。
タニノハローモアか。
それともマーチスか。
やがて人々は言い始める。
関東の良血を打ち倒し野武士の様だと言われる、タケシバオー。
それに挑む、西の代表。
世代最強の座をめぐる戦いは、すでに始まっていた。
関西にも、ひとつの思想があった。
強い馬は、甘やかしては生まれない。
鍛え上げてこそ、真の競走馬が生まれる——。
その信念を抱いた男がいた。
**谷水信夫**である。
彼が興した**カントリー牧場**では、常識とは異なる育成が行われていた。
徹底して走らせる。
負荷をかける。
弱いものは、そこで脱落する。
実際、同世代の半数はデビューにさえ辿り着けなかったと言われる。
競走能力を失ったのである。
しかし——
それでも生き残った馬は、強い。
その思想の中から現れた二頭が、
**マーチス**と
**タニノハローモア**であった。
同じ牧場。
同じ思想。
同じ鍛錬。
いわば、兄弟のような存在である。
先に名を上げたのはマーチスだった。
夏、函館競馬場。
そこで新馬戦を勝つと、続く札幌のオープンも連勝する。
早くから関西の期待を集めた。
だが、秋になると歯車が狂った。
勝てない。
善戦はするが、届かない。
一方で力を伸ばしてきたのがタニノハローモアだった。
同じカントリー牧場の馬。
同じ谷水の理想から生まれた存在。
西の三歳戦線は、やがてこの二頭を中心に回り始める。
そして暮れ。
舞台は**阪神3歳ステークス**。
場所は**阪神競馬場**。
西の三歳王者を決める戦いである。
人気はタニノハローモアに集まった。
安定した戦績。
完成度の高さ。
それに対し、マーチスは二番人気。
一度は勢いを失った馬。
そう見られていた。
だが、鞍上の**保田隆芳**には、ひとつの考えがあった。
前へ行かない。
溜める。
この馬の末脚は、まだ死んではいない——。
レースが始まった。
各馬が先を争う。
阪神の直線は長くはない。
前が有利な競馬場である。
だが保田は動かなかった。
マーチスは後方。
じっと脚を溜める。
前ではタニノハローモアが流れに乗る。
人気馬らしい、堂々とした競馬である。
三コーナー。
四コーナー。
前の馬が押し切る形に見えた。
そのとき——。
後方から一頭が伸びた。
マーチス。
保田隆芳が追う。
長く、鋭い脚が伸びる。
直線の半ば。
前を行くタニノハローモアとの差が、急速に詰まる。
スタンドがどよめいた。
「マーチスだ」
最後の数十メートル。
末脚が炸裂した。
ゴール板の前で、マーチスが前に出た。
勝った。
西の三歳王者である。
観客の歓声の中で、二頭の名が並んで語られた。
カントリー牧場の思想。
谷水信夫の理想。
その鍛錬の中から生まれた二頭は、こうして関西の頂点を争った。
そして人々は、やがて思うことになる。
東には
**タケシバオー**がいる。
西には
マーチスとタニノハローモア。
日本競馬の新しい世代が、いま、姿を現し始めていた。
四歳戦線——
その舞台で、
**「打倒タケシバオー」**に名乗りを上げる馬たちが現れ始めたのである。




