レイヤー19
胸が締めつけられるように苦しい。妹を抱く手が激しく震え、抑えきれない涙が頬を伝った。
悲しみ、怒り、そして憎しみ――それらが一気に押し寄せ、心の中で絡み合う。
その化け物は階段の上から俺を見下ろしていた。
巨大な身体が照明の光を遮り、口元からはまだ血が滴っている。
「……ようやく現れたか」
掠れた声でそう言った。
「イマジネーションの指輪の所有者よ」
俺は妹をそっと物置の扉の陰へと下ろした。
頭に手を置き、必死に笑顔を作る――きっと、ひどい顔をしていただろうが。
「出るな。何があっても、ここにいろ」
俺は立ち上がった。
怒りが、爆発した。
「やったのはお前か!
必ず……必ず償わせてやる!!」
叫んだ瞬間、指にはめた指輪が眩い光を放った。
以前とは比べものにならないほどの、白銀の光。
それは規則なく脈打ち、無理やり鼓動させられている心臓のようだった。
考える暇もなく、俺は駆け出した。
床が足元でひび割れ、壁が揺れる。
暴走する想像力が形を成す――
巨大な剣、巨大な盾、炎と鋼が混ざり合った影。
だが、それらすべてが……不安定だった。
「愚かだな」
化け物は低く呟き、
片手を上げただけだった。
――ドンッ!!
身体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
息が一気に詰まり、作り出した剣はガラスのように砕け散り、盾も一瞬で消え去った。
頭が激しく痛み、視界が半分闇に沈む。
立ち上がろうとして――できなかった。
「弱いな」
近づきながら、冷たく言い放つ。
「制御できぬ想像力は、持ち主にとって毒でしかない」
首を掴まれ、片手で持ち上げられる。
足が宙に浮き、肺が焼けるように苦しい。
「これが最強の指輪の継承者か?
――イマジネーションの指輪、か」
指輪が不安そうに瞬き、そして光を失った。
……俺は、負けた。
あまりにも、あっけなく。
頭の中に浮かんだのは、ただ一つ――
俺は、誰も守れない。
その瞬間――
上階の窓から激しい風が吹き込み、
緑の葉が渦を巻くように舞い上がった。
続いて、植物の根が床や壁を突き破って伸びてくる。
「――その子を放しなさい」
凛とした声が響いた。
化け物が振り向く。
壊れた扉の向こうに立っていたのは、
中年の男女――二人の人影。
その瞳は静かだが、周囲に満ちる力は……生きているかのようだった。
大地が震える。
「父さん……母さん……?」
俺は小さく呟いた。
違う。
それは――アルヴィナの両親だった。
女性が手を掲げる。
瞬時に植物の蔓が化け物の腕に絡みつき、強引に拘束する。
俺は床へ落ち、激しく咳き込んだ。
男は持っていた木の杖を地面に叩きつける。
巨大な根が地中から現れ、敵の動きを封じた。
「お前はこの世界に存在すべきではない」
男は冷ややかに言う。
「そして、場所を間違えたな」
化け物が唸り、必死に抵抗する。
俺はその場に座り込んだまま、荒い呼吸を整えようとした。
頭はふらつき、全身が痛む。
アルヴィナの両親は、俺の前に立ち、盾となっていた。
「生きているわ、カエリン」
女性は振り向かず、優しく言った。
「それで、今は十分よ」
「自然の力だと?
そんなもので俺を止められると思うな、人間ども!」
化け物が咆哮する。
根は焼かれ、腕からは黒い炎が噴き出した。
「……ハグ。ルグレスの配下ね」
アルヴィナの母が指を突きつける。
「友から聞いているわ」
その巨体はまだ人の形をしているが――人ではない。
「呪われた存在、死霧のクラン。
あなたたちはいつも、世界並行宇宙に恐怖と惨劇を撒き散らす!」
「あなたは私の親友を殺し、
その子どもから両親を奪った……」
「もう十分よ。
あなたのような存在を消し去る時が来たの。
この指輪を、そう簡単に渡すと思わないで!」
「いいだろう……試してやる」
ハグの身体を闇のオーラが包み込み、
黒炎がさらに激しく燃え上がる。
灼熱の気配が空気を歪めた。
「――どれほど耐えられるか、見せてもらおう!!」
そう叫ぶと同時に、
ハグは前方へと突進した。
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