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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
25/39

自然1

闇。

周囲に見えるのは、果てしない虚無だけだった。

俺は一人きりで宙に浮かび、あてもなく漂っている。

「ここは……どこだ? 一体、どういうことなんだ……?」

暗闇を見渡しながら、俺は小さく呟いた。

『こんにちは、想像の指輪の最後の継承者よ』

柔らかく、温もりのある謎の声が耳元に響いた。

「誰だ!?」

困惑した表情で叫び、俺は左右を見回す。だが、そこには誰の姿もない。

その時、俺の指輪が輝き始めた。

白い光に、わずかに青が混じる。

ピィン——!

指輪が虚空へ向かって何かを放ち、それは花火のように弾けた。

その瞬間、ひとりの女性の姿が現れた。

息をのむほど美しい女性だった。

圧倒的でありながら、心を落ち着かせる不思議なオーラを纏い、金の模様が施された純白の衣を身にまとい、優雅に歩み寄ってくる。

「私は、古代樹エンシェント・ツリーの守護霊よ」

彼女は俺の前で立ち止まり、そう答えた。

「エンシェント・ツリー?

偉大なる王と、その弟アルドに計り知れない力を与えたという、あの樹か?

どうしてそんな存在が……それに、俺に何の用だ?」

俺は警戒して構えを取った。

彼女は小さく微笑んだ。

「あなたはまだ、学ぶべきことの多い一人の少年にすぎないわ。

そして私がここにいるのは……すべてが、私の過ちだから」

「どういう意味だ?」

「王国が危機に瀕した時、二人の兄弟は純粋で善なる心を持って、ここへやって来た。

私は彼らを哀れに思い、頂へ登ることを許してしまった。

それが、最大の過ちだったの」

彼女は静かな眼差しで俺を見つめた。

まるで、俺の心の奥に渦巻く不安をすべて理解しているかのように。

「私は謝罪のためだけに来たのではないわ」

彼女は静かに続ける。

「あなたの時が来たの。カエリン。想像の指輪の継承者として」

俺は拳を強く握った。

「全部あんたのせいだって言うなら……」

声が震える。

「どうして俺が背負わなきゃいけないんだ!?

人は傷つき、俺の大切な人たちは目の前で死んでいった……それなのに……!」

アルヴィナの両親と、ベニーの父の姿が脳裏に蘇る。

息が詰まった。

「どうして……俺が、こんな目に……!」

古代樹の霊は、しばらく沈黙した。

その周囲の温かなオーラが、そよ風のように揺れる。

「世界はね」

彼女は静かに言った。

「最も準備ができた者を選ぶわけではない。

まだ“変われる”者を選ぶの」

「俺は望んでない!」

堪えていた怒りが爆発した。

「普通に生きたかっただけだ!

でも、この指輪のせいで……タムズ、ルグレス、狂った運命のせいで、全部奪われた!」

闇が震え、感情に呼応するように歪んだ。

「ええ」

彼女は優しく頷いた。

「理不尽よ」

その言葉に、俺は息を呑んだ。

否定も、綺麗事もなかった。ただの事実。

「でも、カエリン」

彼女は続ける。

「闇の指輪を止めなければ、壊れるのはあなたの人生だけじゃない。

すべてのクラン、すべての並行世界が、ひとつずつ崩壊していく」

「並行世界……?」

彼女が手を掲げると、虚無は一変した。

異なる空、異なる色の大地、崩れゆく世界、闇に沈む都市——。

「各クランは、それぞれ異なる世界に存在している」

彼女は説明する。

「人間の世界も、並行世界の一部。

指輪の均衡によって、すべては繋がっているの。

一つが完全に闇へ堕ちれば、破滅の連鎖が始まる」

俺は唾を飲み込んだ。

「……何も知らない人たちも?」

「ええ」

怒りは、次第に恐怖へと変わっていった。

自分のためではない。

選ばれなかった、無関係な人々のための恐怖だ。

「私は指輪の使い手たちを導きたい」

古代樹の霊は言った。

「過去の過ちを償うためでもあり、無数の命を守るためでもある。

ルグレスとリンを、決して解放させないために」

長い沈黙が流れた。

拒めば、すべては終わる。

受け入れれば、背負いきれない重荷を抱える。

「……全部、嫌だ」

俺は低く呟いた。

「でも……俺が逃げたせいで、誰かが苦しむのは、もっと嫌だ」

彼女は微笑んだ。

それは安堵ではなく、希望に満ちた笑みだった。

「その選択こそが、あなたを相応しい者にする」

彼女は近づき、指先で俺の額に触れた。

温もりが広がり、やがて繊細な刻印のような感覚に変わる。

痛みはない。ただ、力が整えられていく感覚。

「これはエンシェント・ツリーの刻印」

彼女は告げた。

「力を増やすものではない。制御するためのものよ。

もう、感情だけで力が暴走することはない」

白く青い光が瞬き、やがて消えた。

「想像で指輪を使いなさい。感情ではなく」

それが最後の言葉だった。

「そして忘れないで、カエリン。あなたは一人じゃない」

彼女の姿は闇に溶け、消えていった。

「……ありがとう」

そう呟いた瞬間——

「カエリン!」

俺ははっと目を開けた。

自然の光が眩しく、澄んだ空気が肺を満たす。

柔らかな草の上に横たわる俺の傍で、ルンが膝をついていた。

その後ろには、俺の妹が涙を浮かべながら、服の裾を握って立っている。

「妹!?」

俺は飛び起きた。

「無事か!?」

彼女は勢いよく頷き、俺にしがみついた。

その時になって、俺は気づいた——

彼女をポータルに連れて行くのを、忘れていたことに。

「どうして……ここに?」

驚きながら尋ねる。

「タムズが強大な力を使った瞬間、私の拘束が壊れたの」

ルンは左腕を押さえながら答えた。

「逃げようとした時、この子が泣いているのを見て……体が勝手に動いた。

そのままポータルに飛び込んだの」

俺は反射的にアルヴィナを抱きしめた。

無意識だった。

アルヴィナは驚き、顔が一瞬で真っ赤になる。

「妹を助けてくれて……ありがとう」

次の瞬間——

「バカ!」

俺は勢いよく投げ飛ばされた。

「なんでいきなりそんなことするのよ!

人間は本当に下等な生き物ね!」

俺は痛みに呻きながら、小さく笑い、慌てて謝った。

胸いっぱいに、安堵が広がっていく。

俺は、また失うところだった。

……そして、ようやく周囲を見渡した。

目の前に広がる光景に、言葉を失う。

金色に輝く葉を持つ巨木。

光のように澄んだ川。

青緑色の空が、魂を癒すように穏やかに輝いている。

高くそびえる山々と、その周囲をゆっくり流れる雲。

「ここが……」

俺は息を呑んだ。

「ALLAM……」

すべての混乱が始まって以来、初めて思えた。

——まだ、希望は残っている。

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