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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
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自然 32

私は今、自分の身に起きたことを必死に反芻していた。「闇の次元……か」立ち上がろうと足に力を込める。

「あまり無理をするな」

聞き慣れない、だが記憶のどこかにこびりついている声が耳に届いた。

私は反射的にバルコニーを向いた。かつて私を死の淵まで追い詰めたあの男が、バルコニーの扉に背を預けて立っていた。

「貴様……ラグレスの配下か。なぜここにいる?」

ようやく完全に立ち上がった私は、即座に身構えた。先制攻撃を仕掛けるか、防御に徹するか。意識を研ぎ澄ます。

「先ほどの件は済まなかった。だが、あの瞬間に少し考えが変わってね。……これからは、お前を観察させてもらうぞ、カエリン」

男は冷淡に、しかしどこか確信めいた口調で告げた。

風が吹き込み、カーテンが激しく揺れる。一瞬の静寂。

「何を企んでいる? ラグレスの手先が、信じられるわけがない。……貴様もあいつに命じられて、私を殺しに来たんだろう?」

私は警戒を強め、あらゆる可能性に備えた。

「何と言えばいいかな」

男は痒くもない頭を掻き、面倒そうに溜息をついた。

「まず、俺のことはナギンと呼べ」彼は人差し指を立てる。

「次に、俺はあのラグ何某なにがしに縛られているわけじゃない。そして三つ目……お前を観察するのは、俺の仮説を確かめるためだ。お前は……」

ナギンが私を指差す。「……俺がずっと捜している弟である可能性がある」

ナギンがフードを脱ぐと、顔に刻まれた深い傷跡が露わになった。彼は私に歩み寄り、独特な印を結ぶように両手を動かし始める。

「何をするつもりだッ!」

私は数歩後退した。

彼の手が赤黒い光を放ち始める。合図もなく、ナギンは私に「ヒーリング・タッチ」を放った。だが、それは通常の治癒魔法とは程遠く、まるで猛烈な連続攻撃を叩き込まれているかのような感覚だった。その動きはあまりに速く、回避する暇さえ与えられなかった。

術が終わると同時に、私は後ろへ飛び退き、独特な模様の刻まれた短剣を彼に向かって投げつけた。しかし、彼はそれを事もなげに素手で受け止めた。

「礼儀知らずだな。感謝されてもいいはずだぞ」

「私はお前の弟なんかじゃない! 今、何をした!?」

額の刻印が脈打ち始める。感情が高ぶり、イマジネーションが暴走しようとしていた。

時限式の爆弾か、あるいは呪いの類を植え付けられたのだと思った。だが、違った。体に残っていた不快な重圧が消え、信じられないほど体が軽くなっていることに気づいた。

「お前に植え付けられていた闇のエネルギーを追い出しただけだ。お前がラグレスと呼ぶ男が、闇の次元でお前を『処刑』した際に仕込んだものだ」

「お前が執行されそうになった時、俺の意識の中で何かが反応した。……記憶のようなものだ。それが、お前と俺の弟には何らかの繋がりがある、あるいは、お前自身が弟なのではないかという考えに至らせた」

「……簡単に信じるとでも?」

私は二振りの双剣を具現化させた。

「勝手にしろ。だが俺は決めた。答えが出るまで、常にお前を監視させてもらう」

ナギンはそう言い残し、再びバルコニーへと歩き出した。

「私が去った後、何が起きた? なぜリン王子は私を助けたんだ? 何か知っているのか?」

私は情報を引き出そうと食い下がった。

「あの王子がなぜあんな真似をしたのかは分からん。だが、おかげでラグレスは激怒し、内部抗争が始まった。……俺は、お前がこの次元に送り返される直前に、その転移の余波に飛び込んだ。だから、あいつらの安否までは知らねえよ」

ナギンは静かに、アラムの街並みを見下ろした。

「……事態は複雑になる一方だな」

その時だった。

隣の部屋から、ルラの激しい悲鳴が響き渡った。隣はルンとルラが眠っている部屋だ。私は息を切らして部屋を飛び出した。背後にはナギンがぴったりとついてくる。

「なぜ付いてくる、この野郎ッ!」

扉に手をかけながら私は毒突いた。

「言ったはずだ。監視すると」

ナギンは平然と答える。

再び悲鳴。私は勢いよく扉を蹴開け、そして最悪の光景を目の当たりにした。

ルンが意識を失ったまま宙に浮いている。その体には、どこからともなく伸びた不気味な「黒い手」や「闇の鎖」が絡みつき、部屋中をめちゃくちゃに破壊しながら彼女を締め上げていた。それはまるで、生贄を捧げるための儀式のようだった。

今夜、すべてが崩壊していく。

これは、誰にも想像できなかった最悪のシナリオの幕開けだった。

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