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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
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自然 20

偽りのドーム内に満ちる大気が、ルドの存在に共鳴するように低く唸りを上げた。頭上の灰色の霧は、巨大な渦を巻いて私たちの退路を断ち、逃げ場のない処刑場を作り出していく。私の胸を突き刺すような重圧は、もはや警告の域を超え、生存本能を激しく揺さぶっていた。

ソラが、一歩前へ踏み出した。

その足取りに迷いはない。彼は腕のブレスレットを起動し、眩い光を放つレーザーブレードと、長距離狙撃用の魔導銃を同時に顕現させた。

「ルド……」ソラの声は、氷点下まで凍りついたかのように冷たい。「貴様が、この自然系氏族ネイチャー・クランに数多の混沌をもたらした元凶の一人か」

「ソラ……!」

私が制止しようとしたが、彼は振り返ることなく言葉を遮った。

「よせ、カエリン。お前の身体は限界だ。それに……分かっているはずだ。今のお前が怒りに任せて戦えば、再びあの『狂気』に飲み込まれる。そうなれば、今の俺にはもうお前を止められねえ」

私は言葉を失った。握りしめた拳が、悔しさで震える。

ルンもまた、私の隣へと進み出た。彼女は大切そうに抱えていたバッグを一度強く握り、それから静かに決意を固める。

「ソラに任せなさい。彼は森の守護者よ。誰にも譲れない、奴との『因縁』がある。……部外者の私たちが口を挟むべきじゃないわ」

ルドが岩を擦り合わせるような不気味な笑い声を上げた。「賢明な判断だ。守護者が将軍と相まみえ、その一方で人間どもは――」

ルドの赤い瞳が、私とルンを冷酷に射抜く。

「――『残飯』の後始末に追われるがいい」

地面が、再び激しく震動した。

ひび割れた床から、霧を裂いて「それら」が這い出してきた。

人間だ。

王国の騎士、無垢な市民、見覚えのある服を着た者たち。だが、その瞳に生気はなく、虚ろな眼窩がこちらを向いている。首筋や腕の皮膚の下を、黒い血管のような「寄生虫パラサイト」が脈動しながら這い回っていた。

「……助け……て……」

一人の騎士が、掠れた声で呻いた。それは魂が擦り切れるような、絶望の叫びだった。

「カエリン……」ルンが震える声で囁く。「彼らはまだ生きているわ。殺しちゃダメ、絶対に」

「……分かっている」

私は乾いた喉を鳴らし、重い腕を上げた。

ソラが一度だけ、私に鋭い視線を向けた。その瞳に宿るのは、一人の戦士としての真剣な熱。

「……カエリン、すまねえ。こいつだけは、俺の手で引導を渡さなきゃならねえんだ」

ルラがルンの服を強く握りしめた。「ソラお兄ちゃん……気をつけて……」

ソラは一瞬、見たこともないような穏やかな微笑を浮かべた。「……お前の兄貴を、しっかり守ってやれよ」

刹那、ソラは閃光となってルドへと肉薄した。

ドォォォォォン!!!

最初の一撃が激突した瞬間、ドーム全体が悲鳴を上げた。衝撃波が私を襲い、踏ん張らなければ吹き飛ばされそうになる。遠くで緑の閃光と漆黒の闇が激しく火花を散らし、空間そのものが削り取られていく。

だが、私にはそれを傍観する余裕などなかった。

寄生された人間たちが、異様な速度でこちらへ殺到し始めたのだ。

「――来るぞ」

私は低く構え、鉄の盾を出現させた。

ルンが深く息を吸い込む。「私が後ろからサポートするわ。ルラ、離れないで!」

最初の「犠牲者」が私に飛びかかってきた。私は反射的に盾でそれを受け止めたが、衝撃で腕が痺れる。筋力が増幅されている――寄生虫が彼らの生命力を無理やり引き出しているのだ。

「……済まない」

私は攻撃を最小限に留め、関節を外すようにして彼を地面に押さえつけた。ルンが素早く動き、小瓶に入った特殊な薬液を彼に浴びせる。黒い脈動が苦しげに震えた。

「――効いてるのか!?」

「まだよ! 弱体化させるのが精一杯。解除するには時間がかかるわ!」

「時間、か……」

私は苦渋に満ちた声を漏らした。さらに二人が左右から襲いかかる。私は空中跳躍の足場を作り、彼らの頭上を舞う。殴ることも、斬ることもできない。自分を縛り付ける制約が、精神をじわじわと摩耗させていく。

(壊してしまえ。消し去ってしまえば、こんな痛みは感じなくて済むぞ……)

脳裏に響く、甘い誘惑。胸の奥の「何か」が、解放を求めて暴れ始める。

――ダメだ。

――僕は、もう二度と「怪物」にはならない。

遠くで、さらに大きな爆発音が響いた。ソラがルドの猛攻に押され、壁へと叩きつけられる。しかし、彼は血を吐き捨てながらも、狂気すら孕んだ笑みを浮かべて立ち上がった。

「守護者よ、その執念は見事だが……あまりに無謀だ」

ルドが冷酷に告げる。

「……無謀だと? 貴様らのような化け物には、人間の『意地』ってやつは一生理解できねえよ」

私は奥歯を噛み締めた。

「ルン! 彼らを一箇所に誘導してくれ! 包囲されるな!」

ルンが頷き、ルラを守りながら戦場を駆け回る。私はその隙間を埋めるように、攻撃を「盾」で逸らし、致命傷を避けながら無力化していく。

しかし、一分経つごとに、頭部の『刻印』が熱を帯びていく。

ルドが戦いの中で私を嘲笑った。「感じているだろう、カエリン。抗えば抗うほど、貴様自身の心が壊れていくのをな」

私は答えない。ただ、重くなった盾を再び掲げた。

「……救うんだ」

私は自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「ただ勝つだけじゃない……全員を救って、門をこじ開ける」

傷だらけの拳を握り直し、私は寄生された軍勢の中へと、慈悲と決意を胸に再び飛び込んだ。

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