自然 2
そよ風が前髪を優しく撫でる。
目の前に広がる光景は、思わず口を開けたまま見惚れてしまうほど、美しかった。
「ベン! ヴィナ! 早く、これを見てくれ!」
……返事がない。
俺は背後を振り返った。
嫌な予感は的中した。
二人の親友の姿が、どこにもなかった。
「ベニー! アルヴィナ! ふざけるなよ! 全然笑えないぞ!」
背後に広がる深い森に向かって叫ぶ。
「……本当に、いないわね」
ルンが静かに言った。
「どういう意味だ?」
「ポータルに入る時は闇しか見えないけど、不安定なポータルだった場合、目的地よりも遠くに飛ばされることがあるの」
俺は意味もなく頭を掻いた。
妹はルンをじっと見つめ、興味津々といった様子で、その美しさに見惚れている。
「そんなはずないだろ。ポータルって、正確なんじゃないのか?」
「本当にバカね」
ルンは肩をすくめる。
「これは魔法じゃないの。コードで制御されている装置よ。
それに、並行世界には、もっと常識外れなことがいくらでもあるわ」
妹がルンの服を引っ張った。
ルンが視線を落とすと、妹は両手を上に伸ばす。
短い仕草。
「……テン?」(抱っこ?)
ルンが尋ねると、妹はこくりと頷いた。
「え、俺が言ってること、分かってるのか……?」
「さあな。ただの聞き間違いかもしれない」
俺は首を傾げる。
「でも、妹は普段、他人にあんなことしないんだ」
妹は必死に、可愛すぎる上目遣いを向けていた。
「そんな顔されたら、断れないじゃない!」
ルンは苦笑しながら、妹を抱き上げた。
妹は楽しそうに笑う。
「……で、俺は君を信用していいのか?」
俺は真剣な声で尋ねた。
「どういう意味?」
ルンは妹をあやしながら答える。
「君はまだ、ルグレスの配下で、タムズの仲間だと思われてる。
指輪を狙って、いずれ俺を殺す可能性だってある。
だったら、今のうちに別れた方がいいんじゃないか?」
俺は大きな岩に腰を下ろし、続けた。
「……君の気が変わる前にさ」
ルンの表情が曇る。
「……正直に言うわ。
タムズについて行ったのは、私の意思じゃない。
理由は話せないけど……今の私は、もう帰る場所すらないの」
その言葉に、俺はしばらく黙り込んだ。
目の前の美しい景色を見つめる。
風が再び吹き、心を静かにしてくれる。
脳裏に浮かぶのは、過去の記憶——
そして、両親がフッド……いや、タムズに殺された、あの暗い光景。
「……帰る場所、か」
俺は深く息を吐いた。
「じゃあさ、一緒に旅をしないか。
君がいつ俺を殺すかは……その時に考えればいい。
今日から、俺たちは仲間だ」
俺は手を差し出した。
その瞬間、気づかぬうちに、ルンの瞳がわずかに輝いた。
「……いいわ」
柔らかな笑みが浮かぶ。
妹を抱いたまま、ルンは俺の手を握った。
「まずは、二人を探そう」
俺は立ち上がる。
「この大陸を全部歩くことになるかもしれないけど、必ず再会する」
森を指差す。
「まずは、あの森だ。
今は食料と水の確保が最優先だ」
「ふーん。
てっきり、無謀なだけのバカな少年かと思ってたけど?」
ルンがからかう。
「うるさい! 俺のこと、まだ何も知らないくせに! コメント禁止!」
少しムッとする俺。
「怒ったわね」
ルンは妹と一緒に笑う。
「ほら、怒ってるお兄ちゃんだって」
二人の笑い声が重なる。
「ルーラまで真似するな」
俺はため息をついた。
こうして俺たちは、巨大な木々が立ち並ぶ森へと足を踏み入れた。
見上げるほどの高さで、俺が知る木の二倍、三倍はある。
——そして、俺たちの知らない森の奥で。
誰かが、俺たちを待っていた。
「さすがだな、オッキー。情報は正確だった」
白く波打つ髪の謎の人物が、小さく笑う。
その隣で、猿のような相棒が楽しそうに跳ね回った。
「少し……教育してやる




