レイヤー5
「全員出ろ!早く外へ!」
選手やスタッフたちは一斉に逃げ出した。つまずく者、泣き叫ぶ者、誰一人として振り返ろうとはしない。
「幽霊だ!どうしてここが幽霊に取り憑かれてるんだ!?」
走りながら、ある選手が叫んだ。
「よし……全員いなくなったな。」
俺は安堵の息を吐いた。
一方で、アルヴィナは肩で息をしていた。額には汗が滲み、呼吸は荒い。それでも彼女の瞳は、鋭くルンを捉え続けている。
衝突音が食堂中に響き渡る。床が震え、照明が激しく揺れ、あちこちから悲鳴が上がった。
「強いな……」アルヴィナが呟く。
「だが、倒せないわけじゃない。」
ルンは不敵に笑った。
「もう弱ってきてるな。」
ルンは円盤を高速回転させる。アルヴィナは横に跳び、床を転がった。月刃が肩を掠める寸前だった。円盤が突き刺さった床は、真っ二つに裂ける。
アルヴィナは諦めない。守る時と攻める時を知っている。相手は並の存在ではない。身体能力は、アルヴィナの倍以上だった。
「くそ……これは相当きつい!」
アルヴィナは脚力を頼りに、再び速攻を仕掛ける。
「もう分かってるだろ?俺たちの力の差を。」
ルンは月の刃を弄ぶ。その攻撃は速く、致命的だった。
俺の脳裏には、先ほど読んだ“月の刃”に刻まれた言葉がよぎる――虚無はすべてを呑み込む。
「カエリン!」
アルヴィナが叫ぶ。「早く!」
俺は歯を食いしばった。震える手で、頭の中にイメージを描く――扉。
集中しろ……散るな……
――だが、ヒュンッ!
ルンの円盤の一つが俺に向かって飛んできた。
「カエリン、避けて!」
幸いにも、それは硬質の防壁に弾かれたが、頭が強く揺さぶられ、耳鳴りがした。視界が歪み、集中が崩れかける。
「くそ……」
俺はよろめいた。「今じゃない……」
円盤はまるで俺の思考を読んでいるかのように、何度弾かれても回転し続け、執拗に俺を狙ってくる。
「本当に、厄介だ……!」
汗が噴き出す。
ルンは前に跳び出し、連続攻撃でアルヴィナを追い詰める。
一撃、二撃、三撃――
アルヴィナは防ぎ、下がり、耐えるしかなかった。足取りは次第に重くなり、壁際へと追い込まれる。
「終わりだ!」
ルンが叫んだ。
その瞬間――
ルンの動きが止まった。目が見開かれる。
アルヴィナは、息を切らしながらも不敵に笑った。
「――捕まえた。」
アルヴィナは低く滑り込み、残された力でルンの足を薙ぎ払った。
ルンは床に叩きつけられ、激しい音を立てる。
初めて、ルンは完全に沈黙した。
――そして。
漆黒のオーラが、彼の身体から噴き出した。
「もう、いい。」
ルンはゆっくりと立ち上がる。銀色の髪が荒れ狂うように舞い、瞳が眩く光る。
二つの円盤が彼の周囲を絶え間なく回転し、机、椅子、壁を次々と粉砕した。
「地球のクランの人間に、これ以上侮辱されてたまるか!」
攻撃は狂暴さを増し、無差別に放たれる。
アルヴィナは残った力で跳び退くが、一閃が腕を掠めかけた。
「アルヴィナ!」
俺は目を閉じ、無理やり力を引き出す。
扉を一つ……ただ一つ。
頭の内側を握り潰されるような痛み。鼻から温かい血が流れ落ちる。
同時に、暴走する円盤の軌道を抑えなければならない。
「……頼む。」
「今だ……!」
パァンッ!
揺らめきながら、光の扉が空中に現れた。不安定に震えている。
「入れ!」
俺は叫んだ。
アルヴィナは一切迷わず駆け出し、背後を裂く寸前の円盤をかわして跳び込んだ。
俺もすぐ後に続く。
「カエリン――!」
怒りに満ちたルンの叫びが響く。
扉は閉じた。
円盤は虚空を切り裂き、食堂の建物は一部崩壊する。
粉塵が立ち込める中、ルンは瓦礫の中心に立ち尽くし、荒い息を吐きながら、俺たちが消えた場所を睨みつけていた。
「……まだ終わっていない。」
冷たい声で、そう呟いた。




