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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
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自然 30

謁見の間は一瞬、静寂に包まれた。リアナ女王が一度手を叩くと、広間の床を突き破って植物が芽吹き、味気なかった空間は瞬く間に四隅を飾る巨大で美しい木々に彩られた。

リアナ女王が指を鳴らすと、木々の成長が止まる。

「――転移!」

再び指を鳴らした刹那、私たちの視界から謁見の間が消え失せた。足元の床は鏡のように輝き、四隅の木々は黄金の光を放っている。そこは、雲の上だった。

「ここは……一体?」驚きを隠せずに私が尋ねる。

「『アルト・ナチュレ(自然の祭壇)』よ」とリアナ女王が答えた。

ソラは小さく笑い、「道理で、懐かしい感覚だと思ったぜ」と呟く。

「何のためにここへ? それに、どうやってこれほどの短時間で移動を?」アルヴィナが周囲に漂う綿毛のような美しい霞を見渡しながら尋ねた。

「魔法と技術が融合しているのよ。高速転移も不思議ではないわ」

ルンは、あちこち走り回ろうとするルラの手をしっかり握りながら答えた。

「また、昔話があるのか?」私の問いに、リアナ女王は静かに首を振った。

「ここは祭壇であると同時に、クラン・アラムの勇敢なる戦士たちの墓所でもあるの。……でも」

彼女が祭壇の中央に手をかざし、重い何かを引き上げるように拳を握りしめた。

祭壇が激しく揺れる。「地震? お姉ちゃん、ルラ怖いよぉ」ルラがルンにしがみつく。

すると、四本の樹の傍らに、人間ほどの大きさの透明なカプセルが次々と出現した。中にはただ煙のようなものが充満している。

「少し奇妙に見えるかもしれないけれど、これが彼らの眠る場所よ。功績のあった英雄たちだけがここに安置されるの」

女王が再び指を鳴らすと、カプセル内の霧が晴れ、中に横たわる人々の姿が露わになった。

「なぜ……みんなこんなに綺麗なままなんだ? 骨や灰になっているはずじゃ……」

私は、まるで蝋人形のように生々しく、平穏な表情で眠る戦士たちを凝視した。

「これはクラン・アラムが英雄たちに捧げる最後の敬意。自然の力で、遺体だけでなく彼らの『記憶』をも保存しているのです。その顔の皺一つ、体にある傷一つひとつが、決して忘れてはならない物語なのですから」

ソラがあるカプセルに近づいた。そこには折れた弓を抱いた、長い髪の女性騎士が眠っていた。「……ライラ指揮官だ」ソラが囁く。「百年前のミスト・クランによる侵攻で戦死した。……若き日のセレスティア様を鍛えた御仁だ」

静まり返る祭壇の中で、リアナ女王はある一つのカプセルの前で足を止めた。そこには遺体はなく、ただ黒い霧がゆっくりと渦巻いている。

「そして、これが……唯一遺体を残さなかった戦士。名は、シルク」

私たちは息を呑んだ。

「シルクは本来、このクランの者ではありません」と女王は続けた。「彼女は『ミスト・クラン(霧のクラン)』の出身でした。しかし彼女は同胞を捨て、こちら側を選んだ。この祭壇に眠る、ある指揮官を愛してしまったから」

女王は隣のカプセルを指差した。そこには、半分に割れたハート型のペンダントを握りしめた男が眠っていた。

「二十年前、彼女はミスト・クランの侵攻から、若き日のセレスティア様を含む多くの命を救いました。しかし負った傷は深く……死の間際、彼女は最後の願いを口にしたのです。自分を愛してくれたこのクランと、あの人を守り続けるための『想い』として、北の森に留まりたいと。セレスティア様はその願いを叶えました。肉体は霧の国へ帰りましたが、彼女の意志は今も森を守り続けている。だからこそ、あなたたちは彼女に出会えたのです」

「じゃあ……私たちが出会ったシルクは、ただの記憶だったの?」ルンが尋ねる。

「単なる記憶ではありません。死を超越するほどに強固な、愛と決意の具現。彼女は二十年もの間、生きることもできず、ただ癒やしを必要とする者を待ち続けていたのです」

リアナ女王の瞳に涙が浮かぶ。「あなたたちを、ずっと待っていたのですよ」

女王が手を挙げると、黒い霧のカプセルから一つの小さな黒いクリスタルの破片が飛び出し、ルンの前で止まった。

「ルン、あなたの首飾りを。……それはまだ不完全なはずよ。かつて滅びたと思われていた『ルナ・クラン(月のクラン)』、その生き残りの一人がミスト・クランにいたという証拠。そしてシルクが、同じルナ・クランの者として見つけ出した希望の欠片です」

ルンが首飾りにその欠片を触れさせた瞬間、銀色と漆黒が混ざり合い、月のない夜の星々のような輝きが弾けた。ルンの瞳には知恵の光が宿り、彼女は静かに微笑んだ。

「……わかるわ。シルクが託したかったこと。ミスト・クランの弱点、入り口、そして……あそこで何が起きているのかを」

そこへ、ジェットパックを背負ったベニーがひょっこりと現れた。「おい、俺、なんか乗り遅れたか?」

「うわっ! なんでここにいるんだよ!」私が飛び上がるほど驚くと、ベニーは鼻を鳴らした。「俺を誰だと思ってる。スーパーノヴァ・クランにとって、この程度の転移システムのハッキングなんて算数の宿題レベルだぜ」

「スーパーノヴァ……絶滅したはずのクランの生き残りが、なぜこれほど?」リアナ女王も驚きを隠せない。

「話は後だ。今は……あそこに眠る、セレスティアの姉妹の指輪について話すべきだろ。アリオン――『装甲と大兵器ゾウコウとダイヘイキ』の指輪がミスト・クランにある」とソラが告げた。

「……それだけじゃないわ」ルンが静かに付け加えた。「シルクの記憶の中で、何度も繰り返される不吉な名前がある。『マスター・オブ・ハグ』……冷酷非道な暗殺者」

リアナ女王は深く息を吐いた。「理解したようですね。あなたたちの旅はここからが本番。ミスト・クランが、暗闇の中であなたたちを待っています」

黄金の光が私たちを包み込み、気づけば再び王座の間へと戻っていた。

ベニーは首を振りながら「ちょっと席を外しただけで、とんでもない新クエストかよ。くそったれ」と毒づき、アルヴィナがその頭を小突く。

ルンは眠たげなルラを抱きかかえ、決意に満ちた瞳で前を見据えていた。

私たちは皆、心に重い楔を打ち込まれたようだった。ミスト・クランに隠された真実、マスター・オブ・ハグの影、そしてタムズとラグレスを止めるための手掛かり。

「……明日、出発しよう。今夜は休むんだ」

私は自分に言い聞かせた。

次は、影そのものの中へと足を踏み入れることになるのだから。

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