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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
33/41

自然9

ゆっくりと、意識の底から這い上がった。

漆黒の怪物に叩きの伏せられ、死の淵を彷徨った直後――私は意識を失った。そして今、見知らぬ巨大なログハウスの中で目を覚ます。

「……ここは?」

体を起こそうとした瞬間、全身の神経が千切れるような激痛が走った。あの黒衣の男に、文字通り磨り潰された肉体が悲鳴を上げている。

「むやみに動かないで」

透き通るような女性の声が響いた。「それ以上動けば死ぬわよ。今はあなたの骨を修復している最中。動くたびに亀裂が広がって、最後には内臓を保護する骨組みすらなくなって、たった一撃で絶命することになるわ」

声の主が姿を現した。長く艶やかな黒髪、見慣れぬ意匠のロングドレスを纏った女性だ。その手には水と薬草が載った盆がある。

「貴女は……? それに、ここはどこなんだ」

掠れた声で問いかける。ふと視線を転じると、少し離れたベッドにあの男――ソラが横たわっていた。未だに意識はなく、深い眠りの中にいるようだ。

「死に損なったわね。運が味方したのよ、あなたたちには」

彼女は薬草を机に置きながら、穏やかに言った。「私の名前はシルク。一介の医術師ヒーラーよ。道端で転がっていたあなたたちを、ここまで運ばせていただいたわ」

「仲間と……妹はどこだ?」

包帯でぐるぐる巻きにされた喉から、絞り出すように問う。

「妹さんもお友達も無事よ。あの檻から降ろすのには、少し骨が折れたけれど」

シルクは温かみのある微笑みを浮かべた。その包容力のある佇まいは、誰からも慕われる聖母のような気配を纏っている。

その時、外から慌ただしい足音が聞こえ、木の扉が勢いよく開かれた。

「カエリン!」

懐かしい声。ルンが真っ先に飛び込んできた。肩を揺らし、乱れた髪もそのままに、安堵と不安が入り混じった瞳で私を見つめている。その腕の中では、ルラが彼女の首にしがみついていた。

「お兄ちゃん!」

ルラが飛び降りようとするのを、ルンが制する。

「ダメよ! お兄ちゃんはまだ動いちゃいけないの」

ルンは厳しく言い聞かせた後、私を睨みつけた。その瞳は微かに震えている。「……この、大馬鹿者! どれだけ心配したと思ってるの!? もし、もしものことがあったら……ルラがどうなるか考えなさいよ!」

今にも殴りかからんとする勢いだったが、私の惨状を見て、彼女は拳をそっと下ろした。

「……ああ、すまない。予想外だったんだ、何もかも」

ルラがようやく腕から降り、ベッドの傍らまで歩み寄る。小さな手が、壊れ物を触るかのように、私の包帯の端を握りしめた。

「お兄ちゃん、嘘つき……血がいっぱい出てたもん」

潤んだ瞳が私を射抜く。「もう、起きないかと思った……」

「……へーきだ」私は囁くように笑った。「ほら、ちゃんとここにいるだろ?」

「もう、どこにも行かないで」

その消え入りそうな声に、胸が締め付けられる。「約束だ」

シルクが扉の側で腕を組み、満足げに頷いた。「この家が、いつもより少し騒がしくなったわね。……まあ、快方の兆しとしては悪くないわ」

「ありがとう、シルク。貴女がいなかったら、この男は……」

ルンが感謝を述べようとすると、シルクはそれを優しく遮った。「いいのよ。これが私の役目だから」

沈黙が部屋を支配した。その時――。

「……んっ」

低く、掠れた呻き声。ソラだ。

彼の瞼が震え、ゆっくりと開かれる。焦点の定まらない瞳が、失われた記憶を繋ぎ合わせるように天井を仰いだ。

「……俺は、生きているのか?」

「残念ながら、そのようだな」

私が皮肉を返すと、ソラは苦痛に顔を歪めながらも、小さく笑った。「はは……お互い、無様だな」

彼の視線がルンとルラに留まる。その瞳から攻撃的な色は消え、どこか複雑な、硬い感情が混じっていた。

「……あいつらは、無事か」

「ああ。シルクのおかげでな」

「……デクスター……俺の相棒は……死んだ」

ソラの瞳に涙が滲む。復讐も矜持も、あの黒衣の男の前では無価値だったのだ。

「……悔やみきれん。何も知らぬ仲だが、心中お察しする」

森での死闘は、終わりではなかった。それは、より巨大な災厄の幕開けに過ぎないことを、私は予感していた。

「ところで、一つ聞いてもいいかしら? なぜあなたたちはこれほどボロボロなの? それに、その服……見たこともないデザインだけど、どこの流行トレンド?」

シルクが顎に手を当て、私とルンたちを交互に見つめた。

「戦っていたんです。そこへ、あの黒衣の男が現れて……」

ルンが説明する。ソラを忌々しげに見つめる視線には、まだトゲがあった。

「黒衣の男、ね……」シルクが眉をひそめる。

「ええ。信じられないほどの力で、そこの勘違い男と、私の仲間を蹂躙したわ」

シルクはルンの言葉を咀嚼するように、沈黙を守った。

そして、部屋の空気が一変するような、鋭い問いを投げかけた。

「最後にもう一つ……あなたのそのお友達。彼は『想像力』の使い手であり――『イマジネーション・リング』の継承者、ということで間違いないかしら?」

その言葉が放たれた瞬間、部屋の時が止まった。

心臓が、鐘を叩くように激しく脈打つ。

(なぜ、その名を――?)

冷や汗が背中を伝う。平穏は、まだ遠い先にしかなかった。

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