レイヤー23
「いいだろう。選択しろ……自ら差し出されるか、それとも俺が力ずくで奪うか?」
タムズは不気味な表情を浮かべた。
「私たちは闇になど屈しない。今ここで、あなたを消し去る!」
アルヴィナの母が構えを取り、アルヴィナの父も同じく杖をタムズへ向ける。
「この世界は、闇が消え去った方がよほど良くなる!」
「子どもたちはポータルへ入りなさい。私たち二人で——」
「三人だ。」
ベニーの父が口を挟み、超高度な兵器――レーザーピストルを構えた。
「私たち三人でタムズを引き受ける。君たちは急いでALLAMクランへ向かえ!」
アルヴィナの母が叫ぶ。
「お母さん! お父さん! 嫌よ、あなたたちを置いていけない!」
アルヴィナは必死に叫んだ。
「人間というのは、本当に無駄口が多いな。」
タムズの腕にはめられた巨大な輪が回転し始め、薄く、黒い煙が立ち上る。
「本当の闇というものを見せてやろう。」
タムズの姿が消えた。
――シュッ!
次の瞬間、タムズはベニーの父とアルヴィナの両親の前に現れた。
「絶望の霧――スモーク・グレイブ!」
タムズの手から大量の煙が噴き出し、三人を包み込む。毒の霧だ。
ベニーの父とアルヴィナの両親は激しく咳き込み始めた。
少し後方で、アルヴィナは強い不安に駆られ、両親のもとへ駆け出そうとしたが、ベニーが彼女を止めた。
「ダメだ! 僕たちじゃ敵わない!」
「俺が……力を使う!」
怒りに歯を食いしばり、拳を強く握る。しかし力を解放しようとした瞬間、頭に激しい痛みが走り、俺は膝をついた。
「無理をするな、カエリン。お前の力には本来限界はないが……今のお前は、すでに限界に達している。」
ベニーが言った。
くそっ……!
俺は硬い床を思い切り叩いた。
「俺の霧の中で死ね!」
その時、煙の中心から淡い緑色の光が現れた。
根のようなものが突如タムズへ襲いかかるが、彼は軽々とかわす。
煙が徐々に晴れ、三人の大人の姿が再び現れた。
しかし彼らの目は赤く充血し、血を吐くほど咳き込んでいた。
「お父さん! お母さん!」
アルヴィナが叫ぶ。
「なぜ……まだ行っていないの……」
アルヴィナの母は、言葉を発するのも苦しそうだった。
「まだ生きているのか?」
タムズは笑った。
「ならば敬意を表してやろう。お前たちは、我が主ルグレス解放計画における、最重要の“資産”となるのだから。」
タムズは流れるような美しい動きで武術の型を始める。
やがて濃い青色のオーラが彼を包み込み、巨大な輪は青い光を放ち始めた。
俺は息を呑んだ。
その濃紺のオーラは、見えない重圧となって胸を押し潰す。
タムズの腕の輪はさらに高速で回転し、低い唸りが耳鳴りを引き起こす。
「カエリン!」
アルヴィナの母の声は震えていたが、力強かった。
「よく聞きなさい。あなたたち三人は、今すぐ行くの!」
「お父さん、お母さん、私は——」
アルヴィナは一歩前に出る。目には涙が溢れていた。
父は即座に振り向き、厳しくも愛情に満ちた眼差しで言った。
「アルヴィナ、意地を張るな。君たちがここに残れば、私たちの犠牲が無駄になる。」
ベニーの父も前へ出て、赤金色に輝くレーザーピストルを構える。
「ベニー、一度でいい、父の言うことを聞け。皆を守れ。ポータルのことを一番理解しているのはお前だ。」
ベニーは歯を食いしばり、震える手で頷いた。
「……わかった。」
俺は叫びたかった。
まだ戦えると、ここに残ると。
だが再び頭痛が走り、体は言うことを聞かなかった。
彼らは、それを分かっていた。
「行きなさい!」
アルヴィナの母が叫ぶ。
「あなたたちの命の方が大切なの!」
タムズは薄く笑った。
「感動的な別れだ。だが——時間切れだ。」
一瞬で、彼はまた消えた。
「今だ!」
アルヴィナの父が怒鳴る。
三人は同時に動いた。
父の自然の杖が地面を打ち、根と岩の壁がそびえ立つ。
母は両手を掲げ、緑の風が渦となって防壁を作る。
ベニーの父は正確無比な光弾を放ち、タムズを強制的に前方へ引きずり出した。
最初の衝突は、雷鳴のような音を立てた。
ベニーに引かれ、俺たちは光を放つポータルへ向かう。
アルヴィナは何度も振り返り、前を向こうとしなかった。
視界の端で、三人が全力でタムズを食い止めているのが見える。
光と闇が激突し、残されたカエリンの家は激しく揺れた。
一瞬だけ——
彼らは伝説のように、圧倒的に強く見えた。
だが、タムズの輪がさらに強く輝いた。
「抑圧のオーラ。」
青い衝撃波が放たれる。
根の壁は砕け、風の渦は裂け、レーザーは弾き飛ばされた。
三人は後方へ吹き飛ばされる。
肺から空気を無理やり吐き出されるような、押し殺した悲鳴が聞こえた。
「お父さん! お母さん!!」
アルヴィナは錯乱したように叫ぶ。
俺は走り出そうとしたが、ベニーが両手で俺を止めた。
「カエリン、ダメだ! 今行けば……本当に死ぬ!」
三人は、満身創痍で立ち上がった。
血がこめかみや腕を伝い、服は裂け、息は荒い。
それでも彼らは立っていた。
俺たちとタムズの間に。
「……もう、振り返らないで……」
アルヴィナの母は、かすかな笑みを浮かべた。
「お願い……」
ベニーの父は一瞬こちらを見て、再び銃を構えた。
「命令だ。」
タムズが一歩踏み出し、その影が光を飲み込む。
「勇敢だな。」
「だが、勇気では結果は変わらない。」
最後の衝突が起きた。
誰が先に仕掛けたのかは分からない。
光が視界を覆い尽くす。
眩しさが収まった時、三人は倒れていた。
生きてはいる。だが、床は血で染まっていた。
「……ベニー……」
父のかすれた声。
背後のポータルが震え、閉じ始める。
アルヴィナは声も出せず、ただ涙を流していた。
俺は最後に一度だけ振り返る。
彼らの姿を、心に深く刻み込むために。
――俺たちが生きて去るために、立ち続けた人たち。
ポータルの光が、俺たちを飲み込んだ。
そして世界が回転する中、ひとつの想いが胸に焼き付いた。
この血の借りは——
いつか、必ず俺が返す。




