表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
48/55

自然 24

「……どうして図書館なの、お兄ちゃん?」

ルラの無垢な問いが、静まり返った書庫に響く。

「古の森へ挑むには、気合だけじゃ足りないんだ。地図、魔物の習性……そして、奴らの弱点。ここにはそのすべてが眠っているはずだ」

王宮図書館。そこは知の墓場であり、同時に再誕を待つ記憶の宝庫だった。天井まで届く巨大な棚には、木の皮で編まれた巻物や、古の巨獣の革で装丁された魔導書が整然と並んでいる。

「……背筋が凍るぜ」ソラが、埃の舞う空間を見渡して呟いた。「ここには、思い出が詰まりすぎていてな」

「指輪だった頃、よく連れてこられたのか?」ルンが尋ねる。

「ああ。セレスティア様は読書家でね。あそこの窓辺で、俺を首から下げたまま陽だまりの中で本を読んでいたっけ……」

ソラが指差した先には、主を失い、今はただ埃を被った椅子が一つ、寂しげに佇んでいた。

私は壁に並ぶ魔法燈を順に灯していった。黄金色の柔らかな光が闇を押し流し、天井に描かれた古の星図と、柱に刻まれた精霊たちのレリーフを浮かび上がらせる。

「探しものは何?」ルンが実務的なトーンで切り出した。

「古の森の詳細な地図。それから、ルドの寄生虫パラサイトを浄化する方法だ」

私たちは手分けして調査を開始した。

ソラは「地理・聖域」の棚へ。ルンとルラは「太古の動植物」のセクション。そして私は「歴史・儀式」の棚に向かった。

開いた巻物には、かつてこのクランを救った「生命の樹」の葉を用いた治癒の儀式が記されていたが、肝心の樹は数百年前に失われたとある。

「……あったぞ! 全員こっちだ!」

ソラの鋭い声に呼び寄せられ、私たちは中央の大きなテーブルに集まった。

広げられた地図には、クランの心臓部である『最初の樹の心核コア』が記されている。しかし、その周囲は禍々しい赤色のインクで塗り潰され、見たこともない古語で警告が記されていた。

『禁忌の地――太古の闇の封印。決して紐解くべからず』

「太古の闇……?」ルンが声を震わせる。

「ルドがそこを選んだのは偶然じゃない」ソラが険しい表情で地図を指でなぞった。「奴は、この封印を解こうとしているんだ。もし成功すれば、ルドのやまいなんて可愛いものに思えるほどの災厄が解き放たれるぜ」

その時、ルラが下の棚から一本の巻物を引き抜いてきた。

「お兄ちゃん、これ……病気の人の絵が描いてあるよ」

そこには、体に黒い筋が浮き出た人々の図解――ルドの犠牲者と同じ姿が描かれていた。そしてその下には、冷酷な真実が記されていた。

『闇の寄生――これを浄化するは、樹の心核の純粋なる光、あるいは……同等の力の自己犠牲のみなり』

「自己犠牲……」

私の喉が詰まる。同等の力とは、すなわち自然の意志そのもの。

「……ソラ。それって、お前のことか?」ルンが問いかける。

「あるいは、セレスティア様……」ソラの声は重く、静かだった。

誰かを救うための旅が、誰かを失うための旅に変わろうとしていた。

重苦しい沈黙が場を支配する。それを破ったのは、ルラの小さな声だった。

「……それでも、行かなきゃダメかな?」

私たちは互いの顔を見合わせた。

そして、迷いなく頷いた。

「行くよ。ベニーとアルヴィナ、そしてセレスティア様を救う。最悪の結末を書き換えるために、僕たちはここに来たんだ」

必要な情報をまとめ、私たちは書庫を後にしようとした。その時、ソラが一枚の巨大な壁画の前で足を止めた。

そこには、緑の髪を持つ美しい女性が種を植え、その周りを六つの光り輝く影が囲んでいる姿が描かれていた。そのうちの一つの影が、私の指にあるものと酷似した「指輪」を掲げている。

「セレスティア様と、彼女の兄弟姉妹……最初の六人の指輪の継承者だ」ソラがささやく。「彼女は六つの指輪の力を結集させ、この世界に生命の種を植えた。……カエリン。お前が持つ『イマジネーション』は、このクランが生まれたその時から、希望として数えられていたんだ」

図書館を後にする私たちの背中には、知識という名の重圧と、それを上回る確固たる意志が宿っていた。

行き先は決まった。

封印が解かれる前に、古の森の深淵へ。

「さあ、行こう。……僕たちの物語のクライマックスへ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ