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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
39/52

自然15

読む前に、この物語に対してポイントや批判、提案を与えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

私は持てる魔力のすべてを振り絞り、歯車へと変貌した盾を高速回転させた。

「喰らえッ!!」

咆哮とともに放たれた斬撃盾。しかし、魔蠍の王は嘲笑うかのようにその身を翻し、一瞬で攻撃を回避した。

「そんな子供騙しが、私に通じると思ったか? 小僧」

魔蠍の王が地を蹴る。肉眼では捉えきれない神速。次の瞬間、私の体は巨大なハサミによって無慈悲に締め上げられていた。

「が……はっ……!?」

肺の中の空気が無理やり押し出され、骨がきしむ音が鼓膜に響く。治癒したばかりの体が、再び崩壊していく。

「し、しまっ……た……」

過信だ。自分の力を過信しすぎていた。

「カエリン!!」

ソラが助けに向かおうと、群がる巨蠍の群れを跳ね除けようとする。だが、無数の足が彼の進路を阻み、その足首を掴み取った。

「ここで果てるがいい、無力な人間よ!」

魔蠍の王の三つの尾が、獲物を仕留めるために鎌首をもたげる。

だが、死の寸前、私の指先が微かに動いた。

「――戻れ!」

精神の鎖で繋がれた盾が、磁石に吸い寄せられるように私の手元へと急加速で戻る。私はその慣性を利用し、盾の回転方向を強引に捻じ曲げ、迫り来る毒針へと叩きつけようとした。

――勝てる。そう確信した。

だが、現実は残酷だった。盾の回転は僅かにその軌道を外し、虚空を斬った。

一秒後、私は己の過ちを悟る。

蠍の毒針は、私の予測を遥かに上回る速さで動いていたのだ。

ドクン!!

毒針が、私の脇腹を深く抉った。

その痛みは……これまで味わったどんな苦痛とも比較にならなかった。

熱いのではない。鋭いのでもない。

それはドロリとした何かが体内を這い回り、内側から黒い炎で焼き尽くしていくような絶望感。

「あ、あああああああぁぁぁぁッ!!!」

声が枯れるほどの絶叫。筋肉が制御を失い、強張る。ハサミの拘束が解かれ、私の体は冷たい岩肌へと叩きつけられた。

呼吸ができない。

肺が空気を拒絶し、心臓が爆ぜるように鳴っている。

「ど、毒……これ……ただの、毒じゃ……ない……」

視界が混濁し、世界がゆっくりと、しかし確実に回転を止めていく。

遠くで、誰かの叫び声が聞こえた。

「カエリン!! お前、死ぬなよ!! まだ説教が終わってねえんだぞ!!」

ソラの声だ。彼はまだ戦っている。二体の巨蠍に挟まれ、肩に毒液を浴びながらも、決して剣を捨てようとはしない。

(……笑わせるなよ、ソラ。こんな時に……)

だが、笑う力すら残っていない。

指先の感覚が消え、体温が奪われていく。鼓動は不規則に乱れ、静寂が私を飲み込もうとしていた。

(ここで……終わるのか……?)

ルンの顔が、ルラの笑顔が浮かぶ。シルクの温もり、元の世界の友人たち、両親……。

そして、救うと決めたはずの並行世界。

嫌だ。こんなところで、一人で消えるなんて。

意識が完全な闇に沈もうとした、その時――。

頭部の『刻印』が、脈動を始めた。

光ではない。熱でもない。それは「生きた墨」が血管を逆流するような、漆黒の胎動。

世界樹の精霊が遺したその証が、私の命を繋ぎ止めるように激しく波打った。

――世界が、静止した。

戦いの喧騒が消え、苦痛が遠のく。

気づけば、私は「無」の空間に立っていた。壁も天井もない、無限の広がりを持つ黒の広間。

そこには、二つの影があった。

一人。ひび割れた冠を戴き、ボロボロの法衣を纏った王が、影を帯びた玉座に深く腰掛けている。

その鋭い眼光が私を射抜いた。

「……死ぬには、まだ早すぎる」

重厚な、威厳に満ちた声が空間を震わせる。

「貴様がここで倒れれば、貴様が背負いし『全て』が共に崩れ去る。それを許すと思うか?」

もう一人の王が傍らに現れた。

静謐で、どこか慈悲深い佇まい。だが、その瞳の奥には揺るぎない覚悟が宿っている。

「どのような過酷な運命であろうと、並行世界はまだ君を必要としているよ、カエリン」

(……なぜ、僕なんだ?)

思考だけで問いかける。

黒き王が歩み寄った。

「貴様が、闇の中でも足を止めぬ勇気を持っていたからだ」

静かなる王も歩みを共にする。

「希望なき地にあっても、君が諦めることを拒んだからだよ」

二つの手が、私の胸へと触れる――。

――ドクンッ!!!

意識が強制的に引き戻された。

肺に酸素が流れ込み、私は激しく咳き込んだ。全身を襲う激痛。だが、それは「生きている証」に他ならない。

『刻印』が一度激しく輝き、そして静かに鎮まった。

魔蠍の王が、驚愕に一歩後退する。

「……貴様、今……何をした……?」

私は震える足で、一歩ずつ立ち上がった。体内に毒は残っている。だが、今の私の瞳には、以前とは違う「意志」が宿っていた。

「さあね……。でも、どうやら僕は……まだ死ぬことを許されていないらしい」

盾を握り直す。

遠くで、ソラが目を見開いて叫んだ。「……どこにそんなロジックがあるんだよ! お前、マジでゾンビかよ!?」

「……ふん」ソラが不敵に口角を上げた。「全くだ、最高に強情な野郎だぜ」

魔蠍の王が、殺気を孕んで低く唸った。

「ならば、次は塵一つ残さず滅ぼしてくれるわ!」

私は全身の痛みを力へと変え、真っ向から怪物を見据えた。

「やってみろよ」

胸の奥で、何かが確かに変わった。

絶望の底で触れた二人の王の力。

この戦いは、まだ終わっていない。本当の勝負は、ここからだ。

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