レイヤー1
学校のチャイムが鳴り響き、休み時間が始まった。
生徒たちは先ほどまでの頭痛を忘れるかのように、教室から一斉に飛び出していく。特に授業が数学や物理だった日には、その勢いはなおさらだ。
「俺、お前のこと好きだ!」
一人の男子生徒が、ある少女に告白した。
――アルヴィナ。俺の女友達だ。
「ごめん!もう彼氏いるの!」
そう言うとアルヴィナは、後ろの席に座っていた男子の手を突然握った。
その“彼氏”とやらは――俺だった。
「この人が、私の彼氏だから!」
そう言って、わざとらしく俺に甘えてくる。
事情を何も知らない告白した男子は、その場で失恋。
表情はあまりにも哀れで、冷や汗をかきながら今にも倒れそうだった。
「アルヴィナ・ザハラ!
さっきみたいなことに俺を巻き込むの、いい加減やめてくれない?
変な噂、もう山ほど聞いてるんだけど!」
俺は額を押さえた。
「なに言ってんの。ゴシップでしょ?平気平気。」
アルヴィナは手をひらひら振る。
「ただの噂、ね?」
俺はスマホを操作し、学校コミュニティ専用の公式ニュースサイトを見せた。
――
《空想癖のある男子、人気女子と交際中!?
七不思議を超える奇跡》
――
「お前がああいうこと繰り返すせいで、新聞部が完全に俺をロックオンしてるんだぞ!
トイレ行くだけで、ノート持った記者が三人も待ち伏せしてたんだぞ!?
それに……鼻ほじっただけで記事になるって、どういうことだよ!?」
俺は叫んだ。
「ネタ切れなんじゃない?
でもさ、注目されるのも悪くないよ?」
アルヴィナは悪びれもなく笑う。
俺は指を鳴らした。
次の瞬間、空中におもちゃのハンマーが現れ、アルヴィナの頭上に浮かぶ。
――ゴンッ!
そこそこ強めに叩かれ、アルヴィナが抗議の声を上げる。
俺は満足そうに微笑んだ。
「最終警告だ。
次に同じことしたら……ベニーに“あの秘密”を全部バラすからな。」
俺は邪悪に笑った。
「カエリン、ひどい!それだけはダメ!」
アルヴィナは泣きつくように、俺の体を揺さぶる。
「二人とも、うるさい。
読書の邪魔なんだけど。」
割って入ったのは、少年――ベニー・アンダラ。
俺の男友達だ。
簡単に言えば、俺、アルヴィナ、ベニーは、物心つく前――
まだおむつをしていた頃からの幼なじみだ。
親同士が中学時代からの知り合いで、ずっと交流があったからだ。
「聞けよベン、このアルヴィナが――」
そう言いかけた瞬間、アルヴィナが俺の口を塞ぐ。
「死にたいの!?」
低い声で脅してくる。
俺たちのやり取りは、一見すれば“普通の青春”に見えるかもしれない。
だが、それは大きな間違いだ。
もし“最優秀アノマリー賞”なんてものが存在したなら、
俺たち三人は確実にノミネートされる。
まず――ベニー。
天才の中の天才。
男子としてはアウトなほど長い髪のせいで、何度も生活指導を受けているが、
生徒指導部も今では完全に諦めている。
理由は単純だ。
彼は、学校史上最多の科学オリンピック優勝者だから。
小学生の頃には、すでに高校、いや大学レベルの問題を理解していた。
それを知った俺は、本気で言葉を失った。
それだけじゃない。
小学生の時点で、彼は高度な技術を用いたミニロケットまで作っていた。
名門校や有名大学からのスカウトも数え切れないほどあったが、
なぜかすべて断っているらしい。理由は誰も知らない。
次に――アルヴィナ。
小柄な体型にショートカット、いつも明るい笑顔。
だがその裏で、彼女は“全スポーツ制覇者”だ。
家にはトロフィーが所狭しと並び、
アイススケート、バレー、バスケ、乗馬、アーチェリー、
さらにはあらゆる武術まで網羅している。
もし彼女に恋して付き合いたいと思うなら、
最低限、高レベルの脚力と反射神経は必須だ。
少しでもミスれば――
ヤンデレのように豹変し、即死コースである。
そして最後に――俺。
俺が一番、異常だ。
文章や漫画が得意、という話ではない。
問題はそこじゃない。
俺には――
想像したことを現実にする力がある。
頭に思い浮かべたことは、99%の確率で実現する。
例えば数学の授業中、眠気に耐えられず、
教師の頭がニワトリになるところを想像した。
――次の瞬間、本当にそうなった。
この力の存在を知っているのは、
俺と二人の親友、そして両親たちだけだ。
初めて力が暴走したとき、
たまたま診察していた医師がベニーの父親で、
さらにアルヴィナの両親も同じ病院にいた。
検査を終えた後、ベニーの父はこう言った。
「この力は極めて不安定だ。
彼はいつ死んでもおかしくない。
脳が“非現実”に耐えきれない。
いつ爆発しても不思議じゃない。」
俺は――
“想像を現実にする存在”だった。
だが、救いはあった。
両親が“治癒装置”と呼ぶ、一つの指輪。
菱形のデザインに、正体不明の模様が刻まれている。
それのおかげで、俺は今も生きている。
「で?何を言おうとしてたんだ、カエリン?」
「いや、別に――」
「いつもの“特殊能力”の話でしょ。
今朝なんて、トカゲが空飛んでて、
その背中にカエルが乗ってたとか。」
アルヴィナが即答する。
ベニーは呆れたように目を回した。
「どうでもいい。
それよりアルヴィナ、“特殊能力”って大声で言うな。
そのうち『精神病院の患者が通う学校』とか記事にされて、
本当に連れて来られるぞ。」
その一言で、アルヴィナは笑いを堪えきれず、手を離した。
「笑ってんじゃねぇ!」
俺はキレた。
これが、俺たちの日常だ。
毎日が、笑いに満ちている。
――だが。
誰も予想していなかった。
人通りのない路地に、突如として転移の裂け目が開いた。
そこから現れたのは、黒いローブを纏った三つの影。
そのうち一人が指を鳴らすと、
空中にホログラム画面が展開される。
《Location:Unknown》
「さて、二人とも。仕事の時間だ。」
そう言ったリーダー格の男から、禍々しい気配が溢れ出す。
彼の瞳は、濃く混ざり合った紫と黒に光っていた。
「――二人の王の覚醒が、俺たちを待っている。」




