自然 29
「亡くなっている……? 嘘よ、私たちは確かに彼に手当てを受けて、このピンを託されたのよ!」
ルンの声が、修復されたばかりの美しい謁見の間に響き渡った。
リアナ女王は、預かったピンを愛おしそうに見つめ、静かに首を振った。
「シルクは、かつてこのクランで最も優秀な薬師であり、私の親友でした。ですが二十年前、彼は研究中の事故で命を落とした。それはこの私が見届けた真実なのです」
私たちは顔を見合わせた。ならば、あの日北の森で出会った、あの物静かな少年は何だったというのか。
「……北の森。そこはクラン・アラムの中でも最も『想い』が残留しやすい場所。おそらく、彼は未練があったのでしょう。このクランの危機を救える者に、希望を託すという未練が。彼にとって、あなたたちは二十年待ち続けた『答え』だったのですよ」
女王の言葉に、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。死してなお、この地を守ろうとした魂。その想いが、私たちをここまで導いてくれたのだ。
「そして……」リアナは表情を険しくし、玉座の背後にある巨大な地図の、さらに外側を指差した。「彼があなたたちにそのピンを託し、ここに導いた理由。それは次の目的地が――**『霧のクラン(ミスト・クラン)』**だからでしょう」
「霧のクラン……? ソラが言っていた、全クランへの扉を持つという場所か?」
私が尋ねると、ソラが腕を組んで頷いた。
「ああ。だが、あの場所は特殊だ。常に深い霧に包まれ、物理的な距離という概念が存在しない。他のクランから隔離された『境界の地』とも呼ばれている」
「あそこなら、あんたたちが探している残りの三つの指輪……『元素』『装甲と大兵器』、そして『タイタン』の行方も掴めるはずだ。あそこの住人たちは、全パラレルワールドの情報を売買しているような奴らだからな」
その時、大扉が勢いよく開き、不敵な笑みを浮かべたベニーが戻ってきた。彼の背中には、クラン・アラムの技術と自らの知識を融合させた、見たこともない奇妙な飛行ユニットが背負われていた。
「おい、話は終わったか? 外の連中から面白いパーツをいくつか融通してもらったぜ。これで霧の中でもはぐれずに済む『探知機』が作れる」
「ベニー……本当にあんた、切り替えが早いわね」
アルヴィナが呆れ果てたように吐息をつくが、その瞳にはわずかに希望の光が戻っていた。悲しみは消えない。けれど、立ち止まるわけにはいかないのだ。
リアナ女王が再び口を開いた。
「霧のクランへ向かうには、このクランの最深部にある『古の祭壇』から、シルクが残したそのピンを媒介にポータルを開く必要があります。それが彼の、最後の役目だったのでしょう」
私たちは女王に深く一礼した。
クラン・アラムは、今やかつての輝きを取り戻そうとしている。空を舞う飛行艇、咲き誇る花々、そして自由を得た人々。その光景を、私たちはタムズに汚させるわけにはいかない。
「リアナ様、ありがとうございました。僕たちは行きます」
私は、指にあるイマジネーションの指輪を強く握りしめた。
「次は……霧の向こう側だ」




