自然 26
古の森の夜明けは、希望ではなく絶望の産声と共に訪れた。
錆びついた風が死んだ木の葉を鳴らし、森の奥底から不気味な地鳴りが響く。
「……今日、すべてを終わらせる」
ソラの言葉は、覚悟という名の重圧を孕んでいた。
私たちは、黒い getah(樹液)の跡を追い、森の最深部――『終焉の広場』へと辿り着いた。そこで目にしたのは, あまりにも残酷な光景だった。
黒く朽ち果てた世界樹。その前で、ベニーとアルヴィナが黒い寄生筋に縛られ、生気を吸い取られる人形のように動かされていた。
「――放せッ!!」
私の叫びが静寂を切り裂く。
ルドが振り向いた。その醜悪な顔に、勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「遅かったな、イマジネーションの継承者。古の闇を紐解く準備は整った。この二人から吸い上げた純粋なエネルギーと、この樹に閉じ込めたセレスティアの残滓があれば……封印は解ける!」
その時だった。
朽ち果てた世界樹の裂け目から、眩いばかりの翡翠色の光が溢れ出した。
中から転れ落ちたのは、髪も肌も生気を失いながらも、その瞳に不屈の意志を宿した女性――セレスティア。
「セレスティア様!!」
ソラが叫び、駆け寄ろうとする。
「……ルド……これ以上は、させないわ」
弱々しくも、王者の威厳を失わぬ声。彼女は、自らを犠牲にして内側から封印を遅らせていたのだ。彼女の視線が私、そしてアルヴィナへと向けられる。
「イマジネーションの継承者よ……貴方は、私の長兄を思い出させる。その血は、嘘をつかないわね」
彼女の言葉の意味を咀嚼する暇はなかった。
ルドが逆上し、寄生虫を活性化させる。ベニーとアルヴィナが苦痛に顔を歪めたその瞬間、セレスティアが慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「――浄化の光よ、彼らを解き放てッ!」
彼女の命そのものを燃やすような緑の閃光が広場を埋め尽くした。
ベニーとアルヴィナの体を蝕んでいた黒い筋が、悲鳴を上げるように蒸発していく。自由を取り戻し、崩れ落ちる二人。私はすぐさま駆け寄り、二人を抱き寄せた。
「カエリン……ごめん、なさい……」
震える声で謝るアルヴィナ。その彼女に向かって、セレスティアは衝撃の事実を告げた。
「……私の血を受け継ぐ者。……私の孫娘よ」
「……え?」
アルヴィナの瞳が驚愕に揺れる。セレスティアから放たれた『追憶の蛍』が彼女を包み込み、封印されていた記憶が奔流となって流れ込む。
自分を逃がすために戦った両親。赤子の自分を抱きしめた、温かな緑の髪の女性。
「……おばあちゃん……なの?」
「ええ。……これが、本当に最後のご挨拶になりそうだけど」
その感動を、無慈悲な衝撃音が打ち砕いた。
ルドが、全エネルギーを込めた闇の槌を、セレスティアではなく『封印の紋章』へと叩きつけたのだ。
「――くたばれ、感動の再会ごっこがッ!!」
パリィィィィィンッ!!!
空間そのものが割れるような轟音。
古の森の心臓部が激しく脈動し、地面からどす黒い霧が噴き出した。
数千年の眠りから覚めた「太古の闇」が、飢えた獣のように咆哮を上げる。
「封印が……割れた……」
ルンが絶望に声を震わせる。
セレスティアは、闇の淵を見つめ、そして静かに私たちを振り返った。
その表情には、迷いはなかった。
「……ソラ。そしてアルヴィナ。……あの子(闇)を再び封じ込めるには、新たな『鍵』が必要なの」
物語は、残酷な二択を私たちに突きつけていた。




