自然 33
「お姉ちゃん!」ルラは黒い手や紐の間を縫うように、私の方へ走ってきた。
彼女が気づかぬうちに、一本の手がルラを掴もうとした。私は即座に反応する。指輪が光り、斧を具現化させた。それを素早く投げつけると、手と紐は壁に突き刺さった。
私は一瞬、呆然とした。目の前の光景もさることながら、斧の刃が触れた部分から、その手と紐はまるで血のような紫色の液体を流していたのだ。
「お姉ちゃん、怖いよぉ!」間一髪で逃げ切ったルラは、泣きながら私にしがみついた。
「これ、一体何なの? どうしてこんなことに……」私はルンとルラの部屋を見渡し、困惑した。
「月の一族に伝わる『月の術』。それも高位の禁術だ。あのネックレスから凄まじい力を感じるぞ」ナギンは、ルンが身につけている黒いクリスタルのネックレスを指差した。
「お前の友人は高位の月使いなのか? 副作用が出るほどの禁術を使うような?」ナギンが私に問いかける。
私は首を横に振った。「ルンは……彼女のことはまだ詳しく知らない。でも、彼女は月の王女よ。私が知る限り、彼女の力は双剣と双円盤、それに月のオーラ解放だけのはずよ」
私はルンを助けようと、明かりをつけた懐中電灯を投げ入れた。黒い手と紐が消えるのを期待したが、全く効果はなかった。
「闇が懐中電灯ごときで消えるとでも思ったか? お前は馬鹿か?」私の試みを見て、ナギンが吐き捨てた。
「うるさいわね! 口を動かす暇があるなら手伝ってよ! 早く!」私は詰め寄った。あらゆる手を尽くしたが、どれも空振りに終わる。
向こうではルンが苦痛に悶え、その頬を涙が伝っていた。「早くして!」私はナギンを急かした。
「……いいだろう。お前をより詳しく観察するためにも、今は貸しを作っておくとしよう」ナギンが部屋へと足を踏み入れた。
「エネルギー術! 力の解放!」ナギンの指先が、何かを操るかのように複雑な動きを見せる。
次第に赤い光が部屋を満たし、黒い紐や手に炎のように燃え広がった。
「すべて焼き尽くせ!」部屋の温度が急上昇する。紐と手は確かに焼かれていたが、それは火によるものではなかった。ナギンの赤いオーラに包まれた紐とエネルギーが、まるでオーブンの中で焙られているかのように熱せられていた。
ルンはまだ苦しそうに暴れている。ナギンは全力を尽くしたが、紐と手が灰になり始めても、根本的な解決には至らなかった。
私がルンを抱き寄せようとしたその時――どこからともなく霧が立ち込め、部屋中を埋め尽くした。
「霧? 今度は何が起きてるの?」私は天井に火災報知器を作り出し、雨を降らせて霧を消そうとしたが、効果はなかった。
「予想以上に厄介なことになったな」ナギンが突如として構えをとった。「下がっていろ! 危険だ。凄まじい力を持つ者がすぐそこまで来ている」彼は周囲を警戒しながら言った。
ベッドの上には、涙の跡を残したまま横たわるルンの姿があった。
「遠隔で儀式を試みたが、失敗したようだな。これは私の計算外だ」霧の向こうから影が現れた。その姿はまだ判然としない。
「まさか……お前、霧の一族か?」ナギンが赤いオーラを昂ぶらせる。
「荒事はよせ。私はただ、月の王女を連れ戻しに来ただけだ」ついに、その男が姿を現した。
長身で、一部を括った長い黒髪。小説や漫画、あるいは映画に出てくる剣客のような装束を纏い、剣を携えている。その表情には、多くの謎が隠されているようだった。
「私の名は『マスター・オブ・ハグ』。以後お見知りおきを……」




