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究極のカオスリング   作者: I.A. Janovit
22/24

レイヤー21

夜の街の景色は、息をのむほど美しかった。

高くそびえる摩天楼、街の隅々まで照らす無数の灯り。

そして、闇夜に優しく輝く満月と、広く散りばめられた星々。

その摩天楼のひとつ、その頂に――

黒い煙が集まり、やがて一人の姿を形作った。

タムズ。

両腕に装着された三つの巨大な腕輪が微かに蠢き、

長く白い髪が夜風に揺れる。

「見ろ、この下位クランの小さく美しい街を」

タムズは嘲るように呟く。

「連中は皆、蟻に過ぎん。力もなければ、進んだ技術もない。

だからこそ、多くが闇に呑まれるのだ」

タムズは一人、低く笑った。

――ピリリ。

彼の腕時計が鳴る。

《着信:スクリヴァー》

タムズはそのまま操作した。

「ようやく姿を現したか。

で、貴様と“月の姫”はどこにいる?」

『どこかに拘束されているようだが、座標は送れる』

通信の向こうの声。

それは、トカゲとタコ、そして蛇が混ざったような異形の存在だった。

『指輪の所有者も、どうやらここにいる……

人間どもは知らんだろうが、今の俺はレーダーに感知されない簡易装置を作れる』

タムズは口元を歪める。

「俺が急いで“想像の指輪”を奪わなかった理由が分かるか、スクリヴァー?」

異形は首を横に振った。

「まさか……

《ALLAMクラン》への門を開く“鍵”を見つけるとはな」

タムズの瞳が妖しく光る。

「俺は見つけた。

セレスティアル女王の“純血”をな」

再び、彼の笑い声が夜に溶けた。

********

意識が、ゆっくりと戻ってきた。

突然の激痛ではなく、

胸を押さえつけるような重圧――

あまりにも現実的すぎる悪夢から、目覚める感覚。

俺は目を開けた。

見知らぬ天井。

濃い灰色で、機械の骨組みのような奇妙な線が走っている。

冷たく白い灯りが吊るされ、無機質に輝いていた。

「……ここは……どこだ……?」

起き上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。

震える腕で体を支えた瞬間、

崩れた家、タムズ、そして妹の叫びが一気に脳裏を駆け抜けた。

妹――。

俺は跳ね起きる。

「妹は……!」

掠れた声。焦燥。

視線を走らせる。

広いが、何もない部屋。金属の壁。

取っ手のない、固く閉ざされた扉。窓はない。

そして――見つけた。

部屋の隅、影に溶けるように置かれた透明な箱。

中にいる者が、ほとんど身動きできないほど狭い。

その中に――

「……ルン?」

彼女は膝を抱え、俯いて座っていた。

銀色の髪は乱れ、顔色は悪い。

それでも――その瞳は、まだ生きていた。

俺の声に、彼女は顔を上げる。

「目、覚めたのね」

静かな声。

俺は反射的に駆け寄り、箱に手を当てる。

冷たい。

「妹は?」

声が震える。

「無事なんだろ……?」

ルンは数秒、俺を見つめた。

落ち着いた表情の奥に、張り詰めた緊張が見える。

「無事よ」

やがて、そう答えた。

「アルヴィナの両親が連れて行った。

……今のところは、安全」

膝から力が抜けた。

俺はその場に座り込む。

呼吸が乱れ、頭を抱える。

「……よかった……」

だが、安堵はすぐに消えた。

代わりに、罪悪感が胸を満たす。

「全部……俺のせいだ」

小さく呟く。

「この、馬鹿な指輪のせいで」

指にはまった“想像の指輪”を見つめる。

あまりにも静かで、無害そうで――

だからこそ、腹が立った。

「制御できない。弱い。考えなしだ……」

声が震える。

「もし、俺がこれを持ってなければ……

父さんと母さんは――」

言葉が、止まった。

重すぎて、口にできない。

ルンは箱越しに俺を見つめる。

その表情が、僅かに変わった。

視線が、柔らぐ。

「カエリン」

彼女が静かに呼ぶ。

俺は答えない。

「分かるわ」

彼女は続けた。

「力を責めて、自分を責めて……

“もっと強ければ”って、何度も思う気持ち」

俺は顔を上げた。

「お前には分からない」

苦々しく言う。

「その場に、いなかったくせに」

彼女は、かすかに微笑んだ。

喜びのない、何度も傷ついた者の笑み。

「……思っている以上に、知ってるわ」

穏やかな声。

「あなたが想像しているより、ずっと」

それ以上、彼女は語らなかった。

そして――なぜか俺も、問い詰めなかった。

その瞳に、古い傷があった。

語られない、深い喪失が。

俺は長く息を吐き、立ち上がる。

箱に背を預けた。

「変だな」

呟く。

「何が?」

ルンが聞く。

「いつも冷たくて、鬱陶しくて、強がってるくせに」

正直に言った。

「今は……すごく疲れて見える」

彼女は黙った。

「肩は張ってる。でも呼吸が乱れてる」

無意識に続ける。

「怖さを押し殺してる人の癖だ。

でも目は……パニックじゃない。

ただ、疲れてる」

ルンは、しばらく俺を見つめた。

「……よく見てるのね」

そう言った。

「そうしないと、何度も死んでた」

短く答える。

沈黙。

やがて、ルンは箱の内側で身を寄せ、

透明な壁越しに、俺のすぐ隣に並んだ。

「あなたは、もう一人じゃない」

静かな声。

「今日は負けたかもしれない。

指輪が呪いに思えるかもしれない。

でも……あなたは立ってる。

それは、まだ希望があるってこと」

俺の手が、無意識に壁に触れた。

近い――。

ほんの一瞬、世界が静まり返った。

――ピッ。

壁のパネルから電子音。

俺は素早く振り向く。

小さなモニターが点灯し、影が映る。

あの異形――スクリヴァー。

『……座標は送信した』

その声が響く。

『指輪の所有者は目覚めた』

心臓が跳ねる。

「クソ……!」

「没収したはずなのに、どうやって通信を……!」

――ドン!

ベニーがスクリヴァーを殴り倒す。

異形は再び気を失い、モニターは消えた。

ベニーは即座に装置を破壊する。

「まずいぞ!」

ベニーが叫ぶ。

「父さん! 位置がバレた!

こいつが“あいつ”に座標を送った!」

俺は、ベニーの父の驚く声を聞いた。

続いて、アルヴィナの両親、そしてアルヴィナ自身の足音。

――確信した。

俺たちに、

もう時間は残されていない。

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