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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
49/55

自然 25

湿った土の匂いと、終わりなき暗闇。

秘密の回廊は、時折聞こえる水滴の音だけが私たちの鼓動を代弁していた。

「……狭い場所は苦手だぜ」

先頭を行くソラが、肩をすくめてぼやいた。「自然の化身としては、もっと開放的で酸素の濃い場所の方が性に合っている」

「ルドに捕まるよりはマシでしょ。ほら、足元に気をつけて」

ルンがルラの小さな手を握り締め、私たちはようやく出口へと辿り着いた。

そこは、世界の終わりであり、始まりでもあった。

巨大な滝の背後から外へ出た瞬間、視界を埋め尽くしたのは黄金の霧に包まれた広大な峡谷。そしてその向こうに、この世のものとは思えぬ色彩を纏った「古の森」が鎮座していた。

銀、金、そして深い紫。

木々は天を衝くほどに巨大で、その葉一枚一枚が古い魔力を帯びて呼吸している。

「……古の森」ソラが畏敬の念を込めて呟いた。「すべての生命の源。そして、我々の戦士たちが眠る聖域だ」

私たちは断崖を降り、夕刻には谷底の清流に辿り着いた。

夜の帳が降りる頃、ソラが不意に背筋を伸ばした。「……来るぞ」

身構える私たちの前に現れたのは、木と葉で構成された小さな獣たちだった。彼らはソラの手に鼻を寄せ、甘えるように喉を鳴らす。「精霊の使いか。……歓迎されているようだな」

彼らが置いていった光る果実の甘い香りが、死闘を忘れた束の間の安らぎを与えてくれた。

翌朝、森へ足を踏み入れた瞬間、空気の「重さ」が変わった。

物理的な重圧ではない。何千年も積み重なった記憶と魔力が、肌を直接刺してくるのだ。

「いいか、赤い光を放つ植物には触れるな。記憶を奪われ、一時間は自分が誰かも分からなくなるぞ」

ソラの警告を受け、ルンはルラをさらに引き寄せた。

森は意志を持っていた。

太陽は天頂に固定されたまま動かず、私たちが歩くたびに木々が位置を変え、道が生き物のように組み替えられていく。

「……森が僕たちを試している」

私は、木の隙間に一瞬だけ見えた「幻影」に目を見開いた。若き日のセレスティア姫、そして激しく言い争う大王とアードの姿。

「見えたか。……ここは感情の墓場でもある。偽りのフィクションに心を奪われれば、最後は魔物の餌食だ」

ささやき声が、脳内に直接流れ込んでくる。

『戻れ……』

『封印を解け……』

ソラは我らのものだ……』

「……っ、黙れッ!」ソラが頭を抱えて呻いた。「奴ら、俺が封印の鍵であることを知っている……!」

恐怖に震えるルラを抱き上げ、私は一歩を踏み出した。

だが、道は二つに分かたれた。温かな緑の光の道と、腐臭漂う闇の道。

「緑だ。セレスティア様の気配がする!」

ソラの言葉に従い進んだが、突如として白い霧が立ち込め、私たちは引き裂かれた。

「ルン! ソラ! ルラッ!!」

声は届かない。霧の中で、私は見覚えのある後ろ姿を見つけた。

「……父さん? 母さん……?」

かつて失ったはずの、優しい微笑みを湛えた両親がそこに立っていた。「カエリン、こちらへ来なさい」

足が、勝手に動く。

会いたかった。抱きしめたかった。その衝動が理性を焼き切ろうとした瞬間、私の指輪と額の刻印が、痛みと共に爆発的な熱を発した。

「――っ、違う!!」

私は自分の頬を強く叩き、想像の力で「真実を照らす風」を創り出した。

旋風が霧を払い、両親の姿は霧散した。

視界の先では、ルンとルラが動く根に絡め取られ、ソラが「自分自身の影」と剣を交えていた。

「これは、森が僕たちの弱さを利用しているだけだ!!」

私は叫び、黄金と白銀の光を解き放った。風が森を浄化し、幻影を完全に打ち砕く。

「……助かったよ。危うく、自分という存在を見失うところだった」

再合流したソラの顔は、かつてないほど疲弊していた。

「明日は、中心部に辿り着くわね」

ルンがルラを抱き寄せ、私たちは焚き火も焚かぬ暗闇の中で円陣を組んだ。

耳を澄ませば、森の奥深くで何かが脈動している。

それはルドの哄笑か、それとも親友たちの悲鳴か。

決戦の夜は、あまりにも静かに、そして残酷に更けていった。

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